真語魔法第一階位

 フィン(雪虫) [2015/11/21 22:24:19] 
 

 アポロの様子をたずねた僕に、エミールさんはこう言う。

 >「今は、中に彼のお友達がいるからね。
   ちゃんといい子にしているさ」

 よかった。ネスさんといっしょに、おとなしくしているみたい。

 >「この楽譜......弾いてみればわかるけれど、一度弾き始めたら最後死ぬまで心が囚われてしまう。
   最も心を落ち着かせる術があれば別だけどね。
   たぶん、彼らは無関係な人でも使うんだろう――哀しいけどね」

 呪歌の効果をふせぐ手立てをきいた僕に、エミールさんが答えた。
 なにも知らない、関係ないひとまでまきこむなんて......。怒りをこえて哀しくなる。

 エミールさんは目覚めの呪曲を知らないことも聞いた。そのことは心にとめておかなきゃ。

 「ありがとうございます、エミールさん」

※ ※ ※

 >「遅いぞ、フィン!
   えっと、ポチ......ポチ?
   ああ、ちゃんと見てたぞ、うん!」

 ポチのことをすっかり忘れるくらい、いつもどおりにリラックスしていたみたいだ。
 秘密基地がふえたとはしゃぐアポロにおもわずふふっと笑いがこみあげる。
 ネスさんに次の曲をおねだりする様子を見て、ネスさんに目線で「おねがいします」と合図してから、僕はそっと部屋をぬけだした。

 ミハイルさんに招きいれられて、カイルさんの私室に入る。

 >「詳しいことはミハイルから聞いた。
   不死者が街で召喚されるかもしれないんだろう?
   ――厄介だな」

 鎧姿になったカイルさんは街の方向をみつめながらそう言った。

 >「ただ、今大事なのはそっちじゃない。
   あの子供を守ること――そうだろう?
   街は他の者たちに任せて、俺たちは今この場所でやれることをするだけだ。
   安心しろ、あいつは俺が守ってやる――ザイアに誓って。
   だからお前の力も貸してもらうぞ」

 さいごの言葉はミハイルさんにかけられたものだった。けれど僕も「はい」、とうなずく。
 その瞬間だった。
 なんとも形容できない、すごくいやな音色がひびきわたった。ぞうっとつま先から頭のてっぺんにむけて毛が逆立った。
 そして地響きがつたわってくる。

 >「――来たらしいな。
   俺はあの子供の傍に控えてる。
   何があっても守っておいてやる。
   だからお前たちは庭の様子を見てきてくれないか?
   ......ミハイル、お前もな」

 僕は1秒のはんぶんくらい考えこんでから、首をふった。

 「僕もご一緒します。アポロのそばにいたいんです。その方が、お役にたてると思います」

 カイルさんの目をしっかり見ながら言う。そして、彼とともに走りだした。

※ ※ ※

 「アポロ!」

 アポロはちょうど部屋のまんなかあたり。ドアとひとつしかない窓から見て、ネスさんとエミールさんがそれぞれ盾になる位置に立っていた。
 僕はポチをアポロの肩にのせた。

 「ポチ、アポロからはなれないで。ぜったいに」

 窓から外を見る。スケルトンが数体と、首のない馬がひく戦車に乗った異形のものが見えた。

 >「庭の敵はスケルトン2、デュラハン、暗殺者らしき人間1!
   不死者はこちらで対処可能です!
   そちらは護衛対象を固めてください!」

 プリアーシェさんの凛とした声がここまでひびいた。

 「わかりました!気をつけて!」

 届くかわからないけど、僕も声を張る。
 
 その僕のうしろで、ネスさんは妖精に何かを語りかけているようだった。宝石がきらめき、なにかが床から姿をあらわす。
 たくさん、なんていう数じゃない。床一面にびっしりと。
 土の妖精、ムリアンだった。ちいさなちいさな黒い紳士たちが、部屋の絨毯をおおいつくした。

 そこに、クーガさんが駆けこんできた。
 暗殺者は赤い髪の男。真語魔術第六階位、隠身の魔法を使ったという。
 第五階位の魔法を完成させるのがやっとな僕じゃ、きっとかなわない......。

 ちがう、気弱になるな。なにか......、なにか隠身をやぶる方法を考えるんだ。

 僕は部屋中のみんなにさけんだ。

 「今からこの部屋を魔法で施錠します!だれも、ここから出ないで!」

 そしてまず扉に、つぎに窓に施錠の魔法をかける。これ自体はとてもかんたんな魔法だ。その扉に対応する鍵の現物があったり、そうでなくて腕利きの斥候がいたらすぐに扉は開いてしまう。
 それに鍵なんてなくても、赤髪の男が開錠の魔法を使えないわけがない。

 けれど、それが僕の意図だった。

 隠身の魔法を維持するためには高い集中力が必要だ。たとえば、開錠のようなほんのかんたんな魔法でも、もし使ったらすぐに隠身はやぶれるはず。
 僕はいままでに犠牲になったひとたちのことを思いだした。みな、体力的には弱いひとたち。目を閉じて、心臓をひと突きにされて。
 殺人者は、武器の扱いに長けていたんじゃない。隠身でちかづき、魔法で眠らせたところを襲っていたんだ......。

 こんどは、そんなことさせない。

 「姿を、みせろ......!」

 床に無数の妖精たちがうごめくのを感じながら、僕はひくくうなった。

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PL(雪虫)より

渾身の低レベル魔法をくらえー!(真語魔法1レベル「ロック」)

もしクーガさんが入室した後、まだ廊下にいたら、赤髪の男は「アンロック」をしなければ部屋に入れず、「コンシール・セルフ」はやぶれてこちらの戦士3人に姿をさらすことになります。
万一すでに入室して息をひそめていたら、無数のムリアンにたかられて「人型」が見えるでしょうし、もしかしたら悲鳴もあげることでしょう。
戦士系技能はたいしたことないか皆無のようですし......。逃げようにも外にはプリアーシェさんたちがいます。
できればゆっくりとお話をきかせていただくことにしようと思います。