【C2-4】熱はいずれ冷めるもの
一番高い酒と安い酒を持ってクーガは奏での広場へと向かう。
クーガの目の前に現れたのはやはり騒がしいグラスランナー。
デイジー曰く"可愛い"子らしい。
そんなエースの言動に苦笑しながらも。
>「お前に聞きたい事があるからな。見ろデイジーの紹介状だ。
>この意味分かるよな?デイジーが手前ぇに期待してるっつうことだ。
>最近起こってる事件について知ってる事、全部はけ。俺が気に入る情報があれば・・・」>「これをやる。」
エースの目の前に示すのは酒。
安いが酒は酒だ。
「お酒!お酒だ!
それにデイジー姉さんからの紹介状?
オレが喋ればオッケーなのか......?
えっとねー」
酒にそっと手を伸ばしながら、口を開きかけたその瞬間。
「いや!
ダメだよ!ダメダメダメ!
なーんも言えないぜ!
だってデイジー姉さんに『誰にも言っちゃダメよ?』って言われてるし!」
ご丁寧なことにデイジーのモノマネ付きである。
所詮グラスランナーの男なので色気も何も出ていないが。
「あれ?あれれ?
でもデイジー姉さんはお前に紹介状を渡して、教えるように言ったの?
でもデイジー姉さんはオレに絶対話すなって言ってるし......んー」
首を何度もひねって考えているような様子であったが。
「チャンス!」
クーガの一瞬の隙をついて、その手から酒を奪い。
「ひゃー、真昼間から飲むお酒は最高だぜー!」
エースはそのまま口をつけてゴクゴクと飲み始めた。
「あはははは、やっぱいいぜー!
お酒は最高だぜー、ははは」
その顔は燃えているかのように真っ赤で。
脳の方も更にゆるゆるになっている。
こいつは酔っている。
それも悪酔いしている。
――間違いなく。
「はー、超いい気分だぜー!
で、なんだっけ?
事件についてだった?
そいつは言えないぜー、だってさ、オレ様この目で見ちゃったんだ。
てか聞いちゃったんだぞ?――犯人的なやつらの会話。
どんなんだったかって......そいつはなぁ......」
* * *
そこからエースが語るのは物凄く脈絡のないものであった。
それをなんとかクーガの頭で整理すると以下のようなものになる。
――エースは見た。そして聞いた。
5番街の外れで二人の人物が話をしていたという。
一人は男。赤毛で年は30近く。
細く鋭い目で正直女の子からはモテなさそうな外見だという。
もう一人は女だったという。
フードを被っていたので声から判断しただけなため真偽は不明とのこと。
全部は聞けなかったらしいが、会話内容はだいたいこうだったそうだ。
* * *
「――とりあえず......でいいわ。
一旦......で事件は――。
次の指示を――なさい」
「――はどうすれば......。
殺しは......ですかい?
――マスター」
「新しい......が出たと連絡が――。
内容は......の森に目覚めの――が吹く時、
――の銀色の髪で......な少年が......。
奇跡の――を予言......。
というもの――」
「つまり、――は次に......を。
殺せば――ですかね?」
「今は――待ちなさい。
情報を......。」
「――わかりやした」
* * *
「でさー、こんな感じのことを......ひっく。
デイジー姉さんに言ったら『誰にも喋っちゃダメよ?』って......あれ?
オレ様もしかして今しゃべってた?
......そんなことないよなー、へへ。
うーん、なんだか眠く......」
ぐでんぐでん、と倒れこみ。
「ぐごー」
エースは大きないびきをかき始める。
どうやら酔いつぶれて完全に寝てしまったらしい。
とりあえずクーガがこれ以上エースに煩わされることはないだろう。
* * *
>「早速ですみませんが、ご一緒いただけますか?」
出発前、プリアーシェはグラディウスに同行を頼んだ。
「わかったよ、着いていけばいいんだな。
しっかり守ってやるから安心しろ」
一応何を望んでいるかはわかっているようだ。
流石に冒険者ではある。
* * *
>「プリアーシェと申します、モーリスさん。
> こちらは七色の調べ亭の冒険者のグラディウスさん」
グラディウスはプリアーシェに続いて軽く頭を下げる。
彼は正直あまり居心地が良くなさそうである。
まあ、本の匂いと飾られた絵の具の匂いが薫るこの場所は、
どちらかというと粗野なイメージのグラディウスにはふさわしくか。
――少し時は過ぎ、軽く話を交わしたあとで。
では、とプリアーシェはモーリスの期待に応える。
>「犯人像について、確たる情報はありません。
> 遺体の状況で解っていることは、刺傷が致命傷であることくらいです。
まずはじめには、犯人像について。
実際、プリアーシェが知る情報はほとんどない。
だが、それから想像出来うることはあるであろう。
> つまり、気付かれずにほぼ一撃か、あるいはそれに近い状態で致命傷を与えうる腕前の持ち主であるという可能性がひとつ。
> 今一つ、何らかの、即効性の高い無力化の手段を持っているという可能性もあります。例えば眠りの魔法やそれに類するもの」
刃物で誰にも気づかせず手早く殺しを熟す。
それを成しうるのは高い技術、もしくは搦め手となる特技。
いずれにせよ、一般人の犯行である可能性は低いだろうか。
>「動機については、ある程度信憑性の高い情報があります。
> ある邪教の教団――無限の探究者絡みであると。
事件の背景には無限の探求者なる存在があるのではないかと彼女は続ける。
かつてこの街で預言者絡みの事件を巻き起こした連中である。
今回も彼らの仕業である可能性は捨てられない。
そして、最後に今後の予想、そして狙い。
>「ここからは推測ですが、被害者の共通項――つまり、占術を生業とし、それを予言と称する者――が、無限の探究者に不利益を及ぼす者、ということなのではないかと。
> もしいるのであれば、そのような能力を持つ者を無限の探究者に先んじて見つけ出し、その者の身辺を警護することが解決への糸口となる可能性は高いように思います」
先に見つけることさえできれば、敵の一歩先を行くことができる。
つまり解決への道筋を描くことができるのではないか、と。
グラディウスはプリアーシェの言葉を頷きながら聞いている。
口を開くことはない。
自らに付け足せることなどないと知っているからこそ、口は挟まない。
頭は良くないとは自ら言えども、単なる馬鹿ではないらしい。
>「あなたは、この事件をどのようにご覧になりますか?」
一通りプリアーシェが語り終えたあと、モーリスは再び一服。
そして目にかかった茶色い前髪を軽く払った後、口を開く。
「なるほど、なかなか理論立ったものだと感じる......流石だ。
最初の犯人の持つ技術については私もその通りであると思っている。
時には家の中に入り込んで事件を起こしている以上、何らかの技術がなければそもそもが不可能であろう。
――私はおそらく犯人は男ではないかと思っている――それも卑屈な男だ。
理由は女性、または小柄な者ばかりが犠牲者であること。
予言者――それを占者のことと解釈すれば、この街には男のものも少なくはない。
だが、その中で被害にあった者は一人もいない。
その理由として主に挙げられるのは二つ。
ひとつは被害者に共通点がある場合――だが今のところ女性三人とグラスランナーの男に共通する点は想像できない。
だとすればもう一つの可能性......単純に肉体的強者、この場合は大人の男が怖いのではないかと考える。
犯人が女性の場合も考えられるが、女性とは案外逞しく強かなものだ。
それに、自らの女性としての利点と持ちうる技を利用すれば、未来しか見えぬ男など楽に殺せよう。
――そう考えると、犯人の持つ技能は優れた剣術よりかは、魔術に類するものの可能性が高いか」
モーリスは落ち着いたスピードで一言一言発しながらも。
彼の瞳はまるで子供のように楽しげであった。
彼は人に自らの考えを語るこの瞬間を実に愛しているのであろう。
「それにしても無限の探求者の情報を引っ張り出してくるとは......。
君はもしかしてヴォルディーク家から依頼でも受けているのか?
だとすれば、街の外からわざわざ調査に来ていることも理解できる。
彼は、この街の冒険者があまり好きではないようだからな」
ここでいう彼とは――間違いなくカイルのことであろう。
彼とこの街の冒険者の間に過去に何かあったのだろうか。
「そういえば、君は無限の探求者についてどこまで知っている?
私もあまり詳しいことは知らないのだが......あの集団は大きく分けて二つ。
――正確に言えば三つか......で構成されているようだ。
まずは"プレイヤー"と呼ばれる一般的な構成員。
聞く限りではこの"プレイヤー"自体も実態は二つに分かれているようだ。
"信仰者"としての"プレイヤー"と"演奏者"としてのプレイヤーの二つに。
基本的でザルツ地方で犯罪行為を働いてるのは"信仰者"の方であり、
"演奏者"の方はいろいろと様々な事情があるようだ。
――もっともこの情報自体"演奏者"だった者から聞いたことであるから、
そのまま鵜呑みにすることは出来かねるが」
思うに、エミールとミハイルは後者の"演奏者"の方ではないだろうか。
プリアーシェにはそう想像ができるかもしれない。
「そして、そんな"プレイヤー"を束ねるのが"指揮者"――コンダクターだ。
確か私が聞いた頃は教主とその他の五人で構成されていたそうだが。
昔の話だ――今となってはわからないな。
......さて、長々と教団について語ってきたが。
連続とはいえどもこのような事件を引き起こすのは"プレイヤー"。
おそらくは"信仰者"の部類であろう。
だが、私はこの裏には"指揮者"の影があるのではないかと感じている。
その前に――君の三つ目の推測について私からも話さねばならないな」
そして、またここで小休止。
緩やかで穏やかでどこか眠くなりそうな旋律も......。
プリアーシェの耳には徐々に熱がこもって聞こえてくるだろう。
「この事件の共通点は被害者には予言者であるということ以外にも共通点が存在している可能性がある。
例えば、最初の犠牲者は少し前に恋人から銀の首飾りを貰ったという。
――被害に遭ったその瞬間は身につけていなかったようだがね。
二人目の犠牲者は自分の絵に好んで使う幾つかの色の中に銀色があったようだ。
どうやらバックになかなかのパトロンがついていたそうだな。
三人目の犠牲者は常に銀の腕輪を身につけていて、
四人目の犠牲者の商売道具の一つが銀で縁どられたタロットカードだ。
一つ一つは大した情報ではないが、こうやって纏めてみると明らかに意味深く見える部分があるだろう?」
いつの間にか彼の体は勢いづいており、腰掛けた椅子がギイギイと音を立てて鳴る。
「そして、重要なポイントが一度事件が止まっているということだ。
もし、共通点を持っている人物だけを殺していったのだとしたら、これで最後だと何故わかる?
噂の予知の力を使ったとすればわかるかもしれない。
だとすれば、逆に犠牲者の選定があまりにも無作為で整合性がない。
そしてこの事件が無限の探求者の手によるものだとすれば新たな矛盾が加わる。
予知の力に触れられるのはおそらく"指揮者"クラスの限られた者だけ、
だとすればそんな"指揮者"がこのような事件を自ら起こすだろうか?
この二つの矛盾を簡単に解決できる解が一つある。
実行者である"信仰者"の裏に"指揮者"の影がある――これが私の想像する犯人像だ」
ここまで話しきってモーリスは満足したのだろう。
その瞳には再び気怠さのようなものが見て取れる。
「この事件が終わったのか、終わっていないのか。
私にとって想像できるところではないが......。
まだ続くと君は考えているのだろう?
冒険者の直感か――それが様々な危機を乗り越えて未来を創る技だとすれば。
君の言う通りであるのかもしれないな。
だが、実行者である"信仰者"の裏に潜む"指揮者"まで手を伸ばそうというのならば、
気をつけたほうがいいだろう――彼らはそこらの冒険者よりだいぶ神に近いという」
最後に忠告めいたものをくれたのは彼からの礼であろうか。
再びパイプを加えた彼は自らはあまり語る気がなさそうだ。
もっともプリアーシェが声をかければ応えてくれはするだろうが。
* * *
クーガが広場に留まり続ければ、見覚えのある顔が見えてくるだろう。
もし、プリアーシェが連絡を取り広場に向かうのであれば、
更にその場所で集うことができるだろう。
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あんみつ@GMより
クーガはエースに酒を奪われます。演出はダイスで決めました。
6以下なら素直に教える。7以上なら掠め取って教えるの二つでした。
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22:12:17 あんみつ@GM 演出ダイス6以下か7以上か 2d6 Dice:2D6[6,3]=9
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その代わりいろいろと情報を聞き出すことができます。
クーガはこの場所に留まることも、どこか好きな場所へ向かうこともできます。
プリアーシェはモーリスからお返しをもらえます。
グラディウスと同行する旨、了解致しました。
【信仰者(プレイヤー)】、【演奏者(プレイヤー)】、
【指揮者(コンダクター)】について総譜に登録しておきます。
プリアーシェは次の行動を選んでください。
主な選択肢は2つです。
・奏での広場に行く
・モーリスと話す
このシーンではどちらかしか選択はできません。
広場に向かうことを選択した場合や、
広場にとどまることを選択した場合は
その他の広場に帰ることを選択したPCたちと合流できるところまで、
書いていただいて構いません。