調査のまえに
> 美人ちゃん、巡回の顔見てみ。緊張感みなぎってら・・・」
クーガさんが言う。
訂正は3度目で諦めた。
こちらもだいたいそのくらいで慣れたので、居心地の悪さもあまりない。
問題はむしろ言葉の後ろ半分なのだけれど、私にはよくわからない。
巡察する衛兵であれば相応に緊張感があるんじゃないかな、くらいなものだ。
たぶん彼には『常と違うなにか』が見えているのだろう。
あまりじろじろと見るのも問題な気がして、ちらりと視線で撫でる程度に、衛兵の顔を見やる。
「――よくわかりません。慣れていないもので」
やはり、私にはよくわからない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
> 「プリアーシェさん......ですか。
> 綺麗な名前ですね」
「ありがとうございます」
ミハイルさんの言葉にお礼を言う。
率直なところ、容姿より名前を褒められるほうが嬉しい。
まあ、容姿は「そういうふうに作られた」、名前は「自分で付けた」という事情があるからなのだけれど。
> あ、そうか。エミールがいっから問題ねぇか。」
ミハイルさんとクーガさんのやり取りのなかで、聞いたことのない名が出てきた。
ひとまず覚えておくことにする。
文脈からすると共通の知人、かつ依頼人と近しい誰か、ということになる。
> けんか腰になるかもしんねぇが、それはそれでいいだろ?
いいわけがない。相手は依頼人だ。
「あまり派手にやらないでくださいね」
クーガさんがこう言うくらいだし、ルキスラでの話の中でもやはりいい関係ではなかった、というのは察せられるのだけれども。
なんでわざわざこんな面倒な相手に依頼を送ってきたのだろう。
依頼人が抱えている問題の経緯を知っているから、ということなのだろうか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
案内された屋敷は、上流階級が住む区画のなかでも最大と言っていい大きさだった。
> 「さあ、どうぞ。
> お入りになってください」
門を開けてくれたミハイルさんに会釈して中へ入る。
茶菓を供してくれた使用人の居住まいといい、内装といい、屋敷の大きさとそこから推察される暮らし向きの内容を裏切らない。
なるほど歴史ある街の有力者とはこういうものか、と思わせる。
現れた依頼人は青い髪に引き締まった顔立ちの青年だった。
旧家の当主としてはまだ若い。
> 「俺はカイル・ヴォルディーク。
> あんたがあいつの言ってたプリアーシェか?」
「はい、プリアーシェといいます、カイルさん」
> 「それで、あんたたちが俺の出した依頼を受けてくれるってことでいいんだよな?」
今更受けませんという話でもないし、まあこれは確認のようなものだろう。
案の定、彼は返事を待たずに話しはじめた。
> 「あんたたちに調べてもらいたいのは、今この街で連続して起きてる殺しについてだ。
> 最初に事件が起きたのは今からだとちょうど二週間前......ああ、そうだ。
> その前になんでこれが"連続"して起きてるって判断されているかというとだな」> 「殺された奴に共通する特徴があるんだ。
> ――全員"予言者"だそうだ。勿論自称だけどな」
最初の発生から2週間。
口ぶりからすると、件数は最低で3、またはそれ以上。
街の規模からするとなかなかの大事件だ。
> 「正直なところ、俺はこの街でどんな事件が起ころうともそこまで強い関心があるわけじゃない。
彼の言いように、少々違和感をおぼえる。
本音であるのかもしれないけれど、それを人前で口に出してはまずいのではないかしら。
いかにも街の治安を案じている風を装う、くらいのほうが有力者としてはやりやすいと思う。
> 「ただ、今回はそうも言ってらいれない。
> 名乗っているだけとはいえ"予言者"ばかりが狙われる。
> 証拠なんて何一つないけれど、俺は確信してる」> 「今回の事件には"無限の探求者"が関係している、と。
> 夢で未来を見れた姉さんを狙ったあの時と同じように」
――なるほど、身内に本物の予言者がいたというわけね。
たしかに、予知夢能力のある予言者の話は聞いたことがある。
そして、「無限の探究者」?
組織かなにかの名前のようだ。
あとで誰かに詳しく聞こう、と心の中でメモしておく。
> 「俺は一刻も早く姉さんを助けたい。だからのんびり衛兵たちに任せるわけにも行かない。
> ――だから俺はそれなりに実力を知っているあんたら冒険者に頼んだ。> 「あんたらに頼むのは一刻も犯人を早く捕まえて、なんとしてもそいつから情報を得ることだ。
> 手段は選ばなくたっていい――どうせ人殺しの上に邪教の信者だ。
> もしそうでなくても人殺しには変わらないからな」
ああこれは相当なにかあったのだろうな、と思わせる台詞だった。
手段を選ぶ必要がない、というのはなかなか言えるものじゃない。
依頼を受ける方としては、わかりやすくていい、と言うべきなのかもしれないけれど。
「いくつか、質問があります」
カイルさんが一通り話を終えたところで、そう口にする。
「まず、事件のこと。次に調査の方針について。それから、私たちが得られる協力について、です」
話を聞きながら頭の中で整理したことを並べていく。
「事件についてですが、まず、これまでに発生した件数を教えてください。
その中に、未遂に終わったものがあれば――つまり、被害者、というか狙われたひとがまだ生きている事件があれば、それも」
「それから、それぞれの事件について、起きた日と時間、場所、被害に遭われた方のお名前や歳、性別、簡単なプロフィールを知りたく思います。
全員が予言者、というお話でしたが、ほかに共通点や端緒になるところがないか、確かめたいと考えています」
「もう1点、それぞれの事件について、現場の状況――見つかったときの状況や、手口を知ることはできますか?」
このあたりは、事件の調査をするにあたっては必ず知っておくべきこと、定石と言っていい。
「次に、調査の方針についてです。
まず大まかな方針として、内密に調査を進めるべきか、またはことを公にして構わないかどうか、これを決めていただく必要があります。
また、これは確認ですが、犯人が特定できた、または接触が可能になった場合、私たちが目的とするのは『犯人の排除』ではなく『情報を得ることを前提とした捕縛』という理解でよいでしょうか」
調査のしかたは情報の集め方にかかわる話だし、目的は最終的な戦い方にかかわる。
そのあたりは初めに決めておかないと、いざというときに迷うことになってしまう。
「あとは、この件で、もう既に調査を始めているひとや集団というのはいますか?
衛兵あたりはもう調査を始めていることと思いますが、その他にも、もしそういう方がいれば教えていただけませんか」
「もう1点、こちらで捕縛して尋問が目的、ということになると、たとえば衛兵とはどちらが犯人の身柄を引き取るのか、というところで利益が一致しないことになるかもしれません。
そのあたりで、交渉の余地はありますか?
たとえば、こちらが尋問を終えたら引き渡す、または身柄は引き渡しても尋問に立ち会って情報を得られるようにする、等々です。
そのあたりも含めて、どこまで他者に協力を依頼してよいか、というのも先に決めておいていただけると助かります」
「ああ、協力といえば、報酬や前金についての御提示がまだだったように思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?」
連続殺人、ということだからそれなりに規模の大きな調査になるだろうとは思ったけれど、やはり2人だけでどうこうとはいかないかもしれない。
であれば、その空隙をどうにかして埋めなければならないし、その手段も考えておくべきだ。
「最後に、私たちが得られる協力について、というお話です。
端的にお聞きしますが、この件に関して、信頼できる協力者はこの街におられますか?」
言葉が足りなさすぎるかな、と少し補って説明する。
「失礼ながら、カイルさんは、この街の上流階級において地歩を築いておられます。
ですので、そのような方々から力を借りるなり、情報を頂くなり、といったことが可能であれば、と考えました。
どのような形にせよ、最終的に荒事になる可能性は低くありませんから、そのための備えということも含めて、ですが」
こちらからも一通りの要求を伝えたあとで、ああそれから、と私は別の話を持ち出した。
「調査するのであれば、先ほどから申し上げたようなご協力が必要になりますが、アプローチとしては調査以外にも方法はある、と考えています。
具体的には、『事件の解決のためにルキスラから予言者を呼んだ』ということにしていただければ、と」
言いながら、荷物の中からカードを取り出して机の上に置いてみせる。
「幸か不幸か、占術を嗜んでおりますので。
まあ、この手段を使うにせよ、まずは手口や相手のことを確かめてから、です。
闇雲に情報を流して準備が整わないまま襲われたのではたまりません」
私もまだ死にたくはありませんからね、と冗談めかして付け加える。
「方法のひとつとして頭に入れておいていただければ」
■PLから
だいたいPCに語らせてしまっておりますのであまり補足がない!(''
カイルの口調その他については一切スルーであります。
なお、スルーしているのはクーガへの牽制(こんなところで安い挑発に乗らないでね)も含めて、でありますが、まあガン無視して挑発に乗っていただいても問題ありません!
あ、無限の探究者については知りませんでしたので教えていただくなりなんなりを所望いたします。
あとで依頼人にでも訊こうかな。
■ダイス
Lain@プリアーシェ ありばど セシリアに関する見識判定 2d6+8 Dice:2D6[2,5]+8=15
Lain@プリアーシェ 無限の探究者に関する見識判定 2d6+8 Dice:2D6[3,1]+8=12