【C-1-5】二度目の扉
キリエはこっそりとエレミアの部屋を捜索してみる。
少なくとも監視用の魔動機の類は見たところなさそうであった。
エレミアがキリエたちを騙しているわけではなく。
そしてモノマニアもエレミアのことを必要以上に疑っていることはなさそうだ。
エレミアの部屋はキリエたちの部屋に比べると飾り物が多い。
壁にかけられているのは一枚の絵だ。
どうやらモデルはエレミア自身らしい。
右下には描き手のサインだろうか......交易共通語の文字で【T・ルーヴル】とあった。
またエレミアの荷物から少しはみ出しているきらめき。
それは先ほどエレミアが見つめていた銀製の首飾りであった。
華美な装飾はなく、先の方には半円のモチーフがつけられていた。
まるで何かと噛み合いそうな形をした。
――エレミアは言っていた。
今回の戦いの理由は大切なものを奪われた復讐であるのだ、と。
その片鱗が少しだけ見えてきたかもしれない。
* * *
>「来る前にエレミアさんに聞いたのですが、エレミアさんの母親と言うのはどのような方だったのでしょうか?
> あまり詳しくは聞けなかったので」
何か困ったことがあれば言ってくれというバルレに対し。
シオンは少し気にかかっていたことを尋ねてみる。
その内容とは――エレミアの母であり、モノマニアの妻である人物についてだ。
「奥様......イネス様はとても麗しいお方でした。
このお屋敷には今まで幾人もの旅人が訪ねてこられましたが......。
イネス様よりも美しいお方は一度も見たことがございません。
私がこの屋敷で働き始めた頃から既に病に臥せっておられましたが。
どんなときでもイネス様はお強く、そしてお優しくいらっしゃいました」
本来使いやすい労働力としてしか捉えられていないことの多いコボルドたるバルレの口から、
このような言葉が聞こえるのだから確かにイネスはエレミアにとって自慢の母だったのだろう。
そしてモノマニアにとってもおそらく最高の妻であった。
大切な拠り所を失った二人は心にぽっかりと穴が開いて。
――そしてその穴は簡単には越えることのできない程巨大化してしまったのだ。
親子で殺し合いをしようとする程度には。
「お客様はどのような場所でお嬢様とお知り合いになったのかは存じませんが。
......どうかお嬢様にとって心休める場所となってくださいませ。
私はお嬢様とご主人様の笑顔を見ることこそが何よりも幸せなことですから」
嘘のような翳りなど一つもない瞳でバルレは言った。
* * *
それからしばらくして。
ついにその時はやってきた。
「二人共準備はできてる?」
背中にゴーレムを連れてエレミアは二人の前に姿を現した。
二人も今や偽りの格好ではなく真の戦いに赴く姿をしていることだろう。
「私の方はばっちりよ。
――バルレには彼女のベッドで休んでもらっているわ」
今頃バルレはエレミアの魔法が齎した夢の中なのであろう。
これもまたエレミアの優しさであるのかどうか。
「父はまだ、謁見の間にいるみたいね。
――ちょうどいいわ。
あの部屋は無駄に広いから戦いやすいもの」
そう話すエレミアの体はどことなく震えていた。
戦いを前にした武者震いか。
全てを終えて手にできる自由に対する喚起からくるものか。
バジリスクという強者を相手にする怯えか。
それとも実の父を殺すという罪悪感がそうさせるのか。
「大丈夫......気にしないで。
私は大丈夫だから。
――全部、終わらせるだけよ」
響くのはコツコツという靴の音だけ。
これを嵐のまえの静けさとでも言うのだろうか。
屋敷の中は相も変わらず静寂の中に落ちていた。
――そしてようやくたどり着くのは正面の扉。
最初に見たときよりもそれはどことなく重々しく見えた。
「それじゃ、開くわよ......」
そう言ってエレミアは扉に手をかけようとする。
運命の対峙はもう間もなくだ。
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あんみつ@GMより
進行ですー(*´∀`*)
キリエはまあもろもろ見つかりますね。
エレミアはなんも気づいていないです。
【イネス・バルカロール】を『人物表』に登録しておきますね。
次回から戦闘シーンに入るかと思われます。
モノマニアの部屋に入る前に6R以上効果の続く魔法やアイテムなら事前に使用できるとします。
入っちゃったら簡単には使えません(・∋・)
今のうちにほかにやっておきたいことがありましたら、どうぞ!