道化になれ

 キリエ(シイナ) [2016/01/02 08:35:11] 
 

屋敷の中は酷く静かだった。
鏡のように磨き上げられた床も、屋敷を飾る豪華な調度品も。

・・・この家の主とその家族が描かれた肖像も。

この音の無い屋敷の中では違和感のような、不気味さを引き立たせてしまっている様に思えた。

「謁見の間、父はこの中よ。
 扉を開けるわね......大丈夫いきなり魔法が飛んできたり睨まれたりはしないから。
 ただ、そうね......最初の挨拶については必要以上に話さないほうがいいと思うわ。
 貴方たちには衣装を着てもらってはいるけど、変なところからボロが出るかもしれないでしょう?
 ――それに、別に父と長々と話す必要なんて更々ないわ」

ボロが出る、ね・・・

まあ、実際そうなんだろうけど、こう見えてもこういう場面での口の上手さにゃそれなりに自信があるんだ。

相手の気を緩めさせるためにも、ここは1つ道化になってやろうじゃないの。

エレミアが謁見の間の扉を開く。
居たな、あいつが今回のターゲットか。

「よく来たな、エレミア。
 ――そして美しき客人たちよ」

ぞくりと背に悪寒が走る。
目隠しをしていて目線も表情も読めないが、舐め回すように全身を見られてる感覚がして、思わず息を呑んだ。

(ジロジロと見やがって、気持ち悪いな畜生・・・)

駄目だ、表情は崩すな。
息を整えろ。
声は決して震わすな、今この場に居る『大道芸人』の私になりきれ。

「えー、本日はこの様な絢爛豪華たる屋敷にて芸を披露させていただける事、誠に光栄でございます。
私、しがない旅の芸人をしております『サン』と申します。以後、お見知りおきを。」

さあ、久々にやるぞ。
動作は大きく、若干早口だけどはっきりと聞こえるように。

ああ、そうだ。
勢いに任せて適当な偽名名乗っちゃった。
後で二人に言っておこう。

「まだまだ若輩故、至らぬ事もあるでしょう。
 ですが、このような場で芸を披露できるという、私にとっても又と訪れることのないであろう貴重な機会であります故、全身全霊を賭け、私の芸を披露させて頂きたく存じます。」

後は適当に喋って二人の後ろへと下がる。
さて、これでどんな反応が返ってくるか、見せて貰おうじゃないの。

そうしてエレミアとモノマニアの会話が終わり、私達は一旦客室へと案内されることになったのだが。

「――私が......怖いか?」

モノマニアからの問い。
ああ、何を考えてる・・・?
こっちの腹の内を探るのか、それとも支配者故の興味本位か、イマイチ掴めない。

「モノマニア様はバジリスクだと伺っております。
 私のような矮小な存在が、バルバロスの支配階級におられる方を恐ろしく無い、と言えば嘘になりますね。
 ですが私は芸人として、ここに招かれました・・・私の芸を披露する相手を恐ろしがっていては、芸人としての名が廃ってしまいます故・・・
 そうですね、ここは恐ろしくもあり、恐るるに足らず。とお答えさせていただきましょう。」

口調はわざとらしく取り繕ってはいるが、これは私の本心。
冒険者になって、初めてバジリスクなんて相手にすることの恐ろしさと、背中を預けることが出来る仲間がいることの安心感。
その二つを合わせての答えだ。

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その後、客室に案内されたが、予想以上にやる事が無い。
荷物と服の中にある銃の点検を済ませたり、持ってきた食料を齧って腹を満たしたりしたはいいものの、どうも手持無沙汰な訳で

敵陣のド真ん中だというのに暢気なものだなと自嘲しつつも、無意味にガンスピンをしていたりしていた。

・・・あ、そういえばエレミアはゴーレム作るとか言ってたな。
暇つぶしついでに見に行ってみるか。

そんなワケで、部屋を出てすぐに見つけたバルレにエレミアの部屋の場所を聞き出し、数回のノック。

「邪魔するよ。」

そう言ってドアを開けるとそこには着替え中で何故か全裸のエレミアが!
・・・なんてことは無くていい。そんなのは使い古された設定の恋愛小説の中だけで十分だ。
兎に角、エレミアへと歩み寄りながら話しを切りだす。

「あー、ゴーレム作るって言ってたろ?
 見張りってほど信用してないワケじゃないけど、どんなのか気になってさ。
 邪魔はしないから、おれにも見せてくれよ。」

------PL

仕事モード、というか交渉とか司会とか、あとは演説的な事をするときにキャラが変わるキリエさん。
一体何を目指しているのか。

余談ですがこの演技はキリエの父親の影響です。
多分某俺は悪くねぇ!RPGの鬼畜眼鏡大佐みたいな人。
商人の家で裕福な家庭だったので、仕入れの交渉とかすごく上手いんでしょう。

結構喋ってる気がしますけど実は挨拶してるだけっていう。