流れる思考

 ヴェンデルベルト(柑橘) [2015/10/29 21:31:39] 
 

>「あら、珍しい。
 この森に人が訪ねてきたのはいつ以来かしら?」

「こんにちは。お邪魔しています。美しい場所ですね」

進んだ先にいたのは、麗しの乙女だった。
オレット氏の歌を聞いて自分も歌いたくなったのだと、それが先ほどの歌声なのだと言うその女性はリナリア・アーツと名乗る。

リナリア・アーツ。魔法文明時代に活躍したと言う歌姫の名前。
確かに彼女の歌声は類い稀な、と称されるに相応しいものだったが、そんなことがあり得るだろうか。
人には老いがある。いつまでも若々しいなどと言う事は、例外を除いてありえない。

彼女がずっといたと言うこの空間の時間軸がずれているか、もしくは『彼女には老いがない』かのどちらかだ。
ティキは言っていなかったか。「左側にいるのは穢れを持ったものだ」と。

>「そう、縁あってこのテンペストの世界に置いてもらっているの。
 もうずっと長い間。
 指はもちろん、口ですら数えられないくらい長くね」
「彼女なら、この森の奥にちゃんといるから。
 きっと退屈してるから持って行ってあげたら喜ぶと思うわ――美しいものをね。
 ただ、逆に醜いもの、汚いもの、穢れたものに対しては不機嫌になるの。
 例えば――あなたのような」

そう言って、リナリア嬢はタタラ嬢を指し示す。

「と、言う事はテンペストは大変に知性の高い妖精と言う事ですね。魂の疵に惑わされることなく美しいものを見出せる目を持っている。リナリア嬢。あなたを、この世界に受け入れたように」

リナリア嬢はナイトメアだ。穢れを持っていること、魔法文明時代から生きているのに全く老いていないことがそれを証明している。
もしかしたらこの場所にいるのも関係しているかもしれない。妖精の力で作られた空間が、現実世界の理に従っているとは限らないだろう。

「リナリア嬢。あなたが作った歌は、今でも愛されていますよ」

童謡として親しまれていると言う事は、それが当たり前の存在であると言う事だ。
妖精の森の歌。どこまでが本当で、どこまでが創作かは分からない。しかし、いくばくかの真実が混ざっているのではないだろうか。
吟遊詩人は歌を作る、先ほどのオレット氏のように、その際自分の経験や伝聞したことをもとに作る可能性が高い。それならば。

「貴方は何を望んだのですか、何を願ったのですか」

男が愛しい彼女を助けるために妖精に願ったと言う歌。至高の歌い手と呼ばれた乙女の声をその力で世界中に届けた話。この伝承とは『伝説の歌姫』のことではないのだろうか。
だとすれば、男はその後どうなったのだろうか。

「貴方はここから出ることはあるのですか?食料はどうしているのですか?森で妖精を見たと言うのは貴方のことですか?」

どんな縁があってこの場所にいるのかは分からない。ナイトメアであるならばこの場所はリナリア嬢にとっても居心地の良い場所ではないはずなのに、何故ここにいるのだろう。
ナイトメアであっても受け入れられるものはいる。美しいものを持っているのであれば、なおさらだ。
仮に存在を否定されても、100年も経てば人は入れ替わる。なのに、どうしてこの場所にいることに拘っているのだろう。

少し視線を落としてその手に持つ透き通った緑のハープに写す。
この世界の植物と同じ材質で出来ているらしいそれは、風の妖精の手によるものだろうか。響き渡ったという逸話はこのハープによるものなのではなかろうか。

「そのハープを見せていただいてもよろしいですか?」

大事なものだろうから断られるかもしれないな、と思いながらも近くで見たいと言う欲求は抑えられない。それほどまでに美しいハープだ。

「この世界はテンペストの力によって保たれているようですが、あなたとテンペストの他に誰かいらっしゃらないのですか?寂しくはないのですか?」

妖精と会話が出来ても、触れ合うことは難しい。ここに来るまで他に人の気配はなかったから、リナリア嬢はずっと一人だったのだろうか。
この泉を見ていたことにも、意味があるのだろうか。

「テンペストと貴方は、いつもこうやって離れた場所にいるのですか?歌声だけ届くように?」

テンペストは穢れを嫌うと言った。しかし、リナリア嬢がこの世界に滞在することは許している。美しいものは好きだと言う事だから、彼女の歌声を愛したのだろう。
穢れている存在を嫌い、美しい歌声を愛しているならば一緒にいないのも理解できる。そうであるならば、テンペストの元へ行くときはタタラ嬢はここでリナリア嬢と話していてもらう方が良いかもしれない。

テンペスト。穢れを嫌い、醜いものを嫌い、汚いものを嫌い、しかし美しいものを愛する風の妖精。
美しいものをその元に持っていけば、話を聞いてくれるかもしれない。

美しいもの。オレット氏が届けられる、一等美しいものは。

「リナリア嬢。是非ともあなたとオレットさんの共演を聞きたいのですが、お願いできますでしょうか?」

一人でも素敵であったけれど、二人ならばその魅力は倍増するのではないだろうか。
稀代の歌姫に匹敵するとは思えないけれども、それでもオレット氏には叶えたい願いがあるのだ。その意思の力は、侮ることができない。
気に入られようと思うならば、考えられる中で一番素晴らしいものを捧げるべきだろう。

と、そこまで矢継ぎ早に浮かんだ事を質問して、ハッと我に返る。
自分の思考だけが先行して周りを見ていないことがあるのは、私の悪い癖だ。

「失礼しました。あまりにも美しい場所と、美しい歌を聞いた物で年甲斐もなく興奮していたようですね。お許しいただけますか?」

気づかない内に距離が近くなっていたリナリア嬢。
許しを請うように、その麗しい顔を見上げた。


◇ ◇ ◇


「ところでオレットさん。あなたの『望み』は風の妖精に叶えて貰える事が出来そうなものなのですか?」

ひと段落着いた後オレット氏の元へ行き、小声で質問する。妖精は得意不得意があるのだから、これは大事なことだった。


20:13:57 柑橘@ヴェンデルベルト 【リナリア・アーツ】 2d+11 Dice:2D6[1,6]+11=18
20:14:33 柑橘@ヴェンデルベルト リナリアについて真偽判定 2d+11 Dice:2D6[2,3]+11=16
20:14:54 柑橘@ヴェンデルベルト テンペスト 2d+11 Dice:2D6[4,2]+11=17