【D2-5】最後の準備
クーガはデイジーに自分が知った事実を建物の前にいるデイジーに伝える。
聞きながら彼女は余裕の微笑みを浮かべている。
ここまで想定内であったのだろうか。
「ありがとう、思った通りの働きをしてくれるのね。
見ていて楽しかったわ。
――そうね、私が知ってる限り各区画に1つ楽譜は渡ったみたい。
予備の一つはもう貴方たちが回収したんでしょう?
尤も性質的にすぐに気がつくものだから広範囲に渡って見回ればなんとかなるんじゃない。
あと、もし私たちの近くに出てきたら"処理"しておいてあげるわ。
......黙って殺されるようになんてもちろん言えないでしょう?」
デイジーはやはり大々的には協力する気はないらしい。
プリアーシェらが表立って動いていることを知っているため余裕があるのだろうか。
デイジーから手に入ったのは楽譜が各区画に1つ配られている可能性が高いこと。
そして、いざという時には"花の夜想曲"が"処理"するという。
――実態は想像通りであろう。
「もうひとつ、特別にあなたに教えてあげる。
赤髪の男――魔術が得意だそうよ。
おそらく今までの殺人もそれを使っていたんじゃないかしら」
犯人と思われる赤毛の男は魔術師であるらしい。
住居への侵入や、実際の殺害についても魔法を使っていた可能性は高いだろうか。
「あと私から言えるのはひとつだけね。
――死んじゃダメよ。
楽しみが一つ減っちゃうもの」
* * *
フィンは再度ヴォルディーク邸に戻ってくる。
「それでは、僕はお先にカイルさんのところへ行きますね」
そう言ってミハイルはフィンから離れて奥の方の部屋へ向かう。
そこはカイルの私室であるらしい。
フィンはアポロのいる部屋の方を目指す中、部屋の前に佇むエミールを見つける。
>「エミールさん、お疲れさまです。アポロはいい子にしてますか?」
「今は、中に彼のお友達がいるからね。
ちゃんといい子にしているさ」
アポロのお友達とは、おそらく二ェストルのことではないだろうか。
>「3番街でミハイルさんが見つけたものです。メティシエの『召霊曲の楽譜』だと思われます。これが街じゅうで演奏されたら、不死者がコンチェルティアにあふれるでしょう」
フィンがミハイルに見せたのは『召霊曲の楽譜』。
>「なにか、こういった呪歌について、打てる手立てをごぞんじないですか?」
エミールは少々深刻そうに考えながら言う。
「つまり、これが使われる可能性があるということかな?
なるほど......彼ららしいね。
僕もこの楽譜については知っているよ。
打てる手立てか、わかることとしては音楽による対抗をすることしかないんじゃないかな。
それとも、奏者を止めるか。
この楽譜......弾いてみればわかるけれど、一度弾き始めたら最後死ぬまで心が囚われてしまう。
最も心を落ち着かせる術があれば別だけどね。
たぶん、彼らは無関係な人でも使うんだろう――哀しいけどね」
『召霊曲』を弾いた者は不死神に心を囚われてしまうそうだ。
精神を落ち着かせる技術さえあれば、彼らの心を取り戻せるそうだが。
ない場合は手段を選んではいられないだろう。
――ただ、プリアーシェが神殿の協力を得ることに成功していれば、最悪の事態は防げるかもしれない。
ちなみに彼が詳しいのは、おそらく過去に起因するのであろう。
>「エミールさん、あの......目覚めの呪歌はごぞんじですか?」
「悪いけど、僕は使えないよ。
あまりむしろ寝かせたりする方が得意なんだよね――性格的にもさ。
それに僕はどちらかというと剣の方が得意だからね」
エミールは残念ながら目覚めの歌を奏でることはできないらしい。
子守唄を歌うことはできるが、どちらかというと剣の方が得手だそうだ。
専業の詩人に比べれば、スキルは幾段か落ちるということであろう。
カーバンクルはしょうがないからそれくらいは許してくれるそうだ。
* * *
そのままフィンはアポロと二ェストルの待つ部屋へと向かう。
>「ただいま、アポロ。ポチを見ててくれてありがとう。すごく助かったよ」
「遅いぞ、フィン!
えっと、ポチ......ポチ?
ああ、ちゃんと見てたぞ、うん!」
言葉とは裏腹にアポロはポチの存在をすっかり忘れていたようだ。
たぶん、怪しい動きは全く見ていなかったようだが。
其の辺はエミールや二ェストルがいたため問題なかっただろうか。
>「あのね、いま僕たちのあいだで相談してるんだけど、どうやらこのお屋敷が僕たちの秘密基地になりそうなんだ。もちろんアポロも、 秘密基地の一員だよ?これからちょっとそのことでカイルさんとお話してくるけど、いい子で待っててくれる?」
「秘密基地?ここが秘密基地になるの?
すげーじゃん、おれ秘密基地二つゲットだぜ?
うん、おれ待ってる、待ってるから早く行ってこいよな!」
秘密という短い言葉は、子供にとっては無限大の魔法の言葉である。
アポロは更にワクワク感を加速させているようだ。
「ネス兄ちゃん、それじゃ続き何か歌ってよ!
今度は妖精の詩とかがいいなー」
フィンが部屋を後にするとアポロは再び二ェストルに歌をねだる。
* * *
七色の調べ亭にやってきたプリアーシェは、アンネに新たに分かったことを告げる。
内容は事件のことよりも、コンチェルティアを不死者が襲いかねないという事態についてだ。
それは呪歌の類である可能性が高いことや既に神殿に協力の要請を出していることなどを詳しく述べれば。
「ええ、不死者らしき者が出たのは知っているわ。
ただすぐにいなくなったらしいから見間違いかと思っていたけれど......。
あなたの話を聞く限り本当なのね......だとすれば一大事だわ」
アンネは軽く頭を抱えた。
続いて、プリアーシェが依頼としてこの件を店に出すことを告げると。
「わかったわ、簡単な手順は飛ばしましょう。
一刻を争うのだから、当然ね。
この街は音楽の街だから、依頼に沿う冒険者なら数人はすぐ出せると思うわ。
――一応そこのリオンもね」
それを聞いてかプリアーシェは。
>「ですから私は、リオンさん、あなたにもご協力いただきたいと考えています。
カウンターの傍に腰掛けていたリオンにも声をかける。
彼は興味のなさそうな顔をしながらもしっかりと耳は話に傾けていたらしい。
「......わからないな」
リオンは少し呆れたかのような調子で言う。
「君が受けたのは、事件の犯罪者を捕まえることだろう?
逆に言えばそれだけ済ませればいいだけの話じゃないか。
この店の名誉も、この街の安全も、そして僕という存在も君には関係のない話だろう?
それでも何故君は僕の協力を求めるんだい?」
彼は基本的に合理的すぎるほどに物事を考えているのだろう。
必要なことはやる、必要でないことはやらないのだ。
だから、同じく理性的な存在だとプリアーシェを思っていた彼はひどく不思議に思ったのだろう。
この街の全てと関わりのないプリアーシェが何故街を守るために足を動かすのかが。
「僕はこの店の冒険者だ。
だから、アンネさんが行けというなら僕は行くよ。
今他に仕事があるわけでもないから。
――ただその前に少し気になっただけさ、君が何を思っているのか」
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あんみつ@GMより
準備フェイズ二段階目終了です。
この後で何らかのイベントを発生させます。
プリアーシェとクーガについてですが。
特に宣言がなければヴォルディーク邸へと戻す扱いとします。
何か問題があればご連絡ください。