ちいさな案内人
>「だ、だいじょうぶに決まってんだろ。
拾ってくれてありがとな」
ちらばったお菓子をひろって渡したら、銀の髪をした男の子はちょっと生意気な口調で、それでもお礼を言った。
落ちていた羊皮紙の内容は
>「ひみつだよ!ひーみーつー!」
って教えてくれない。だけど、ちらっと見たときに読みとれた。
>『重要!アポロのひみつきち!
大人は絶対に入るな!アイリははきてもいいよ!』
この子の名前はアポロかな......。秘密基地か、なつかしいなぁ。
そんなに走って、いったいどうしたのか聞くと、男の子はちょっときょとんとして、それからあごをひいて上目づかいになった。
>「...へ?
なんもないよ、だって走った方が早いじゃん。文句あんのかよ」
口をとがらせてちょっとすごんでみるこのかんじ。うちの上の弟たちとよく似てる。
仕方ないなぁ、と僕はちょっと困って、いちおう言ってみた。
「人の多いところでは、走っちゃだめ。あぶないよ」
わかった?って念をおすけど、あんまり効果はなさそうだ。うん、どこの男の子も、この年ごろはだいたい同じ。
きっと、僕がなさけない様子だとかそういうのとはちがう、はず。
>「え、あ......その......。
ごめんなさい......次から気をつける」
おだやかにシャドウの男のひとががたしなめると、男の子はしゅんと体をすくめた。
>「うん 怪我がないなのならなによりさ」
......単に僕がなさけないとか、そういうことじゃ、ない、ない......はず......。
>「あれ......おまえ、おみやげのキャンディ買ってるじゃん。
もしかしてこの街を見に来た感じ?」
そう言われて背負い袋からはんぶん飛びだしていたキャンディの瓶をいそいでたしかめる。よかった、割れてない。もういちど背負い袋に押しこみながら答えた。
「うん、ルキスラから観光にきたんだ」
>「しょうがねぇなぁ......ぶつかったおわびに、おれが案内してやるよ!
街の中だったらどこだって連れて行ってやるぜ?
おれもヒマじゃないから、特別だぞ!」
僕の返事もまたずにつづける。
>「おれはアポロな!
おまえの名前も教えろよ。友達になってやるから!」
僕は思わず笑いだしてしまった。かわいいなぁ。
くすくす笑いをかみころしながら、僕もちゃんと名のる。
「フィン。フィン・ティモシーだよ。この子は友達のポチ。ありがとう、よろしくね、アポロ」
>「私はニェストル、見ての通り旅の者」
やりとりを見ていたシャドウのひとが、やわらかく名のる。そしてアポロと目線をあわせるようにひざを折り、
>「...落し物を拾ったお礼に街を案内してもらえると嬉しいな」
緑色のガラス玉みたいなものを小さな手のひらに手わたした。口もとにはいたずらっぽい笑みをうかべている。旅人と名のった彼の独特の雰囲気は、この街にとてもなじんでいるように見えた。よく見ると、大きな弦楽器を背負っている。これはたしか、独特の旋律をかなでる異国の楽器だ。
そういうことなら、と僕はうなずいた。
「アポロ、僕たちふたりを案内してくれないかな。......ちょうど僕が通りすぎてきた3番街に、宿がたくさんありました。そのあたりにご用ではありませんか?えと、にえ...、ニェ、ニェシュっ、ねす、...トル、さん」
耳慣れない発音に口がまわらない。ぼくはほんとに申しわけなくて、おずおずと問いかけた。
「あの...、すみません。ネスさん、とおよびしてもいいですか......?」
それから、僕はもうちょっと考えてみる。4番街には劇場がたくさんあったけど......。せっかくこの街をよく知る地元の子が案内してくれるんだ。観光客でも行けそうな場所はあとで自分たちで行けるから。
「2番街に、古くからの芸術の支援者が多く住まいを構えているそうです。もしかしたら」
あとは言葉を切ってヴェールのむこうのネスさんの目を見る。「うまい仕事があるかもしれません」とは、ちょっとアポロの前では言いづらかった。
それにしても、ネスさんを前にしたアポロのようすは若干おどおどして、落ちつかない。僕に話しかけながら、目のはしでネスさんの動きを見ているようだった。
こわいのかな。ネスさんがこわいのか......。それとも、「知らない大人のひと」がこわいのかな......?
アポロの持つ羊皮紙の内容をもう一度反すうしてみる。
>『重要!
アポロのひみつきち!
大人は絶対に入るな!
アイリははきてもいいよ!』
「大人は」、入るな。「アイリは」来てもいい、か。アイリ...。アポロの友達だろうな。ちいさな女の子かな。...それとも、アポロにとって特別な、「大人」のひとなのかな......?
アポロのようすはちょっとふしぎだった。僕には屈託なく話しかけてくるくせに、ネスさんにはかなり、びくびくしているように見える。
自分が他のひとたちからどう見えるかは、一応わかっているつもり。どうにも迫力がなくて、ぼんやりおどおどしてて、成人してるみたいには見えないらしい。
と、いうことは。僕は耳を片方たおして頭をめぐらせる。
大人に見えない僕はこわくないけど、大人のネスさんはこわいのか。ネスさんが...?もしかしたら、「大人」がこわいんじゃないだろうか。
まさか、「秘密基地」で、なにか大人に怒られるようなことでもしてるのかな。アポロは元気な子みたいだから、ちょくちょく怒られてはいそうだけど、この「大人」にたいする委縮ぶりは、すごく気になる。
―――きっと、なにか隠してる。
これは9人きょうだいの3番目としての、僕の勘だった。
>「なんでもさ、人殺しらしいよ。人殺し。
しかも一回じゃないんだってねぇ......ほんと怖いわねぇ」
キャンディ屋さんのおばさんの言葉が、ふと頭のなかでくり返される。
人殺し。それも続けて何回か。おばさんの口ぶりからするに、きっと、いや、ぜったいにまだ解決はしてない。
「あ、あぶっ...」
あぶないじゃない、アポロ!大人に隠れて秘密基地ごっこするのはしばらく中止!
って僕は叫びたかった。でもそんなことしたら、きっとこの子をむやみに怖がらせてしまう。それに、もしもすごく危ないことをしてたり、重大なことを隠してたら困る。アイリという名前も気になった。
「あ、あの、ネスさん、靴ひも、ほどけてます......」
不自然きわまりないけど、僕はネスさんの服のすそをひっぱって、かがんでくれるよううながした。位置が低くなった彼の耳にできるだけすばやくささやく。
「コンチェルティアで今、殺人事件が起きているそうです。複数件です。それ以上のことはわかりません。アポロの前で不用意に口にできるほどのことは、何も。でも、僕はこの子をひとりにしたくありません」
事件について、アポロに聞いてしまうこともいっしゅん考えたけど、それはまだ後にしたい。今、とても微妙な心のかけひきが起ころうとしているような気がしたから。
そして、ちょっとひきつってたかもしれないけど、にっこり笑ってこう言った。
「ね、アポロ。どこか、ぜったいに大人に見つからない、いい場所を知らない?じつは僕、今とってもめずらしいおいしいお菓子を持ってるんだ。でも少ししかなくて......。子どもだけで、こっそり内緒で食べちゃおうよ」
僕はこういうの、上手じゃないんだ。これでひっかかるだろうか......。
背負い袋のなかの「温泉饅頭」のことを考えながら、僕はアポロの答えをかたずをのんで待つ。
ネスさんには、こっそり目であやまった。人殺しのことは伝えたけど......。もし秘密基地に行けることになったら、すぐにネスさんに伝えなくちゃ。この子が今、大人の目の届かないところで友達と遊んでいるらしいこと。
彼が僕につきあってついて来てくれるかはわからない。けれど、僕は、このままアポロを放っておきたくなかった。
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PL(雪虫)より
アポロと仲良くして、まずは「3番街と2番街」を案内してもらいたいと思います(すみません、相談所で3番街と4番街を勘ちがいしてしまいました)。
ネスさんの目的に沿うかと思われますし、ことによると他ルートのPCとも接触できるかも。
その後、何番街にあるかわかりませんが、「秘密基地」に案内してもらえるよう頼んでみます。
そしていつになく発揮されるフィンの「お兄ちゃん力」なのでした。
>飛龍頭さん
ネスさんの「大人力」に注目して考えてみた結果、アポロの態度と「大人」というワードが引っかかりました。
秘密基地に、その辺の鍵があるかもしれないと考えてRPしてみました。
>あんみつGM
すみません、ご許可いただいた件、追記しました。ネスさんと殺人事件の発生について情報共有します。「秘密基地」に案内をしてもらえるかどうかの答えを聞いてから、と思い、まだアポロには訊ねていませんが、流れ次第ではアポロから話を聞くこともあるかと思います。
【判定結果】
見識判定 シタール 2d6+8Dice:2D6[2,6]+8=16
知ってるんじゃないかな...。どうかな...。