【C-1-3】薔薇色の父娘
>「分かりました。しかし、本当に立派な屋敷ですね。管理も大変でしょうに」
シオンが魔動機に気を遣いつつそんな言葉を漏らすと......。
「昔は建物だけでなく空気――雰囲気も立派だったのよ。
......人族の貴方たちにはちょっと微妙かもしれないけど。
今はただただ綺麗な建物があるだけ。
なんていうか――虚しいわね」
バルレを傍目で見送りながら、エレミアはため息をついた。
* * *
屋敷の中も極めて絢爛な作りであった。
姿が映るほどピカピカに磨かれた床。
きっと毛をなるべく落とさないようにしながらバルレが掃除したのだろう。
他にも天井にはシャンデリア。
壁には夫婦と一人娘の肖像。
価値の高そうなものがいくつも並んでいるが......大切なものが欠けている。
――音だ。
何も音がしない。
おかげで豪華な品々に囲まれたこの中を歩くとどうも居心地が悪い。
「謁見の間、父はこの中よ。
扉を開けるわね......大丈夫いきなり魔法が飛んできたり睨まれたりはしないから。
ただ、そうね......最初の挨拶については必要以上に話さないほうがいいと思うわ。
貴方たちには衣装を着てもらってはいるけど、変なところからボロが出るかもしれないでしょう?
――それに、別に父と長々と話す必要なんて更々ないわ」
二メートルほどの翡翠やエメラルドで彩られた石造りの扉を開くと。
まず目に映ったのは知のように床を這っていく赤い絨毯。
そしてその先には黄金と赤い布地で作られた椅子に座る一人の男性。
目隠しをしており、その年齢や容姿は推測し難いが......。
彼の真っ赤な髪色はエレミアと同じく薔薇の花を思わせる。
「お久しぶりです......お父様」
恭しくエレミアが一礼したその先にいる人物こそ。
シオンとキリエの討伐対象――モノマニア・バルカロールである。
「よく来たな、エレミア。
――そして美しき客人たちよ」
晒されている唇に笑みが浮かぶ。
まずはエレミアの姿を上から下まで舐めるように見て。
今度はキリエとシオンについても同様にだ。
二人はモノマニアの目隠し越しの視線に少々悪寒がするかもしれない。
バジリスクの瞳の呪われた魔力か――それともモノマニアの個人的な癖であろうか。
......もっとも体が石化するなどの影響はないためそこは安心できる。
「その風貌から思うにそちらはエレミアと同じく踊り手か。
――そして曲芸の遣り手であるか。
其方らの技芸を見させて貰えるのが楽しみなものだ」
「ええ、勿論。
彼らの技をお父様には存分にご覧になっていただきますわ」
モノマニアの言う"技"とは何で。
エレミアの言う"技"とは何か。
「ところで、お父様。
まだまだお話したいこともあるのですけれど......。
私たち砂漠を越えてきたところで、少し疲れておりますの。
少々お部屋で休んでからまたお父様のところへ参っても構いませんかしら?」
ほんの少しの親子の会話を終えたところでエレミアの方から話を切る。
勿論、準備を始めるためであろう。
「......ふむ、構わない。
久々のお前の家だ......ゆっくりするといい。
御客人たちの案内はお前に頼めるか?
バルレもそろそろ戻る頃だろう。
戻ったらバルレで交代するといい」
モノマニアもエレミアを変に引き止めることはなかったようだ。
久々に砂漠を越えて帰ってきた実の娘をいたわっているのであろうか。
「ありがとうございます。
――それでは」
再び一礼をしてエレミアがこの場を離れようとしたとき。
「そうだ、エレミアとご客人の方々よ。
去り際に申し訳ないが一つ聞いておきたいことが」
そんなエレミアの背中に向けて呼び止めるモノマニアの声。
――続く言葉は。
「――私が......怖いか?」
エレミアの体は一瞬びくりと震える。
そして一度振り返った後。
「どうして、お父様が怖いことがあるのかしら?
もっともお父様のお力については恐れ多いものですけれど。
私一人では親子喧嘩すらできませんもの」
モノマニアの続く言葉はなく。
沈黙のあとエレミアは再び、一礼して部屋を出ていった。
* * *
「ふう......」
エレミアは部屋の扉を締めた後大きく深呼吸をして。
「あたしは"部屋で休ませてもらうこと"にするわ。
貴方たちはこれからどうする?
なんならお屋敷を歩いてもいいわよ。
ただくれぐれも"お父様に迷惑をかけない"ようにね」
―――――――――――――――――――――――――――――――
あんみつ@GMより
進行ですー。
多少長くなりましたが基本的にはお話をしていただけですね。
面会中モノマニアに対してPCから言葉をかけていただいて構いません。
流れの整合性についても特に気にされないで結構です。
勿論挨拶をするだけでも構いませんが。
次回の進行はちょっとした自由行動になります。
お好きな行動をおとりください。
具体的に例を挙げれば。
・エレミアと過ごす
・バルレと過ごす
・モノマニアと過ごす
・屋敷を歩いてみる
・庭を歩いてみる
の5つくらいでしょうか。
外には出れませんのでご了承ください。
戦闘用の準備については別枠としますので、行動を選択する際は無視して大丈夫です。
キリエとシオンで別行動をとっても問題ございませんのでお好きにお過ごし下さい。