【E1-2】予言されたもの
広い応接間の一室で彼は待ち構えていた。
青髪のまだ若い彼こそがカイル・ヴォルディークその人だ。
「ミハイルからさっきの予言については聞いている。
――それにしてもあんたたちはどこから来たんだ?
まあ......どうでもいいことだが」
訝しげな眼でカイルはオレットらを見やる。
いきなりどこかから現れたのだから当然のことかもしれないが。
「僕たちは北方の森に妖精の力を借りに行ったのですが。
その際、ここに飛ばされまして」
オレットは素直に語る。
素直すぎて若干表現が飛躍している点もあるが。
「妖精の力を借りに?
――姉さんのため、か。
あんたには関係のないことだろう」
オレットに対するカイルの言葉は冷たい。
彼の中に何らかの蟠りがあるのだろう。
「関係なくなんてありません!
......僕は、もう関わってしまったのですから」
カイルの言葉に珍しくオレットは声を荒げる。
それは彼の助けたいという意志の顕れか。
「もうそれ以上はいい。
――今回はあんたの力を借りる必要があるかもしれないしな」
とって付けられたようなカイルの言葉を受けて。
オレットは少し緊張と驚愕で身を固くする。
「それは......」
* * *
「予言についてだが......あんたたちはどう読み解いたんだ?」
そんなオレットの姿を無視しながら、カイルは部屋中に集まった者たちに問う。
「予言の始まりは乙女が予知夢を見るとある。
おそらく姉さんのことで間違いない。
そして夢を見終えた姉さんは奴らによって魂を捧げられると。
――そんなこと決してさせるわけには行かない。
セシリア姉さんは必ず俺が助け出す」
オレットと共にここに飛ばされてきた冒険者たちはひとつの事実を察するだろう。
目の前にいるのはオレットの探しているセシリアの弟であり。
そして先ほどの予言は彼女の運命を告げたものであったのだと。
察しのよいものであれば、その前から気がついていたかもしれないが。
「その後も予言は続いていました。
前半部と比べると言葉が抽象的でわかりにくいところもありますが」
ミハイルがカイルの言葉に補足として添える。
目的をセシリアの救出とするのであれば、焦点が当てられるべきなのは予言の後半部である。
「姉さんに起こるという奇跡。
それが確実にどのようなものであるかはわかっていない。
ただ俺は信じている。
――これは姉さんを救えるという予言なんだと。
そこで俺は早速動き出すことにした」
カイルが予言から考え出したこととは。
「まず大事なことは......。
白花祭りまで時間の猶予がそれほどあるわけではないということだ。
まあ全くないというわけでもないが」
白花祭りとはコンチェルティアで行われる四花祭りの一つである。
それぞれ季節毎に開催されその時の最も優れた作品とその作り手を選出するものだ。
ちなみに白花祭りは冬に行われ、演劇作品がその対象とされている。
「そして予言の最後。
奇跡が起きると言われた場所についてだが。
俺は知らなかったのだが......これに該当するかもしれないものが一つあるそうだ」
カイルの言葉に間髪開けずに。
『――カマル地下聖殿』
オレットとミハイルの言葉がユニゾンする。
「でも、あれは伝承にしか残ってなくて。
まだちゃんと見つかっていないのでは......」
伝承や文献に対して造詣の深い者であれば知っていただろうか。
カマル地下聖殿とは......魔法文明時代に入って少しした頃に。
とあるナイトメアが迫害から地下に逃亡した後にその手で作り上げたとされる神殿のことだ。
本来月神シーンを祀るものであったとされるが、幾時代を経て現在はその記録が途絶えている。
「確かに今は明確にどこにあるかはわからない。
だが、俺はなんとしても白花祭りまでに必ず見つけてみせる――絶対に」
その覚悟は絶対的なものであった。
カイルの眼差しが、声が、立ち振る舞いが告げている。
「そして最も意味がわかりにくく――重要なのは真ん中の部分だ。
太陽や月などはその意味がなかなかはっきりとはわかっていないが。
その次の部分に着目するように......ミハイルが言った」
カイルがミハイルの名前を呼ぶと、彼は軽く頷いて。
「金色の輪って――オレットのことなんじゃないかって思ったんです。
なんとなくですけど」
オレットは予想だにしていなかった方角から名前が出されて驚いた様子で。
「つまり、それってどういうこと......ミハイル?」
ミハイルにその意味を問いかける。
「簡単に言うと。
姉さんを助けるのにあんたの力が必要かもしれないということだ。
――不本意なことだがな。
だが、あんたは手を貸してくれるんだろう?」
カイルの言葉はオレットが心から望んでいた言葉に違いない。
その瞳はほんの少し潤んでいる。
「――はい、勿論です」
* * *
「それともう一つ、まだ触れていない場所がある」
オレットへの協力要請を終えたカイルの目の先に立つのは冒険者たちだ。
「――花々と竜たちの力を受けて。
竜はまだしも、花から力を受けることができるとはあまり思えない。
だとすれば――ここも何らかの喩えである可能性がある。
問題は何を喩えて言ったのかということだが」
人が力を借りようと考えたとき。
その脳裏に浮かぶのは様々なものがあるだろう。
だがこの世界に生きる限り、おそらく共通して一度は浮かぶはずの存在が一つある。
「冒険者――のことだと俺は思っている。
この街は花開く街と呼ばれている。
つまり、花々とはこの街の冒険者のことではないか、と。
じゃあ竜とは何か。
――どういう因果かは知らないが俺には一つだけ竜の心当たりがある」
――竜とはいったい何だろうか。
言わなくてもわかるだろうか。
「まああんたたちならきっとわかっているんだろう。
俺は必ず俺の役目を果たす。
絶対に聖殿を見つけて――この手で姉さんを助け出す」
「だからその時に手が空いているようなら。
――俺たちに力を貸して欲しい」
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あんみつ@GMより
エンディングシーンその2です。
【白花祭り】について見識判定が可能です。
目標値は13。成功すれば『出立の曲目』に記されたことがわかります。
【カマル地下聖殿】について見識判定が可能です。
目標値は15。成功すれば『出立の曲目』に記されたことがわかります。
後で各PCの個別部分やその他諸々を投稿いたします。
少々お待ちください。