全ての経験と思いが結びつくもの
>『そうか......一つ問おう。
お前たちは強い心とは如何にして生まれると思うか?』
竜は語る。様々な経験を経て心が強くなること、それについては私も同じ考えを持っている。しかし彼の語るそれは伝聞であった。
竜が視線を下げ、私達に合わせる。その瞳を見て、その言葉を聞いて、私も全て話すことを決めた。
>『私は世界と世界の境界に佇み、その境界の力を司る竜だ。
どちらにも属しているようで......どちらに属していることはない。
全ての景色を知っているようで......全ての景色を見たことがない。
故にお前が何を見て何を感じたのか、考えることはできても感じることはできぬ。
――だからこそ聞かせてくれ、お前たちの言葉で』
『ならば話そう。私の生きてきた世のことを』
***
その場へ腰を下ろし、私は話した。
シャドウ族の傭兵集団の里に生まれ、そこで受けた愛と苦痛と救済、そして立てた誓いを。
恩人を求めて巡った地方での苦難と鍛練、流浪の日々を。
そしてルキスラにたどり着いてからの友人との出会い、冒険の数々を。
そしてニコデムスとの出会いと、共に駆けた戦場と日常。
くだらないことに腹の底から笑った事、己を過信して思い知らされた事、取るに足らぬと足蹴にして、後で悔いた事も全て。
その全てについて、その時私が感じたこと―震えるほどの喜び悲しみ、怒り憎しみ、高揚に落胆、希望に失望を、包み隠さず話した。そして、長い長い語りの最後をこう締めくくる。
『武において。槍の一振りが私を強くした。』
『芸において。鑿の一掘りが私を強くした。』
『知において。書の一項が私を強くした。』
『幾千幾万の景色の前にただ漫然と在ったものと、そこに落ちているつぶて一つにすら価値を見出し、心が動くもの。私は後者でありたいと願うし、現にそうあっているつもりだ。』
そこで一度話を切る。溜息を一つついて、もう一度口を開く。まだ、言わなければならないことがあるのだ。
『語っておいてなんだが、石ころを見て何かを得たとして、それがどう働いて私を強くするのかなどは私には到底わからない。自分で変わってみなければ......いや、変わったとしてもわからない。だが確かに私はその経験を踏まえて「成長」しているのだと、強くなっているのだと、そう思う』
***
長く息を吐いた。そののち、立ち上がる。長かったような気がするし、あっという間に話してしまったような気もする。言いたいことをすべて言って、何かが抜けたような、逆に埋まったような、そんな気がした。
体をそっと伸ばして、再び槍を手に取り、再び竜の目を見つめた。返事を聞く前に、別の声が私の後ろから発された。
『人と一緒に飛んだことがある?』
その声に振り向くと、ニコデムスが私の横に歩み出て、かの竜に声をかけている。
『飛びたいのか?飛べないのか?......ケガ?病気?なんでも治せる、ティキの魔法なら』
ニコデムスは、ずっと気になっていたのだろう。先に竜が見せた、空に対しての羨望と悲哀のような感情。
ニコデムスは、再び竜を空に舞わせたいのだ。
できるかそうでないかなら、もちろんできる。妖精魔法に頼れば、私は病、毒、怪我の類なら治せる。体が動かずとも飛べる法も知っている。......が、それには別に価値ある石が要る。果たしてここでみつかるだろうか。
それ以前に彼は飛べないのではなく、この境界を守護する役目のためにここを離れられないのではないか。
これは、場合によっては逆鱗に触れるような問いかもしれなかった。恐らく、ニコデムスもわかっていて言っている。それでも私はニコデムスに何も言わず、ただ隣に並んで古竜の前に立つ。
例え彼が激昂しようと、一歩も引かぬ決意を胸に。
PL
長いよう。でも書きたいこと書ききった。
なんかこっちからも挑戦見たいになってるかも