かえっていくところ

 フィン(雪虫) [2015/12/01 23:39:05] 
 

 >「どうかされましたか?
   ......あれ?
   あの人たちはいったい......いや、まさかあれは......?」

 ふわふわと歩くアポロの手をしっかりにぎって、僕はお屋敷から庭へとふみだした。僕たちの姿を見たミハイルさんが駆けよってくる。
 だけど、途中でびっくりしたみたいに立ちどまって、僕たちのうしろを見たまま立ちつくした。

 僕もつられてふり向いてみる。

 「え、ヴェンさん?ティキさん」

 ......と、冒険者風のひとたち。金色の髪に赤い帽子をかぶった男のひとがミハイルさんを呼んだ。

 >「――ミハイル」

 え、どういう...こと?ヴェンさんたちは、いったいどこからどうやって......。
 僕はとまどう。
 そこに、ネスさんたちもやってきた。

 と、アポロが

 >「――風が吹いてる」

 静かにつぶやいた。

 「えっ?」

 顔をのぞきこむと、赤く燃える瞳がいっしゅん、大きく見開かれた。

 >「白花祭りの刻。
   青き乙女は最大の夢を見る。
   役目を果たした巫女は魂を祭壇に捧げられるだろう。

   然れど太陽と月がそれを阻む。
   太陽は青き空に浮かぶ金色の輪。
   月は銀色の光を映す白い弓。
   花々と竜たちの力を受けて。
   太陽の昇る頃、青き乙女に奇跡が起きるだろう。
 
   ――かつて月神に捧げられた古き地下神殿にて」

 まるでふるい詩を詠む詩人のように、アポロは最後の一節まで朗々とうたいあげてから、がくっとその場にくずれおちた。

 「アポロ!?」

 僕はあわててその体をささえて、脈をとる。......とくん、とくん、しっかりとした、規則的な振動が指先につたわる。おだやかな寝息もきこえる。
 ......寝てるだけだ......。

 >「今のは......まさか予言?
   ぼ、僕カイルさんに伝えてきます!」

 アポロが無事らしいことにほんとうにほっとしていて、その可能性がどこか頭からぬけ落ちてた。
 ミハイルさんの言葉にはっとする。
 そうか、今のが、アポロの「予言」......。
 だとすると。
 ええと。どういう、意味なんだろう。

 ミハイルさんはすぐにもどってきて、カイルさんが僕たちを呼んでいることを伝えた。

 >「君にも来て欲しいって――オレット」

 >「――わかったよ......ミハイル。
   でもこの人たちも連れて行ってもいいかな。
   いきなりここに飛ばされてきちゃったから」

 このふたりは知り合いか......。僕はなんとなくだけど、ミハイルさんと、オレットさんと呼ばれた詩人さんのあいだに流れるなんだか微妙な雰囲気をかんじとった。

 「はい。タビットのヴェンさんとドラゴンライダーのティキさんとは、仕事仲間です。このおふたりといっしょなら、みなさん身元はたしかです」

 ミハイルさんの問いかけにそう答えた。

※ ※ ※

 >「ミハイルからさっきの予言については聞いている。
   ――それにしてもあんたたちはどこから来たんだ?
   まあ......どうでもいいことだが」

 アポロをちゃんとしたベッドで寝かせるために、お屋敷のひとが連れていってくれた。僕もついていきたいけれど、カイルさんの話を聞かなくちゃならない気がしてその場にのこる。
 つづくやりとりで、オレットさんもまたカイルさんのお姉さんを助けようとしていることを知った。 

 >「予言についてだが......あんたたちはどう読み解いたんだ?」

 >「予言の始まりは乙女が予知夢を見るとある。
   おそらく姉さんのことで間違いない。
   そして夢を見終えた姉さんは奴らによって魂を捧げられると。
   ――そんなこと決してさせるわけには行かない。
   セシリア姉さんは必ず俺が助け出す」

 そうか、玄関の肖像画のモデルはカイルさんと...お姉さん。セシリアさんなんだ。

 >「まず大事なことは......。
   白花祭りまで時間の猶予がそれほどあるわけではないということだ。
   まあ全くないというわけでもないが」

 白花祭りは冬のお祭りだから、いますぐ、じゃないけど、たしかに時間はそれほどない。

 >「そして予言の最後。
   奇跡が起きると言われた場所についてだが。
   俺は知らなかったのだが......これに該当するかもしれないものが一つあるそうだ」

 >『――カマル地下聖殿』

 魔法文明時代につくられたという、月神シーンの神殿の伝承は、僕も知っていた。けれど、それが実在するなんて。

 >「確かに今は明確にどこにあるかはわからない。
   だが、俺はなんとしても白花祭りまでに必ず見つけてみせる――絶対に」

 カイルさんたちはつぎつぎに予言の内容を読み解いていく。

 >「金色の輪って――オレットのことなんじゃないかって思ったんです。
   なんとなくですけど」

 僕はよくわからないなりに、ぼんやりと目の前のひとたちの関係性をつかみはじめていた。
 だったら......。

 「金色の輪に対となってうたわれている月、『白い弓』...って、そしたら、ミハイルさんのことかもしれませんね。すみません、僕もなんとなくなんですけど」

 僕はミハイルさんの真っ白な毛並みを見ながら、そうつぶやいた。

※ ※ ※

 >「――花々と竜たちの力を受けて。
   竜はまだしも、花から力を受けることができるとはあまり思えない。 
   だとすれば――ここも何らかの喩えである可能性がある。
   問題は何を喩えて言ったのかということだが」

 カイルさんは「花々」が冒険者のことを指すのではないかと言った。
 【花開く街、コンチェルティア】か......。
 だとすると、「竜たち」ってだれのことだろう。カイルさんには心当たりがあるみたいだった。
 貴族?神殿?それとも、コンチェルティアに集まる芸術家たち?
 僕には、よくわからない。ただ、カイルさんの次の言葉に僕はふかくうなずいた。

 >「だからその時に手が空いているようなら。
   ――俺たちに力を貸して欲しい」

 「はい。そのときまで、どうかお気をつけて」

※ ※ ※

 僕は、来客用の寝室ですやすや眠るアポロの顔をぼんやりながめていた。
 と、お客さんが来たようだ、と呼ばれて出ていってみる。

 >「アポロを迎えに来ました。
   ――その様子だと無事みたいですね。
   本当に......本当にありがとうございました」

 すっかり武装をといたアポロのお父さんと......うしろで涙をながしているのは、お母さんだ......。

 「......。はい。アポロは、無事です。元気で、いまは、ベッドで寝ていまっ......」

 目と鼻のあいだがあつくなって、僕は言葉につまる。でも話さなきゃ。ちゃんと、言わなきゃ。

 「お父さん、あのっ...。たいへんだったのに、ぼくたちをしんじてくだって、ありがどございまじた」

 ぐすっ、とすすりあげてどうにかそれだけ言う。ぽろ、とあたたかいものが目からこぼれた。ごしごしと目もとをこすって、ふぅ、と息をはきだした。

 「アポロは、偉大な予言をしました。ひとりの女のひとの命を救えるかもしれない予言です。その言葉を成就させようとして、いろいろなひとがすでに、動きだしています」

 それからにっこりと笑う。

 「でも、アポロはアポロなんですよね。まだちいさくて、なまいきでかわいい男の子です。うちの弟たちに、そっくりなんですよ」

 アポロがこれからどんな運命をたどるのか、「予言者」という宿命とどう向き合うのか、それはまだわからない。けど、すくなくともこの子はひとりじゃない。
 いつかはだれもが大人にならなくちゃならないのなら、ゆっくり大人になればいいんだ。お父さんとお母さんといっしょに、この街で。

 「あの、起こして連れてきますね」

 僕はもういちど目をこすってから、寝室へむかった。

 「......おきて、アポロ。お父さんとお母さんが、迎えにきたよ」

 ぱち、と目をあけたアポロの瞳は、いつもどおりのすきとおった茶色だった。
 むくりと体をおこした彼に言う。

 「アポロ、ありがとう。僕、いろいろ助けてもらっちゃった。またいつか、アポロといっしょに冒険したいって思うよ」

 そしたらアポロは、にかっと笑った。

 >「今日はいろいろあったけど楽しかったぜ!
   ......今度はうちに来いよな!
   秘密基地も案内してやるから......絶対だぞ!」

 「うん。また、会いにくるよ。手紙も書くよ。約束だよ」

 僕はアポロの手をぎゅっとにぎり、みじかい指で指きりをした。

 「あ、えっと、クーガさんがやってたええと、とび蹴り。あれ、まねしてお友達やお父さんにやっちゃだめだからね?クーガさんだってきっと体をきたえて、格闘を学んで、それでできるようになったんだから」

 まねしてお友達にけがさせちゃいけません。それだけは言っておかなきゃ。
 そしてそれを言ってしまうと、ほんとに言うことがなくなっちゃった。

 僕は無言でアポロの手をひっぱって立たせると、いちどぎゅっと抱きしめた。どうか、運命がこの子を押しつぶすことのありませんように。それから、ほそい背中をおして歩きだした。
 あたたかい「日常」へ。家族のもとへ、アポロを返して、僕もルキスラに帰る。
 
 あんまりお金はないけど、母さんと姉さんにブローチくらいは買って帰ろうかなぁ。キャンディだけだと妹がすねるかなぁ。
 思わず僕も家族のことを考えて、ふふ、と笑みをこぼした。

 窓の外では、コンチェルティアの華やかな音楽のしらべや劇場の出し物を告げる呼びこみの声が街にもどりつつあった。

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PL(雪虫)より

あんみつGM、どうもありがとうございました!ほんとうに楽しかったです!
アポロと離れたくないよう(涙)。

飛龍頭さん、Lainさん、ワイドスノーさん、どうもありがとうございました!
ちゃんとした感想は後日投下させていただく予定です。

飛龍頭さんのPL欄確認しました。では、剣のかけらはあとのお2人と相談してから振りたいと思います。

【判定結果】

22:13:25 雪虫@フィン ≫ 見識判定 白花祭り 2d6+8 <Dice:2D6[4,3]+8=15>
22:14:02 雪虫@フィン ≫ 見識判定 カマル地下聖殿 2d6+8 <Dice:2D6[3,5]+8=16>

プリアーシェさんにもらった占瞳の効果を足し忘れています。それぞれ達成値に+1となります。すみません。

22:42:45 雪虫@フィン 剣のかけら 3つ 3d6Dice:3D6[6,2,5]=13 剣のかけらは12/2ダイチャ2で振りました。