味
シィノヴィア(紫乃) [2015/11/15 15:01:55]
>「ん、こんなモンで良けりゃ喰ってくれ」
ダグリオン殿からもらったのは、白くて長い麺が具のスープ。
「ありがとうございます」
湯気が立つそれを少し冷まし、ひと口。
麺はつるつるしているようなふよふよしているような、不思議な食感だ。
するりとのどを通り、体の内からじんわりと温かくなる。
>「どうぞ・・・味に自信はないですが」
ラウラ嬢が作っていたのはサンドイッチ。
「いただきます」
どこから仕入れているのかは知らないが、ここの食材は新鮮なようだ。
ほの甘いパンといろいろな具の味を楽しむ。
スープもサンドイッチも、店で売っているような出来ではないけれど。
「ごちそうさまでした」
とてもやわらかい味がした。
―*―*―*―
そうこうして、必要なだけのレシピが集まったようだ。
幻獣が厨房に入ると、道具が勝手に動き出し、たくさんの料理ができた。
あらゆるいい香りが攻めてくる。
先ほど小腹に入れたばかりだが、問題ない。
「いただきます」
まっ先に手に取ったのは、レーゼルドーンでよく食べた料理。
シィノが見つけたレシピのうちのひとつ。
これは、北の郷土料理らしい。
はじめは、路地裏やもぐり込んだ納屋でにおいをかぐだけだった。
手伝いをして駄賃代わりに食べさせてもらったこともあるし、空腹が耐えがたくてくすねたこともある。
用心棒を始めてからは、店に入って食べられるようになった。
時にはひとりで。時には仕事仲間や、雇い主とともに。
"家庭の味"は知らないけれど。
シィノはシィノなりの懐かしさをもって、残さず一皿を平らげた。
もちろん、ほかの地方の料理やあらゆるデザートも忘れずに。