警戒。警戒。
斬られたのかと思った。
左の手の甲がカッと熱くなり、思わずうめいた。
しかし、それも一瞬のこと。
強張る腕をなんとか持ち上げ、目で確認するころには痛みは引いていた。
「............」
汚れかと思って、服で拭った。
消えない。
うっすらと浮びあがるそれを、右手の指でなぞった。
>「そこのお前......一体何をやっているんじゃ!」
怒鳴られた。
振り向くと、黒衣の女性がこちらへ向かっている。
高齢に見えるが、動きは元気だ。
>「私の手塩にかけて育てた野菜を勝手に食べるとは......何様のつもりなんだい?
> まったくこれだから近頃の若い娘は。
> ......どれ、見せてみな」
どうやら畑の主らしい。
せっかく人に会えたので、その場を動かずに待ってみる。
どういう状況なのか、ここから何をしたらいいのか、まずは見極めなければ。
初対面の人に触られるのは嫌だったが、大人しくしている。
>「あれまあ、こんなに薄いのかい?
> これじゃあすぐに消えてなくなっちまうねえ。
> でもお前......この呪いが浮き出ている間は森の外には出れないよ。
> 出ようとすれば体中が傷んで動けなくなるのさ」
とんでもなく迷惑な呪いだ。
この野菜はこの人が作ったという。
なぜ、このような呪いを持つ野菜を育てているのか。
まさか、自分が食べるためではないだろう。
>「さて、勝手につまみ食いしたことについてはどう責任を取るつもりなんだい?
> まさか逃げようってことはないだろうねえ......?
> もし反省してるっていうんなら、ちょっとあたしの手伝いをしておくれ。
> お前はそれなりに器用そうで体力もありそうだ」
食べたくて食べたわけではない。
いや、なぜかとても食べたくなったから、食べてしまったのだが。
シィノが本当にシィノの意思で食べるなら、葉っぱではなく果物を選ぶ。
だから、「食べたいと思わされた」というのが正しいのかもしれない。
>「さあさあ、ぼさっとするんじゃないよ!」
急かされたので、籠を取って畑へ入った。
反省はしていないが、特にやることがあるわけでもない。
とりあえず、しばらく様子を見ることに決めた。
ひととおり、畑を見回す。
まずは優先順位。高い位置に成るものと、大きく重たいもの。
つまり老婦人がするには骨が折れる作業を、シィノが代わりにすればいいだろう。
それから、ここが何なのか。
「これだけのものの管理を、お一人で?」
「あなたもこの野菜の呪いで、森から出られないのですか?」
「この辺りには詳しくないのですが、森はどこまで広がっているのでしょうか」
「他に人の住む場所はありますか?」
一つでも答えが返ってくればいいほうでしょう。
――――PL――――
呪いの文様は左手の甲に。
文様はぜったい銀色! シャドウの暗い肌に映えるの!
とりあえず、お手伝いしてみます。
もし野菜を悪いことに使うようなら、収穫してまとめたところに火を放とう。