【D1-5】詩人の想いとは
>「オレットさん」
ヴェンデルベルトがオレットを呼ぶ声には多少怒りの念が含まれていたかもしれない。
「あの......どうしましたか?」
オレットは少なくともその心の機微を感じ取ったのだろう。
ヴェンデルベルトの顔を見るその表情、そして声は若干不安そうだ。
>「貴方に、私は聞きましたね。誰を助けたいのかと。
> 貴方はその時言葉を濁した。私も追及しなかった。
> その時と、今では状況が違いますね。私達は貴方を妖精の元へお連れした。
> 貴方との契約はすでに果たされています。そうですね?」
ヴェンデルベルトが紡ぐのは極めて冷静に現状を分析した言葉。
オレットの依頼は確かに森まで案内し、可能であれば妖精を捜索するというもの。
冒険者たちは既にその任務は果たせているといえよう。
つまりこれ以上は......気持ちの問題であるのだ。
しかし、オレットは言えないのか照れているのかわからないが。
大事なことを話してはくれない。
――ヴェンデルベルトが不満に思うのも無理はないかもしれない。
オレットは静かに地面を見つめていた。
ただ風のみが辺りを通り過ぎていく。
>「オレットさん。もう一度聞きます。
> 貴方は誰を助けたいのですか。
> その人は今どういう状況なのですか。
> どうして、貴方が助けなければならないのですか。
> その人が忘れているのに、何故なのですか。
> 貴方とその人に、何が起こったのですか。> 貴方は、妖精の力を借りて、何をする気なのですか」
それは【探求者《Seekers》】に属するヴェンデルベルトにとっては当然の願いか。
知らないものは知りたくなる。
知りたいものを無為に隠されると腹立たしくなる。
だから問いかけるのだ――オレットが何を思い、何を感じ、自分たちやテンペストに協力を仰ぐのか。
「――わかりました」
オレットは少し小さな声で呟いて。
「そうですよね――本当かどうか不安だとか皆さんには関係のないことでした。
何も言わず全部上手くいかせようとするなんて虫が良すぎますよね。
わかりました......僕が今知っていること、思っていること――話します」
* * *
「僕は昔コンチェルティアの孤児院にいたんです。
その時に仲が良かった子が二人いました。
タビットのミハイル――そしてアリシスという女の子です」
ひとつひとつその思い出を頭で描写しながら話すように。
オレットの言葉はゆっくりと、ゆっくりと紡がれていた。
「でもある日その孤児院はなくなってしまったんです。
僕はその時旅に出ることにしました。
――理由はその時あまりあの街にいたくなかったから......まだ色々な意味で弱かったんだ。
だから、その時に僕たち三人はみんなバラバラになってしまったんです。
二人がどうしているか......僕は全然知らなかった」
続くのはオレットが今現在旅の詩人として各地を放浪している理由。
コンチェルティアに居たくなかったと語るぐらいであるから。
オレットの孤児院がなくなった理由として色々あったのだろうか。
だが、今この場で大事なのはそこではなく......おそらく。
――仲が良かったという二人の行方だろうか。
「少し前、僕はあの街に久しぶりに帰ろうと思いました。
正直なところ今でも不思議です......あれだけ避けていた場所だったのに。
ちなみにナゴーヤさんとは、その時からのお世話になっていて。
――えっと、それは別の話でしたね......すみません。
久しぶりにコンチェルティアに戻った僕は二人が今どうしているか気になって探しました。
その時に出会ったんです......セシリアさんに」
――セシリア。
その名前に聞き覚えがある者はいるかもしれない。
知っていた者にはオレットの探し人の見当がこの瞬間ついただろうか。
セシリア・ヴォルディーク。
コンチェルティアにて広く知られるヴォルディーク家の令嬢である。
彼女は夢で未来を知る力を持っていると言われ、その力を狙ったある組織に囚われているという。
その組織こそ――先程どこかから現れて襲撃を行った無限の探求者だ。
「僕は一目見てから彼女のことが気になっていたのかもしれません。
僕はきっと、単純に――惹かれたんだと思います......だってアリシスによく似ていたから。
......でも僕は彼女を守ることができなかった。
弟のカイルさんや手羽先亭の冒険者と守ろうと誓っていたのにできなかった」
彼が語るのが事実であれば、オレットは事件のあったその現場にいたことになる。
つまり目の前でセシリアが攫われた瞬間はオレットは体験したのだ。
彼の幼馴染によく似ているという彼女を。
「ここから先は僕の感覚――想像の話でしかありません。
だから一度だけ聞いて忘れてください。
僕がセシリアさんを見て感じました......この人は本当はアリシスなんじゃないかって。
実際に確かめてみることはしませんでした――触れてはいけない場所に触れてしまう気がして。
でも思うんです......もしセシリアさんが本当にアリシスだとしたら。
その彼女が僕の前から攫われて危険な事態に陥っているかもしれないとしたら。
僕は何もせず――黙ったままでいることなんてできないって。
追いかけているのがアリシスであれ、アリシスに似た人......ただの幻想であれ――」
気がつけば風の音もしなくなっていた。
――無音。
ただ在るのはオレットの言葉だけ。
「――僕は大切な人をもう失いたくないから。
戦うって決めたんです。
少しでも......手を伸ばせば彼女に手が届くように。
これが僕がテンペストさんの、そして皆さんの手を借りようと思った理由です」
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あんみつ@GMより
お爺ちゃんにお返し(・∋・)
やっとオレットが話してくれます。
【ヴォルディーク家】について見識判定が可能です。
目標値は13。成功すれば『出立の曲目』に記されたことがわかります。
【セシリア・ヴォルディーク】について見識判定が可能です。
目標値は15。成功すれば、彼女の噂を聞いたことがあります。
テンペストはずっと妖精語を話してますが交易共通語も解しています。
彼女にも多少いろいろ思うところはあるかもしれませんが、
そちらは本進行で皆さんのすべての行動が揃ってからにしますね。
改めて投稿お待ちしております。