ダンジョンスタート
何か動きがあった、そう確信した僕は塔を登る。
上空から下を眺める風景は、ちょうど一年前に錬体術を教わった時を思い出させた。
今思えば、僕はめいっぱい楽しんでいたように思う。ちょっと懐かしく思えた。
トレビスはもうお城に着いているだろうか。
王子がいない状態で戻ってくるわけだから、関係者はちょっと慌てているかもしれない。
彼は事情を説明することができないだろうから。
* * * * *
窓に到達すると、ラキアスが腕を取って引き上げてくれた。
中に入ると、見たところ脱出の準備をしているようだった。
「どうされたのでしょう?」
初めは何故降りてこないのか疑問に思ったのだが、理由はすぐに判明した。
隠し扉が見つかったのだ。
「やっぱりあると思っていましけど...エース不在でよくこれが見つけられましたね!
ファインプレーですよ。」
素直に感心してしまう。正直僕でも見つけられるかどうかは微妙だったから。
でも、シィノさんが一緒じゃなかったというのはちょっと予想外だった。
一体彼女はどこにいるのだろうか。
手紙を書気終えた髪長の女性――彼女がラプンツェルと呼ばれているのだが、
外の世界に憧れを抱いている。
もちろん、今見つけた扉を知らなければ到底外には出られないのだが、
念のために聞いておこう。
「身内の方に、外に出たい旨を直接ご要望されたことはおありでしょうか?」
隠し扉の存在を知っているなら、「出したいけど手段がない」という口実は通用しない。
そうだ、身内の方が心配すると思うから、一応書いておくか。
僕は羽ペンとインクを取り出すと、置手紙を書いた。
『ラプンツェルさんの保護者様へ。
お嬢様は「悪しき運命を打ち破る、名高き冒険者パーティ "ル・リアン"」とグレースが御護りいたしますので、ご安心ください。』
ずいぶん仰々しいと思ったかもしれないが、こう書いたのには理由がある。
お婆さんは、彼女の安全を案じて、この塔に入れたという可能性もあるからだ。
これは、「真の敵は別にいる」という可能性もあるということになるのだが。
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この扉の向こうは、いわいる螺旋階段だった。
なるほど、外周はすべて階段というか通路だったのか。
幸い光源の心配はしなくてすんだようだ。
見通しが暗いのなら暗視できるようにしてもよかったのだが。
申し訳程度の手すりに螺旋階段。
それでも髪をロープ替わりにロッククライミングするよりは楽だ。
僕は周囲の異常に注意しながら階段を下りて行く。
ようやく平坦な場所になると、鉄の扉に行き着いた。
まあ、そうだろう。それくらいのセキュリティはあって然るべきだろう。
上に鍵がかかっていなかったのが寧ろ不思議に思えてくらいなのだから。
>「この外には何かがあるのかしら?」
>「きっと貴女が思い描いている自由がありますよ」
何となく、注目されている気がする。
ここは僕が開けなきゃいけない局面だ。
道具箱を開けて、開錠の道具...といっても針金なのだが、これを使う。
「開錠なんて久しぶりですね。」
うっかり鍵を無くしたご主人が、探偵事務所の扉を叩くこともある。
探偵とは「何でも屋」だ。
小説であるような、ドラマティックな依頼はそうそう来ない。
魔法の鍵じゃないことを願って鍵開けを試みる。
しばらくすると、カチリという開錠の音が聞こえた。
よかった。まだ腕は鈍っていないようだ。
「王子もそれなりに用意はされてこられたと思いますけど、
消耗品は使わないに越したことありませんからね。」
僕は、王子も開錠アイテムは持ってきたと読んでいる。
「囚われの麗しい女性」を救いに来たわけだから、それくらいは用意しているだろうと。
ただし、それは消耗品だろう。だとしたら温存した方がいい。
僕だってそうそう毎度は成功しないだろうから。
もしも僕が鍵開けに失敗したら、ラキアスは力技でこじ開けるつもりだったようだ。
* * * * * * * *
コルチョネーラです。
変転温存できて良かった。
無事、開錠です。
それにしても地味にスカウト役立ってますね。
今回は飾り技能を決め込んでいましたのに。
23:48:48 コルチョ@グレース ≫ 開錠判定 2d6+4 <Dice:2D6[5,3]+4=12>