下手の考え
仕事の始まりは1冊の本だった。
――――招かれている。
その感覚は、シィノにはよくわからない。
シィノたちを招いたのは、図書館ではなく、目の前の依頼人だ。
それとも。
シィノがこの依頼を受けるのも、「招かれたから」なのか。
考えても詮無いことだ。
招くのは向こうの勝手。シィノにも断る権利はある。
シィノはシィノの意思で応じた。
つまるところ、これはいつもの依頼。
>「この本はもともとは図書館にあったものだからね。
> きっと君たちを導いてくれると思うんだ」
光る本は初めて見た。光っているせいで輪郭が見にくい。
>「さて、それじゃ依頼について最後の確認をするね。
> 報酬自体は正直僕からはあまり払えないんだ。
> でもその代わり、図書館から好きな物を持って帰ってくれればいいと思うよ。
> あれは、僕のずっと昔の先祖が作ったものだから」
別段少ないとは思わない。
少ないと感じるなら、それは実入り以上に欲しいものがあるからだ。
次の仕事まで飢えずに、屋根の下で暮らすだけあれば充分。
しかし、本。本か。
難しくなければ、読む。
光る本があるくらいだ。鳴く本や歩く本もあるかもしれない。
>「僕も図書館にこの状態の本を持っていったら何が起きるかはわからないよ。
> でも、たぶんきっと何かが起きる。
> 君たちがその何かを見届けて戻ってきてくれるのを待ってるよ――勿論無事にね」
目的があいまいな依頼は苦手だ。
雇い主は何をしてほしいのか。
シィノは何をすればいいのか。
大丈夫だ。問題ない。
今回はアルフェイト殿がいっしょだ。
ラキアスもいる。
ダグリオン殿とは護衛の仕事をしたことがある。
アリサ嬢とはあまり話したことはないが、ともに妖精の里を訪れた。
ラウラ嬢。またひとり、同族の知り合いが増える。
シィノと、ラキアスと同じ剣士。
彼女はどのように戦うのだろう。
本。図書館。
いままで縁が薄かった。
何が待っているのか、想像もできない。
まあ、いい。
行けばわかるだろう。
――――PL――――
改めまして、紫乃です。よろしくお願いします。