黒服の老婆

 グレース(コルチョネーラ) [2016/03/10 06:59:15] 
 

ラプンツェルさんの話を総合すると、どうやら外のことは殆ど聞かされていないらしい。
ゴーテルさんがどうやって生計を立てているとか、肉親のことなども。
ラプンツェルさんが、興味を持たなかったのか、それともゴーテルさんが興味を持たせなかったのか
それはわからない。

僕らがドアをこじ開けて外に出ると、外は雨だった。
普段の格好よりは、法衣のほうがいくぶん雨対策には向いている。

向こうから、誰かが来るようだ。
それは近づいてくるにしたがって、黒服の年配女性ということがわかる。
恐らく彼女がゴーテルさんなのだろう。

彼女が毎日、あの塔を登っているのか考えると、ちょっと信じられない。
普通の年配の女性ならまず無理だろうから。

ありがちな会話が展開される。

>「こんなところにいたのかい、ラプンツェル。
 私は本当に心配していたんだよ?」


>「ごめんなさい、お婆さん。
 わたし......外が見てみたくて」


>「まあ、そんな気持ちになることもあるだろうさ。
 でももう十分見ただろう。
 さあ、一緒に帰るとしないか?」


>「でも、私お城を見てみたいわ」


>「城だって?
 あんなとこいいところでもなんでもないよ!
 さあ私と一緒にあの塔まで帰るんだよ......ラプンツェル!」

ゴーテルさんは、大事な娘を王子に取られたという心情が強いのだろう。
僕にもそれはわかる。好きな人は誰にも取られたくはないのだ。

「貴女がゴーテルさんで間違いないでしょうか?」

僕はまず彼女に確認してから話を始める。

「申し遅れましたが、僕らは通りすがりの冒険者です。
 ラプンツェルさんから少しだけお話は伺いました。
 仲の良い、親子関係だとお見受けいたします。」

少なくとも、ラプンツェルさんはゴーテルさんを慕っている。


「ラプンツェルさんは、今まで外に世界には興味が無かったようですが、
 たまたま、こちらの者が、事故で空から落ちてしまいまして、
 ラプンツェルさんの髪にひっかかって命拾いをいたしました。
 そこでお話をさせていただきましたら、
 外の世界に興味を持ってしまった、ということなのです。

 僕らは偶然王子と出会いまして、彼(アルフさん)を探しに来ておりました。
 そこで話が合ってしまいまして、外にお連れすることになったのです。

 ご心配かけて申し訳ありませんでした。」


 まずは外に興味を持ったのは僕らのせいだと言っておこう。
 連れ出す際に書置きをしてきているから、
 それを見れば、僕らの存在は知っているはずなのだが・・・・
 書置きまでは見ていないのだろうか。


「親である、ゴーテルさんとしましては、可愛い娘さんをお側に置いておきたいと
 思っておられると思います。
 今まででしたら、それで良かったと思うのです。
 しかしながら、今まで本やお話でしか知らなかった、外の世界というものを 
 知ってしまったラプンツェルさんを、そのまま塔にお連れしましても、
 恐らく、外の世界を渇望されることになると思いますよ。

 普通の娘さんであれば、親は、子供を外の世界に触れさせ、社会に慣れさせるでしょう。
 ラプンツェルさんを今までそうされなかったのには、特別な理由でもおありなのでしょうか?」

 まずはゴーテルさんの話を聞こう。

* * * *


コルチョネーラです

グレースの調停力が問われる大事な局面。戦えない男の本領発揮となるか?
ベストの解決は「和解」です。難しそうですね。