【D1-6】想いを風にして
――タタラにとってのベストとは何か。
そう問いかけたリナリアに返された言葉は。
「そう......後悔はしていないのね。
それなら問題ないの。
でも一個だけ覚えておいて。
あなたの価値を決めるのは他人かもしれない。
でも、あなたが在る意味を決められるのは――あなただけなのよ」
タタラがアンデッドをどうにか運べないか悪戦苦闘していると。
「ちょっとそこで待ってて」
リナリアはさっきまで演奏に使用していたハープを取り出す。
白く細長い指先で軽く弦を弾くと――。
簡易な荷車とアンデッドの残骸の傍にぽっかりと穴が開く。
穴から覗くのは本物のコンチェルティアの森の景色だ。
「そもそもこの場所には入り口なんてないの。
私たちが望めば望んだように道は開く。
道っていうものは本来こういうものなのかもしれないわね」
すぐそこに道が開いているため、タタラは苦労せず死体を弔うことができるだろう。
* * *
>「歌でも、歌っていてください」
オレットに対して憤りの念を抱いていたのはヴェンデルベルトだけではなかったようだ。
同じパーテイーの仲間同士......通じ合うものでもあるのだろうか。
そんなティキはというとニコデムスの鱗を用いて作品を作り出す。
この世に芸術作品と称されし物は数多く生まれ、失われていったであろう。
しかし幼い竜の鱗を用いられた作品は多くないだろう。
ティキの手によって――今一つの作品として命が吹き込まれようとしている。
>『これでどうですか。ここの翡翠の枝ででも作れる。もっと精巧なものも、何輪でも。』
リナリアは言った。
――テンペストはこの花が好きなのだと。
それに似せて竜の鱗から作られた花型の作品は同じように気に入られるのかどうか。
テンペストの様子を伺えば。
『緻密で繊細なだけの作品ならあたしもこの目でたくさん見てきた。
でも竜の鱗を素材にしたのはあんたが初めてかも。
あたしちょっとだけ気に入ったな――もちろんくれるんでしょ?』
感触は上々のようである。
やはり特別な素材を使ったのが大きかったのだろう。
これもティキとニコデムスの絆の力――かもしれない。
* * *
一方のプラリネはというと。
>『テンペストさん、すみません。
>そういった物は俺、持って無いっす。
>強いて言うならこの魔晶石ぐらいっす。』
そう言って魔晶石をテンペストに差し出してみる。
正直テンペストがこれで満足してくれるはずはないだろう。
――だが。
『ふふ、あんたバカなんじゃないの?
こんなものじゃ満足しないけど一応もらっておいてあげる』
ちょっと予想外の行動に対してテンペストもつい笑ってしまった。
少なくとも空気をよくするという意味合いでは大活躍かもしれない。
* * *
そしてオレットの言葉――守りたい人、気持ちを受けてヴェンデルベルトは語る。
彼が美しいと思うものは花や宝石などだけではない。
【探求者《Seekers》】というパーティー。
その仲間であるティキとその相棒ニコデムスやエクセター。
ヴェンデルベルトにとってそれらを美しいと気づかせたものは――ずばり知ることであった。
見ただけでは美しさに気がつけないものでもその内情を知ることで気がつくことができる。
それはオレットのありきたりな願いにそれなりの事情があったように。
>想像してみませんか、テンペスト。貴方がオレットさんへ力を貸すと、何が起きるのか。
ヴェンデルベルトは今この瞬間ではない。
遠い未来をテンペストへの贈り物としたのだ。
『あたしの知らない"美しいもの"が生み出される......か......』
エメラルドの瞳が宙を泳ぐ。
それは思案の象徴。
「本当に――できるっていう自信はあるの?」
初めてテンペストから口にされた交易共通語。
同じ言語を使用するとは同じ世界に生きているということである。
できるかどうか......彼女が確かめた先はオレットとヴェンデルベルトだろうか。
「僕はリナリアさんみたいに優れた歌い手だとは思っていません。
でも、一つだけ誓って言えることは。
――僕は、絶対に諦めない......ということ、それだけです」
全て話している以上どこか思考もすっきりしたのだろうか。
オレットの言葉は同じ意味合いでも以前と違って聞こえた。
「わかった......あんたに力を貸してあげるよ。
珍しいものも貰ったしね」
ティキの作った竜の鱗製の花飾りをそっと撫でる。
ちなみにプラリネの差し出した魔晶石もおまけとして回収されている。
「ただ約束しなさい。
いつか必ずあたしのところに戻ってくるって。
その時はあんたが助けたいって言っている人を連れてくること。
ちゃんと歌も聞かせてもらう。
――あたしはあんたの未来に投資するんだから」
テンペストは玉座のような高所から降り、オレットや冒険者たちの目の前に立つ。
近くで見ればその妖精としての美しさと格の高さがありありと見えるだろう。
「――約束します。
絶対に助けて......またこの場所に来ることを」
* * *
「でも何にしようかな......あんたにあげるもの。
そうだ、あれにしようか」
冒険者とオレットの心や技が勝ち取った妖精の力。
具体的なその内容はというと――緑色をした妖精の羽根だった。
「あんたはなんだかんだこれまで無事だったみたいだけど。
見た感じ体が丈夫なわけでもなんでもなさそうだからね。
これから先もずっとそうだとは限らないでしょ?
この羽根はあんたを風で包んで何が飛んできても守ってくれる。
勿論少し離れた場所くらいなら羽根を飛ばすことで同じ加護を受けられることができるかもね」
その羽根は風のバリアになるという。
矢が飛んでこようと、弾丸が飛んでこようと、魔法が飛んでこようと。
風によってその身は守られるはずだ。
「......ありがとうございます」
オレットは赤い帽子にその羽根飾りを差し込む。
「――ああ、そうだ。
あんたどっかの枝折ったでしょ?
勝手にそんなことしたら許さないんだけど今回は特別。
ありがたく貰って行きなさい」
これはヴェンデルベルトに対しての言葉だ。
もし機嫌が悪かったら、怒られていたかもしれない。
ちなみに彼女はいま機嫌がいいようだ。
ちょっとした願いならついでに叶えてくれるかもしれない。
* * *
「平凡さや醜さを知る、か。
正直そんな存在忘れてたな。
あたし、この場所に待ってるだけだったから」
テンペストはこの美しい世界にだけ長い間とどまっていたのだろう。
この世界には醜いものはおろか平凡なものすらない。
まるで天国のようでありながら――変化の起きない空間など退屈に決まっている。
待っているだけ手に入れられるものは限られている。
本当に素晴らしいものを手に入れるためには動き出さなければならないのだ。
「――あたしもたまには外に出てみようかな」
コンチェルティアの森に久しぶりに風が吹く時が来たのかもしれない。
「あ、そうだ......一つ教えてあげる。
あたしは風の言葉を聞けるんだけど少し面白いことを聞いたんだよね。
だから今あんたたちをそこに運んでいく。
――勘違いしないでよね。
あたしはただ綺麗なものを確実に見たいだけなんだから。
安心しなさい、リナリアのところにいるのもつれていってあげる」
冒険者たちが体の周囲の様子を伺えばいつの間にか風が体を囲んでいる。
その風は次第に冒険者たちの体を押し上げて。
――宙に浮かす。
「いったい......どこに飛ぶんです?」
空中からオレットは下を覗きつつ尋ねる。
「――きっとあんたも知っているところ」
風の勢いで全ては急上昇する。
* * *
リナリアの力を借りて無事に弔いを済ませることができたタタラ。
「お仕事お疲れ様。
――せっかくだから私からも一曲」
リナリアがハープを奏でて歌うのは鎮魂歌。
タタラの心もその歌声に安らぐであろう。
「音楽って素敵だと思わない?
形も言葉も生死も超えて伝わるんだから。
あなた風に言えば祈りもそうなのかしらね」
リナリアとタタラが語らっていると、急に憶える浮遊感。
タタラの体はいつの間にか浮かんでいた。
「彼ら、やったのね......思った通りだったわ。
テンペストってば最近何かが欠けていた気がしたから。
きっと埋めてくれるって思っていたの」
リナリアの言葉でタタラは理解するだろう。
オレットはおそらく願いを無事に叶えたのだろう。
「人は何かが欠けていたり抱えすぎたりするものかもしれない。
でも、負けたりしないでそんなときは歌えばいいのよ。
もうわかってるでしょ?――タタラ」
タタラが空に消えていく中。
リナリアの言葉だけが森に残った。
―――――――――――――――――――――――――――――――
あんみつ@GMより
テンペストはオレットの頼みを叶えてくれます。
ティキの贈り物とヴェンデルベルトの言葉が効いたみたいです。
プラリネの空気作りもなかなかのものでした。
タタラはリナリアのショートカットを使うことができますね。
他にもいろいろとお返し(・∋・)
オレットの願いを終えたあと、ちょっとした願いならテンペストが叶えてくれるかもしれません。
あとは可能な限りに自由にしてください。
ただ最後はどこかに吹き飛ばされます(・∋・)
また次回エンディング投稿となる予定です。
その際各PC毎に1シーンくらいであればもし希望があればお受けします。
最後にこのNPCと話したいとかこういうシーンが欲しいとかあれば(*´∀`*)
なければなしでもいいですぜ(・∋・)