出会いがしらの...
いくつか、大きめのキャンディを先に決めてしまって渡すと、おばさんはにっこりした。
>「買ってくれてありがとうね。
ユーレリアに行ってきたのかい?
いいねぇ......あたしも温泉に行きたいもんだよ。
でも、この街もやっぱりなかなかいい街だろう......最近は物騒だけどねぇ」
......物騒?こんなに美しい街が?
いっしゅん、おもわずキャンディをえらぶ手をとめて、おばさんを見あげた。
街の6つの区画分けについては、こう教えてくれた。
>「うん、その通り。この街は大きく六つに分けられているんだよ。
神殿とかお役所がある1番街。貴族や昔からの商人が住んでる2番街。
冒険者の店や宿が多い3番街。劇場や展示場がある4番街。
んで、あたしみたいな普通の人がよく住んでる5番街。
最後が色んな芸術家たちが集まってくる6番街だねぇ」
芸術だけじゃなくて、神殿もコンチェルティアの中心をなしているみたいだ。...1番街ってことは、たぶん、そうなんじゃないかな。
どんな信仰がさかんなんだろうか。
それから、芸術家を支援しているのはだれか、って聞いた僕に、おばさんはこう答えてくれた。
>「だいたいは2番街に住んでるお貴族さんか商人さんらかねぇ。
一応街の役所からも、そこそこお金が出てるみたいだよ」
「......たとえば、ヴォルディーク家......」
僕はつぶやく。話にきいたところでは、コンチェルティアの発展を語るうえではかかせないくらい大きな役割をはたしていたけど、数年前、「邪教」の信徒によって壊滅においこまれたとか。
たしか、ひとりだけ、ヴォルディーク家の人で無事な人がいる、とか......。
ちょっと考えこんだ僕を、瓶にキャンディを詰めおわったおばさんがこまった笑顔で見ている。はたと気づいて、あわてて5ガメル渡した。
>「あたしもよくは知らないんだけど、最近この街で事件が起きてるみたいでねぇ。
いつもよりかはちょっと物騒だから、気をつけて観光していってちょうだい」
キャンディの瓶はピンク色の布に包まれて、僕に手わたされた。
「ありがとうございます。......あの、さっきも物騒だ、っておっしゃってましたけど、なにかよくないことでも起こったんですか?」
僕は胸の底のほうがざわざわするのを感じながら、おばさんにそう問いかけた。瓶のなかで、キャンディがこつん、と転がった。
※ ※ ※
キャンディ屋さんのおばさんに話を聞いて、僕は露店のならぶさらに向こう、3番街のほうをよく見ながら、ヴォルディーク通りを北へと向かった。
あきらかに冒険者らしきひとたちが宿を出入りしている。かわった様子はないかな......。
そうこうするうちに、目の前にひらけた空間が見えた。
「ここが、『奏での広場』...」
頭のなかに街の概略図をもういちど広げる。ここがちょうど、コンチェルティアの中心部だったはず。いろんな人たちが行き来している。ぐるっと広場を見わたしてみた。
その瞬間、何かにするどく呼ばれたような気がして、僕はわれ知らず、ばっと体ごと振りむいた。
>「うわ、やべ!」
こっちに走ってくる、人間族の男の子。よけられない。
――だったら。
僕は足をぐっと踏んばり、手をひろげた。
次の瞬間。
ずだぁああん!という衝撃にふっとばされて、僕はごろんごろんと2回か3回くらい転がって止まった。
だめだったかー......。
空を見あげながらぼんやり思う。ああ、雲が高いなぁ......。
とっさに空中に逃げたポチが、僕の胸のうえにとまって顔をのぞきこんでいる。
「だ、だいじょうぶだよ、ポチ...いたた」
男の子を受けとめるつもりで身がまえていた分、ふいを突かれたよりも体にうけたダメージは大きくない。
のそのそと起き上がって、男の子を目でさがした。
>「いてててて......って、あぁ!」
僕たちのまわりには、なんだかいろんなものが散乱していた。男の子のさげていたポーチの中身みたいだ。ああ、たいへんだ...。
僕はもそりとお菓子をひろって、男の子にわたした。
「だいじょうぶ?怪我はない?こんな広場で走ったらあぶないよ...」
ろれつ回ってるかなぁ。どうかなぁ。僕はふわふわする頭のままに、足元に落ちていた羊皮紙をひろい上げた。
「これ、大切な文書?なくしたら、たいへんだよ。何が書いてあるの?」
いまの僕は、ちょっと本音がだだもれになっている。なくしたら心配なのも、文書の中身が気になるのも、ぜんぶ僕の正直な気持ち。
しっかりしなくちゃ。ふるふると首をふって、男の子に羊皮紙をわたす。いちおう、ちらっと手の中の文書を見てはみたけど......。
それから、まわりに散らばったちいさなものをひろって集めて、彼にわたす。怪我はないか、かわった様子がないか、観察しながら。
「ねぇ、どうしてそんなに急いでいたの?お年寄りにでもぶつかったら事故になるところだったよ。何かあったの?」
だんだん意識がしゃきっとしてきた。それと同時に、男の子のただならぬ様子が気になった。こんな人波のなかを全速力で走るなんて、ふつうじゃない。
「僕、これでも冒険者なんだ。よかったら、話してみて?」
いたずらを隠してる弟たちにそうするみたいに、ゆっくり語りかける。怒ってはいない。でも、なぜ彼がこんな危険をおかしたのか、それを知りたいから。
もしかして困りごとだったら、僕が力になれることもあるかもしれない。
僕は首をかしげて男の子の様子を見まもった。
ふと、ゆったりとした声がかかる。
>「元気が良いのは何よりだけど
もう少し周りを見ておかないと怪我をしてしまうよ?」>「...大丈夫かな? どこか痛いところは?」
見あげると、たぶんシャドウの、男の人がゆっくりとこっちに歩みよってきた。
なんていうか...神秘的な雰囲気のひとだ。奇抜ではないけれど、ふしぎな空気を身にまとっていて、そしてまるでそれがごく自然なことかのように泰然としている。
「あ......、だ、だい、だいじょうぶ、です」
僕はなんとなくのまれてしまって、今さらながらぶつけたおでこをさすり、やっとのことでそう返した。
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PL(雪虫)より
GMより、今回に限りみとめていただける、とのことなので、若干時間をひきのばしてキャンディ屋さんに「物騒なこと」について質問します。その後、3番街の冒険者たちのようすをうかがいながら広場へ。
激突した男の子には、「怪我がないか」「なぜそんなに急いでいたのか」を聞きます。
落ちていた羊皮紙にも可能なかぎりの注意をはらっていますが、無断で広げたりはしていません。そのかわり男の子本人にたずねています。
いろいろな味のキャンディひと瓶購入。
所持金43ガメル→38ガメルとなりました。
【判定結果】10月5日 ダイスチャット2で振りました。
00:27:19 雪虫@フィン 危険感知判定 2d6+9
Dice:2D6[1,3]+9=13 00:25:08 雪虫@フィン 見識判定 「ヴォルティーク家」 2d6+8
Dice:2D6[3,2]+8=13