吟遊詩人の依頼人
その日、私はティキと火竜の手羽先亭で落ち合った。渡したいものがあったのだ。
「こんにち...おや、随分と賑やかですね」
どうやら、あるパーティーが遺跡で一山当てたらしい。遺跡。魅惑の響きだ。私も思う存分潜って見たいものである。
「奢り?それは豪気ですね。では遠慮なく」
案内してくれたコカゲ嬢にお礼を言って、サンドイッチを頼む。贅沢にもローストビーフサンドだ。それにワインを添えることにした。
◇ ◇ ◇
「と言うわけで、この連休を利用して温泉に行ってきたんですよ。【お風呂好き同盟】のメンバーと」
私は【探求者《Seekers》】ではあるが、同時に【お風呂好き同盟】の盟主でもある。
風呂や温泉が好きなのだが、生憎とルキスラには温泉がなかったので、遠出をしてきたのだ。
「良かったらどうぞ」
ぱかりと明けた紙製の箱の中身は『温泉饅頭』と言うもので、温泉の蒸気を利用して蒸されたお菓子だ。あんこと言う豆を甘く煮たものが入っていて、半分が粒あん。もう半分がこしあんである。
騒がしい間をぬって厨房から湯を貰い、饅頭に合うと言う『緑茶』も入れた差し出した。
「うむ、やはりこしあんが良いですね、私は」
温泉街でも食べたのだが、触感が滑らかこしあんの方が私の好みだった。
もふもふと1つ食べ終わり、苦味のある茶をすする。ねっとりとした甘さが、爽やかに流れて行った。
うむ、これは良いものだ。
「さて、ちょっとお話を聞かせてもらいに行ってきましょうかね」
温泉饅頭をいくつか皿に乗せ、盛り上がりを見せる宴会の中心へ向かおう。
「もし、宜しければ遺跡でのお話を聞かせていただけませんか?」
知的好奇心とは、いつも私を突き動かす動力源となるのだ。
◇ ◇ ◇
ナゴーヤ殿に呼ばれ、話を聞かせてくれた彼らに礼を言って別れた。
オレット・フォルバードと名乗った華やかな彼は、吟遊詩人だと言う。名乗りには名乗りを返して、私は一緒に紹介された3人と話を聞くことになった。
勿論、ティキも一緒だ。エクセターがこの場にいないのが残念だった。
>「コンチェルティアに訪れたことはあるかい?
> あの街の近くに森があるんだ。
> そこまで僕を案内して欲しいんだ......今の僕はあんまり強くないからね」
「"花開く街"コンチェルティア、ですか?生憎とまだですね」
芸術家の卵たちが集う場所だ。興味はあったが機会はなく、いまだ訪れたことのない場所のひとつ。
彼が行きたいのはその近くにある森だと言う。
>「それでも、僕は可能性に賭けてみたい......そう思ってる」
その言葉を聞いて、私の心は決まった。
真偽の分からぬものを求める気持ちは、私には身近なものだったからだ。
>「どうかお願いします。
> 前もって渡せるお金はありませんが、結果によらずお礼はさせていただきます。
> だから......僕に皆さんの力を貸してください」
「分かりました。【探求者《Seekers》】が一人、ヴェンデルベルト・S・ライゼトラウムはこの依頼をお受けします。
道中、色々お話を聞かせてくださいね。特に、あなたが『助けたい』方のことを」
胸に手を当てて、ゆったりと一礼する。私はこの依頼人に興味を持ったのだ。
依頼を受けるのは、それで十分なのである。
―――――――――――――――――――――――――――――
PL柑橘より
それでは、よろしくお願いします!