【B2-2】青い貴族
クーガと知り合いだというミハイルにプリアーシェも名乗り返す。
>「プリアーシェです、ミハイルさん。
> クーガさんと一緒に依頼をお受けしました」
「プリアーシェさん......ですか。
綺麗な名前ですね」
初対面であるミハイルがプリアーシェの名の意味なども知る訳もなく、
単純に口に出した際の音の流れがよいということなのであろう。
ここは芸術の街である――彼も何かしらに精通しているのかもしれない。
* * *
貴族や由緒ある商家の建ち並ぶコンチェルティア2番街。
邸宅は皆地味すぎず、かと言って華美すぎず。
優美なメロディーが巡る中を佇んでいた。
先程から耳を抜けるのは――ピアノの音色だろうか。
近くの家から流れてくるものはなかなかお上手である。
その中で一番大きな屋敷こそ、ヴォルディーク家のものである。
玄関門の前に来ると、ミハイルが小さな体でゆっくりと開き、二人を招き入れる。
「さあ、どうぞ。
お入りになってください」
* * *
応接間に通された二人の前に紅茶と菓子が出された。
カップに口をつけてみれば、ちょっと甘めのテイストである。
少しして、扉が開くと共に現れた青い髪の青年。
きりっとした瞳。ただ顔立ちにはまだ幼さの残る。
成人という新たな階段を登って少し経った頃の彼こそが――ヴォルディーク家現当主カイルである。
「依頼を出してみたものの......。
まさかここに来るのはあんただったとはな。正直驚きだ」
カイルが二人の前に座ると、再びメイドが紅茶を持ってくる。
彼はそのままそれを少し口に含む。彼の好みのブレンドであろうか。
「俺はカイル・ヴォルディーク。
あんたがあいつの言ってたプリアーシェか?」
今度はプリアーシェの方へ顔を向ける。
カイルの言う"あいつ"とは間違いなくミハイルのことであろう。
「それで、あんたたちが俺の出した依頼を受けてくれるってことでいいんだよな?」
確認はしたが、答えを待つつもりはないらしい。
既にここにいるということが、答えである。
「あんたたちに調べてもらいたいのは、今この街で連続して起きてる殺しについてだ。
最初に事件が起きたのは今からだとちょうど二週間前......ああ、そうだ。
その前になんでこれが"連続"して起きてるって判断されているかというとだな」
小休止をはさんで。
「殺された奴に共通する特徴があるんだ。
――全員"予言者"だそうだ。勿論自称だけどな」
この街には様々な人間が自らの技を極め、そして披露するために訪れる。
占い師の類の者たちもそれなりにこの街に集っている。
その中に予言者と名乗っていたものもいたということだろう。
そして、そんな彼らが何者かによって命を奪われた。
――言うなれば"予言者連続殺人事件"である。
「正直なところ、俺はこの街でどんな事件が起ころうともそこまで強い関心があるわけじゃない。
街に貢献した一族ってのも昔の話だ――いろいろあってから大切なものはほとんど残ってない。
残っているのは、そう俺と――俺とあと一人だけだ」
カイルの言うあと一人とは――姉のセシリアのことであろう。
ミハイルとカイルの微妙な関係も彼女に関係するものであることは、クーガも多少は知るところである。
そんなセシリアをわざわざ付け足したカイルは信じているのであろう――彼女の無事を。
もっとも"肉親"であれば当然のことかもしれないが。
――そして、そんな彼女には一つの噂がある。
「ただ、今回はそうも言ってらいれない。
名乗っているだけとはいえ"予言者"ばかりが狙われる。
証拠なんて何一つないけれど、俺は確信してる」
――それは。
「今回の事件には"無限の探求者"が関係している、と。
夢で未来を見れた姉さんを狙ったあの時と同じように」
ヴォルディーク家の令嬢セシリアには予知夢の力がある。
これは彼女が無限の探求者に攫われるという事件があった後に広まった噂である。
無限の探求者とはザルツ地方――特にルキスラとコンチェルティア近辺で暗躍している教団だ。
不死神メティシエを信仰しており、儀式の生贄として人々を攫い、
そしてその命を奪っているとして近隣の街の兵からも警戒されている。
無限の探求者には――クーガも少しながら関わりがあり、ミハイルともその出来事からの縁である。
そんなおぞましい無限の探求者がセシリアを攫った理由――それこそが予知能力なのであるという。
人々にとっては噂どまりのことであったが、弟のカイルが言うからには真実なのであろう。
「俺は一刻も早く姉さんを助けたい。だからのんびり衛兵たちに任せるわけにも行かない。
――だから俺はそれなりに実力を知っているあんたら冒険者に頼んだ。
まさか、あの中からあんたが来ることになるとは正直思っていなかったけどな」
そうは言いつつも、クーガに対して不満は特に抱いていないようだ。
それなりに、冒険者としては信用しているということであろうか。
大歓迎している――というわけでもないが。
「あんたらに頼むのは一刻も犯人を早く捕まえて、なんとしてもそいつから情報を得ることだ。
手段は選ばなくたっていい――どうせ人殺しの上に邪教の信者だ。
もしそうでなくても人殺しには変わらないからな」
手段は選ばなくともいいと語るカイル。
その言葉の裏にあるのは、相手が殺人者だからとか邪教徒だからという判断などではなく。
――私怨だ。
なるべく落ち着いてはいるように見せていても、どことなく落ち着かない。
セシリアを助けるために有効な手を打てていないことが大きいのであろう。
「俺はあんたたちに期待している。
特にそっちは正直バカだとは思ってるが、それなりに働いてくれると信用している」
"そっち"とはクーガのことであろうが、"バカ"とは決して頭が悪いと蔑んでいるわけではないようだ。
その言葉の真意は、カイルと――もしかしたらクーガのみが知るところだろうか。
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あんみつ@GMより
ヴォルディーク邸に到着いたしました。
【セシリア・ヴォルディーク】について演者の一覧に登録しておきます。
プリアーシェは目標値15の見識判定に成功すれば、彼女の噂を聞いたことがあります。
クーガは自動成功か判定を行うか選択できます。
プリアーシェは【無限の探求者】について見識判定が可能です。
目標値は13。成功すれば『出立の曲目』に記されたことがわかります。
クーガは判定に自動成功します。
このシーンで特に起こしていただきたい行動はありません。
質問するもよし、喧嘩するもよしでございます。