吟遊詩人の依頼人

 ヴェンデルベルト(柑橘) [2015/10/03 23:31:13] 
 

その日、私はティキと火竜の手羽先亭で落ち合った。渡したいものがあったのだ。

「こんにち...おや、随分と賑やかですね」

どうやら、あるパーティーが遺跡で一山当てたらしい。遺跡。魅惑の響きだ。私も思う存分潜って見たいものである。

「奢り?それは豪気ですね。では遠慮なく」

案内してくれたコカゲ嬢にお礼を言って、サンドイッチを頼む。贅沢にもローストビーフサンドだ。それにワインを添えることにした。


◇ ◇ ◇


「と言うわけで、この連休を利用して温泉に行ってきたんですよ。【お風呂好き同盟】のメンバーと」

私は【探求者《Seekers》】ではあるが、同時に【お風呂好き同盟】の盟主でもある。
風呂や温泉が好きなのだが、生憎とルキスラには温泉がなかったので、遠出をしてきたのだ。

「良かったらどうぞ」

ぱかりと明けた紙製の箱の中身は『温泉饅頭』と言うもので、温泉の蒸気を利用して蒸されたお菓子だ。あんこと言う豆を甘く煮たものが入っていて、半分が粒あん。もう半分がこしあんである。
騒がしい間をぬって厨房から湯を貰い、饅頭に合うと言う『緑茶』も入れた差し出した。

「うむ、やはりこしあんが良いですね、私は」

温泉街でも食べたのだが、触感が滑らかこしあんの方が私の好みだった。
もふもふと1つ食べ終わり、苦味のある茶をすする。ねっとりとした甘さが、爽やかに流れて行った。
うむ、これは良いものだ。

「さて、ちょっとお話を聞かせてもらいに行ってきましょうかね」

温泉饅頭をいくつか皿に乗せ、盛り上がりを見せる宴会の中心へ向かおう。

「もし、宜しければ遺跡でのお話を聞かせていただけませんか?」

知的好奇心とは、いつも私を突き動かす動力源となるのだ。


◇ ◇ ◇


ナゴーヤ殿に呼ばれ、話を聞かせてくれた彼らに礼を言って別れた。
オレット・フォルバードと名乗った華やかな彼は、吟遊詩人だと言う。名乗りには名乗りを返して、私は一緒に紹介された3人と話を聞くことになった。
勿論、ティキも一緒だ。エクセターがこの場にいないのが残念だった。

>「コンチェルティアに訪れたことはあるかい?
> あの街の近くに森があるんだ。
> そこまで僕を案内して欲しいんだ......今の僕はあんまり強くないからね」

「"花開く街"コンチェルティア、ですか?生憎とまだですね」

芸術家の卵たちが集う場所だ。興味はあったが機会はなく、いまだ訪れたことのない場所のひとつ。
彼が行きたいのはその近くにある森だと言う。

>「それでも、僕は可能性に賭けてみたい......そう思ってる」

その言葉を聞いて、私の心は決まった。
真偽の分からぬものを求める気持ちは、私には身近なものだったからだ。

>「どうかお願いします。
> 前もって渡せるお金はありませんが、結果によらずお礼はさせていただきます。
> だから......僕に皆さんの力を貸してください」

「分かりました。【探求者《Seekers》】が一人、ヴェンデルベルト・S・ライゼトラウムはこの依頼をお受けします。
 道中、色々お話を聞かせてくださいね。特に、あなたが『助けたい』方のことを」

胸に手を当てて、ゆったりと一礼する。私はこの依頼人に興味を持ったのだ。
依頼を受けるのは、それで十分なのである。

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PL柑橘より
それでは、よろしくお願いします!