ずるい言い方
シィノヴィア(紫乃) [2016/03/02 21:23:41]
なるほど、妻を救うために子を差し出したわけだ。
悪いとは言わない。
そうしなければ、子だけでなく妻も失っていたかもしれないのだから。
ただ、男性がゴーテル殿の条件をのんだのも事実。
それがどれだけ不本意なものであろうとも。
男性自身もそれをわかっているからこそ、ゴーテル殿を恨む以外に気持ちのやり場がないのだろう。
去年の初夏、蛮族の親子を見送ったことを思い出した。
親が子を思う気持ちというのは、種族にかかわらず同じものだろうか。
シィノは親を知らないし、それにこだわったこともない。
はじめから知らなければ、知らないなりに育つものだ。
だが、所在がわかっていて、会いたいと望まれている。
この親子が会ってはならない道理はないだろう。
子が、会うことを望むかは別として。
「あなたが子に会えるよう、協力しましょう」
ゴーテル殿を倒すか否かは、またそのとき考える。
ゴーテル殿が何を思って子を欲したのかは知れないが、交わしたいくつかの言葉からは、"あの子"に対する害意は感じられなかったから。
シィノひとりで忍ぶのは簡単だが、この方をつれて行くとなると、多少制限される。
どうするか、と考えているところへ、大きな、大きな音がした。
大気が揺れて、腹に響く。
塔の――ゴーテル殿の向かった方角。
「シィノは行きます。
あなたは、お仲間をつれて安全な場所へ。
では、また」
簡単に言い残して、駆けだした。
――――PL――――
男性には残るよう言ってみましたが、ついて来るなら適当に速度を合せます。