守るもの、守るべきもの

 フィン(雪虫) [2015/11/09 22:57:44] 
 

>「この子のことは僕に任せて」

 エミールさんがそう声をかけてくれた。

 「よろしくお願いします」

 僕は彼にそう言っておじぎをすると、部屋を出た。クーガさんといっしょに3番街のはずれ、ミハイルさんのもとを目指す。

 「僕、きょうだいがおおくて。ちょうどアポロとおなじくらいの弟も、いるんです。ふたりも」

 だまったまま歩くといやなことを考えてしまいそうだった。だから、ぽつりと言葉をこぼす。

 「......守りたいです」

 それは、クーガさんに聞こえていたかもしれない。聞こえていなかったかもしれない。

※ ※ ※   
 
 白い毛並みの小柄なタビットがひとりの衛兵さんと話をしていた。タビットのひとがくるりとこっちを向く。

 >「あれ、クーガさん。
   もしかしてカイルさんに話を聞いて?」

 このひとがミハイルさんでまちがいないみたいだった。

 僕たちがアンデッドの件をたしかめに来たことを告げると、ミハイルさんはこう答えた。

 >「アンデッドは今ここにはいませんよ。
   ただ少し興味深いものを見つけました。
   ......これなのですが。
   見たところ不死者を召喚する曲ですね」

 ミハイルさんがそう言って僕たちの目の前にさしだしたのは、一枚の楽譜だった。そこにしるされた曲を自分でも理解して、僕は凍りついた。

 「...召霊曲の...楽譜......メティシエの......」

 こういうたぐいの品があることは、書物で読んだことがあった。けれど、現物を目にすることがあるなんて。しかも今、こんなタイミングで。
 全身がつめたくなるのがわかった。
 これは、特殊な「歌」の楽譜だった。不死神メティシエの力と操霊術を組みあわせ、それをさらに歌の形で実現するんだ。
 
 悪夢だった。
 
 ここコンチェルティアにはたくさんの楽師がいて、たくさんの楽器があって。そのひとつひとつがおそろしい呪歌をかなでないように見張るなんて、とても無理だ。
 街のあちこちでいっせいにこの曲が流れたら......。コンチェルティアはどうなってしまうんだろう。
 
 「楽譜は折りたたんだり、丸めたりして持ち運びがしやすいです。もしこの曲の楽譜が複数つくられていたら......だれがどこでアンデッドを召喚しようとしているのか、見当もつきません」

 僕はあせった。
 たしかなことは、街中にあらわれたアンデッドの背後には、メティシエの信奉者たちの姿があること。「無限の探求者」の一部とみてほぼまちがいないだろう。
 
 「無限の探求者」は、予言者を、アポロを狙ってるんじゃなかったのか......。もしや、その目的をはたすために街じゅうを混乱におとしいれるつもり......? 

 わずかにだけれど、彼らのしようとしていることがなんなのか、その糸口はつかんだ気がした。

 >「つまり、不死者が本当にこの街の中に現れた可能性が高いということですか。
   参ったな......こんなことならもう少しうちの子に家から出ないように言っておくべきだったか」

 かたわらに立つ衛兵さんが、心配そうにそう言った。

 >「いや、うちの息子アポロって言うんですが。
   そういう年頃なのかこれがなかなかわんぱくな子でして......手がかかるんですよ

 「えっ?」

 まいった、と言いながら手をやる彼の髪の毛も、銀色だった。笑った顔がよく似てる。

 「アポロの、おとうさん......?」

 なんていうめぐり合わせだろう。僕はおどろいたし、心配をさせたくない気持ちからほんの少しためらった。
 でも、彼に話さなくちゃ、どんな態度をとられようとも。だってこの人は、アポロのお父さんなんだ。そう決めると、ふしぎと落ちついて話すことができた。

 「アポロを...。5番街のアポロをヴォルディーク家で保護しています。おそらくアンデッドを呼びだした『無限の探求者』は、このところの連続殺人にも関わっていると思われます。被害者はみんな『予言者』をなのっていました」    

 銀の髪をした衛兵さんをまっすぐ見あげる。

 「アポロには、ときどき『これから起こること』を見とおす力がある。そのとき、彼の瞳が真っ赤にそまる。そして、そのことは彼自身知らない。......そうですよね」

 お父さんがまったく気づいてないということは考えづらかった。

 「僕はフィン・ティモシーといいます。ルキスラの冒険者です。ヴォルディーク家ご当主からの依頼を受けてうごいています。でも、依頼とはべつに、僕はアポロを守りたいんです。急にこんなことを言われて、おどろかれたかもしれませんけど......。でも、今のところアポロは安全です。彼の力について、危険については知らせていません」

 僕はしっかりと顔をあげて、アポロのお父さん、クーガさん、それからミハイルさんにこう言った。

 「きっとこれから、アンデッドを呼びだして街を混乱させるようなうごきがあるでしょう。僕、もう少しミハイルさんといっしょにアンデッドについて調べたら、それをヴォルディーク家に報告します。混乱に乗じて、アポロの身に危険がせまることのないように」

 僕は今、強くなりたい。強く、なれる。

 「お父さんは、どうされますか。僕たちを...信用してくれますか」


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PL(雪虫)より


いつでもびくびくぷるぷるしがちなフィンですが、今回はぷるぷるしません。

まずアポロのお父さんには、ぼやかすことなく分かっていることを伝えます。
彼がヴォルディーク家にやって来るか、街を守るか、それとも家族を守りに戻るのかはわかりませんが......。
アポロの「予言者」としての力についても、お父さんが知っていたら話を聞きたいです。

ミハイルさんとともにアンデッドについてこの場でわかるかぎりのことを確認したら、ただちにヴォルディーク家に戻って報告します。


雪虫@フィン ≫ 楽譜について 2d6+8+1 <Dice:2D6[3,4]+8+1=16>