呪いの真実と毒母
>「村の北、キャベツ殿の家。夫人がご病気です」
シィノさんは同行せずに、僕一人で先方に会って欲しいようだ。
「そうですか。やはりご心配されてご病気になられていたのですね。」
このタイミングでシィノさんに頼んだのだから、たぶん深刻な病状なのだろう。
「あの・・。シィノのさんの手の甲のそれって...」
ペンでサインをしたときの手を覚えている。その時は確かになかった。
不思議な文様だ。でもどこかで聞いた覚えがある。
あんまり良くない内容だった気がした。
* * * * *
ラキアスは僕の答えにこう反応した。
>「長い髪をそのままにして外に出れば死ぬけど、先に切ってから外に出れば助かるってこと?」
「恐らく、です。もっと情報を集めたかったのですが、その前に一撃貰ってしまいそうでしたので。」
少し結論を出すのは早すぎた気がする。しかしそれは自分が倒れた時のことを考えてのことだ。
>「そうなると時間稼ぎをする必要ありそうだね。説得なら私がやるよ。
王子やシィノさんに比べれば狙われていないみたいだから。でも邪魔をするわけだから優先的に狙われるかもね。それでも全滅よりはいいよ。」
時間稼ぎはできるかもしれないが、説得となると今の段階では難しい。
ゴーテルさんは本当の事を話していない気がするからだ。
ゴーテルさんの本当の目的も見えてこないのでは、落としどころがわからない。
>「やってはないけど魔法によって物理的に切れない可能性があります。この森にもしかしたらヒントがあるかもしれません。」
こういう時のラキアスの勘は侮れない。
「まだ何か足りない...みたいですね。」
シィノさんは、森の端での面会を提案した。
それも自分が人質になるというのだ。
「シィノさん、キャベツさんに会われたのはシィノさんですから残らなくても...」
そう言いかけて僕はシィノさんが森から出られないということに気が付く。
「それが森に愛された...。いや呪われた証ということだとすると...」
ラプンツェルさんの髪も、恐らくそういうことなのだろう。
だから、ラプンツェルさんの髪を切れば呪いを断ち切れる、と思っていたのだが。
どうやら違ったらしい。
「自己中心的な呪いほど恐ろしいものはありませんね。」
考えれば考えるほど、酷い結論になっていく。
たぶんそれが真実なのだろう。
森を出ても、髪を切っても酷い結果しかないというのはあんまりだと思う。
相手を思いやる以前の話だ。これを愛と言うべきなのだろうか。
>「ラプンツェルさんを信じてみてはいかがですか?本当に愛しているのでしたら出来るはずです。」
ラプンツェルさんは、まだはっきりと明確な意志を表示していない。
だから、正直ゴーテルさんがどこまで信じきれるだろうか。
「森の端での面会案、賛成ですね。僕が先方の家に行ってお連れしたほうがいいですね。」
キャベツさんのご夫人の病気を治せば連れてこられるだろう。
森の端ならラプンツェルさんも問題ないはずだ。
ゴーテルさんもシィノさんも森の端までなら来られる。
シィノさん的には、その場でとどまれるのがベストだろうが、
ゴーテルさんにしてみれば、ラプンツェルさんから離れることは考えにくい。
でも悪くない案だ。ゴーテルさんは承諾するだろうか。
僕は神ではないから、人に生についてはとやかく言える立場ではない。
でも、神官の立場で言わせてもらえば、これはかなり酷いケースだ。
ラプンツェルさんの自由を犠牲にゴーテルさんは生きている。
これは個人の尊厳をまったく無視するものだろう。
いつの世でも実の親娘によくありがちなのは、母親は娘を自分の分身だと勘違いしていることだ。
自分の失敗を、リベンジさせるために、娘の個性を無視してあれこれと介入する。
娘の交際相手や、進学などを娘ではなく自分が選びたがる。
これも愛だといえば愛だろう。でも、間違った愛だ。
ラプンツェルさんとゴーテルさんの関係はこれを極端にしたものだろう。
でも、ゴーテルさんはいつの世にも存在する。
きっとそういうことを教えるための物語なのかもしれない。
一般的に、こういうトラブルの場合、娘のほうが母親との距離を置くこと、
連絡を少しづつ減らしてくことが一番の解決法なのだが...。
「ゴーテルさんの母親はどんな方でしたか?」
僕はゴーテルさんに会話を試みることにする。
「お前の話なんて聞いてない、と言われてしまえばそれまでですが、
僕には親の記憶なんてありません。幼少の記憶そのものがないんです。
親に愛された記憶のある方が、羨ましいと思いますけどね。」
ゴーテルさんにも、誰かから愛された記憶はあったと信じたい。
そうであれば、自分のために親がしてくれたことを思い出すのではないだろうか。
そうすれば、ラプンツェルさんにしてきたことが、間違っていたと、思うのではないだろうか。
* * * * * * *
コルチョネーラです。
何か勘違いしたっぽいので訂正しました。
髪も切れず、森に出られない、となると、呪いはかけた本人にどうにかしてもらうのが王道ですね。
なので、ゴーテルさん自身に愛された記憶があるのか、聞いてみることにします。