【C-4-1】ドラゴンハート
>『ならば話そう。私の生きてきた世のことを』
そう言ってティキは語り始める。
心の強さを見せるために。
ドラゴンの望みを叶えるために。
まずはティキの生まれから冒険者になるまで。
続いて冒険者になってから経験してきた数多のできごとを。
その時の感情の揺らめき、心の動きを欠かさずに、だ。
>『武において。槍の一振りが私を強くした。』
>『芸において。鑿の一掘りが私を強くした。』
>『知において。書の一項が私を強くした。』
>『幾千幾万の景色の前にただ漫然と在ったものと、そこに落ちているつぶて一つにすら価値を見出し、心が動くもの。私は後者でありたいと願うし、現にそうあっているつもりだ。』
そう言ってティキは言葉を締めくくる。
ティキの在りたい姿――否、在るべき姿について。
>『語っておいてなんだが、石ころを見て何かを得たとして、それがどう働いて私を強くするのかなどは私には到底わからない。自分で変わってみなければ......いや、変わったとしてもわからない。だが確かに私はその経験を踏まえて「成長」しているのだと、強くなっているのだと、そう思う』
最後に等身大の思いを乗せながら。
* * *
ドラゴンはいつの間にかその目を閉じていた。
断じて眠っているわけではない。
彼は瞳を閉じることでティキが見てきた世界を擬似的に視ているのだ。
実際の視界ではなく、想像という世界の中で。
『なるほどな......よく聞かせてもらった。
生まれてから今に至るまでの全ての経験、全ての思いを刻み。
どのような些細な事柄に対しても己としての思いを抱く。
それが......お前の心の強さというわけだな』
その後も引き続き竜は何かを口にしようとしたかもしれない。
けれど、もう一匹の竜――ニコデムスの方が多少早かった。
>『人と一緒に飛んだことがある?』
今まで主にティキに向けていたその視線がニコデムスの方へとスライドする。
>『飛びたいのか?飛べないのか?......ケガ?病気?なんでも治せる、ティキの魔法なら』
ニコデムスを見る瞳が大きくなる。
その口が何かを吐き出すかのように開き出し。
洞窟の中が揺らぐような音が響き渡る。
最初の瞬間は怒りの雄叫びだと感じたかもしれない。
しかしすぐに、それとは異なるものだと察知できたはずだ。
二匹の竜は理解する。
目の前のドラゴンは決して怒ってなどいない。
むしろ逆だ。
――大きく笑っているのだ。
『そうか......これこそが心の強さか......!
私に比べれば卑小な齢の小さな体の分際で、この私を気遣うとは。
お前は決してただの小さなドラゴンではなかったというわけか。
私の目もまだまだ鋭さが足りないようだな』
瞳に浮かんでいたうっすらとした寂しさが少し消えて見えた。
今、伺える感情は――穏やかな強さと、優しさ。
『お前たちを試すために心の試練を課したが。
想像していた以上――私の心以上にお前たちのものは強かったのかもしれぬな。
小さくも強く、誇り高き竜よ。
お前の思う通りだ、私は人と真の意味で心を通わせたことはない。
真の意味で空を自由に羽ばたいたこともない』
ドラゴンはニコデムスに語りかける。
己の弱さを語るのは誇りを傷つける行為とも言えなくない。
それでもドラゴンが語った理由。
彼は見かけだけでない心の強さを見出したのだろう。
『私はこの世界が終わるその時まで。
いや、この世界が終わったその後も。
空を飛べることなどないと考えていた。
けれどこの考えこそが心の弱さの顕れだったのかもしれぬ。
私は竜の肉体や知恵、強靭な生命力と精神力を持っていると自負していた。
されど違ったのだな――私の心の大切な部分が幾つか欠けてたようだ』
弱さを知ることこそ強さだ。
* * *
そして再度ニコデムスからティキへと視線を移す。
その佇まいには不必要な威厳はないが、確かな力強さがあった。
『人の姿を取った若き竜よ。
お前たちの心の強さ、しかと見届けたぞ。
世界と世界を超えて羽ばたくに十分すぎる力がある。
好きにこの境界の穴をくぐり抜けるがいい』
ドラゴンはティキたちの心の強さを認めたのだ。
これでラクシアへこの世界から帰還することができるだろう。
『ただ強き心を持つお前たちに私からひとつだけ望みがある』
ドラゴンの抱いた望み。
――その正体とは。
『私だけではない。
この世界全てを解放して欲しい。
偽りの狭い空ではなく、真実のどこまでも続く空を飛べるように』
世界の解放。
それは魔剣の迷宮の真の意味での攻略。
『それはお前と相棒だけでは叶えられぬ夢だろう。
だがお前たちには強い心を持ち自由を愛する仲間たちがいるはずだ。
自由とは独りで全てを享受できるものではない。
個々の力では必ずどこかに限界がある。
幾人かで求めることで――真の自由に到れるのだ』
――竜の息遣いだけが聞こえる。
『私は世界が終わるその時までこの地で待ち続けよう。
例えお前に世界の開放が果たせなくとも。
お前の志を次ぐ者が叶えてくれることを信じて。
しかし、それ以上に私はいつまでも待っている。
お前が真の自由を世界に齎す日を』
きっとこれからもティキとニコデムスは羽ばたいていくだろう。
この翼の王国を抜け出して。
ラクシアのどこまでも続く広大な空を。
そして彼女たちの翼が描いていく冒険の道は。
――いつか自由の王国に偽りなき自由を齎すかもしれない。
―――――――――――――――――――――――――――――――
あんみつ@GMより
あと1、2シーン挟もうかと思いましたが。
ここで終わりにするとキレイだなーなどと思ったり。
こちらがティキ最後の進行となります。
2ヶ月もの間お疲れ様でした。
こちらはエンディング専用カテゴリとなります。
こちらの記事への返信を投稿いただければ、ティキは解放となります。
その際に剣のかけら9個分のダイスをお振りください。
剣のかけらやSQ達成報酬など今回の報酬は、
募集の方に記載しておくのでご確認ください。
内容については最後なのでお好きなように書いてください。
最後までかっこよくどうぞ(*´∀`*)
このカテゴリに記事を投稿する際は、
カテゴリ『4-竜の持つこころ』にチェックを入れて投稿してください。