癒しの処方

 グレース(コルチョネーラ) [2016/03/30 06:56:42] 
 

王子は僕の提案に耳を傾け、こう言った。

>「僕の城にも優秀な神官がいます。
>その者の力を借りればいいでしょう。
>エントレット......動く木ですか。
>見つかればいいのですが、なるべくここを離れないようにするべきかと思うので」

「お話して良かったです。そういえば、予言をされた神官の方がいらっしゃいましたね。
それだけの法力をお持ちならきっとどうにかしてくださるでしょう。」

さすが王宮はトップレベルの人材の宝庫だ。呪いはこれでなんとかなるだろう。


王子は動けないので、代わりにアルフさんがエントレットを探しに行ってくれたが、
考えてみたら、彼は探索のスキルというのは持っていなかった気がする。
見つからなかったら見つからなかったでしょうがない。
彼に期待をするのは酷だということに後から気がついた。


* * * *


村に着いて最初の村人。
彼は僕が予想した通り、キャベツさんだった。
シィノさんとの約束が気になり、気が付けば家の前に立って知らせを待っていたのかもしれない。
そうだとしても不思議ではない。長年変化がないと思っていた案件が動き出したのだから。

僕が来訪の理由を告げると

>「本当か......!?」

彼の驚いた表情に、僕は頷く。

>「俺たちは正直払える金もないんだが。
>......それでも本当にいいのか?
>だったら頼む、あんたは俺たちの恩人だ」


「困った時はお互いさまです。お代とかお気になさらず。
 僕はそれほど、高位な職に就いておりませんから。」


聖職については、素人同然だと思っていい。
僕の場合、本格覚醒したのはついこの間といっても言い過ぎではないのだから。
しかも、僕にはまだ融通の利かない制約がある。同職の冒険者と同等とは言えないだろう。

* * * * *

案内された家は、村の民家としてはよくある感じの家だった。
奥には金色の髪の女性が寝込んでいた。


>「俺たちの娘を奪われてから、どんどん心が弱って行ってな。
>いつの間にか体まで弱まっちったんだうちのやつは」


生きがいを失うと人は弱くなる。
子育ては大変ではあるが、生きがいを与えてくれるのだ。
病は気からと、よくいったもので、心が弱くなると病気になるというのはよくある話だ。
笑う人は長生きする、という話もまんざら嘘ではない。


「どうぞ、お楽になさってください。
 一度でうまくいかなくてもちゃんと癒しますから。」

新米丸出しだが、そのほうがプレッシャーは無い。


何せ初めての魔法だ。まずはやってみることだ。
まず、教わった通りの祈りというのは、
神様にお願いして力を借りるというものだった。


しかし、ご夫人が回復したようにはみえない。
やっぱり今まで通りの僕のやり方のほうがいいみたいだ。


僕は目を閉じ僕流の祈りを捧げる。
僕は彼女を癒します、という自発的な祈り。僕にとっての祈りは宣誓そのものと言っていい。
神様にお願いする、という他力本願な祈りは極力避けるのが僕の流儀だ。

二回目で回復したのだから、僕としては上出来だろう。


「恐らく身体のほうはだいぶ良くなられたと思います。
 今まで大変でしたね。」

ここで終わらせてしまってはまた病気になってしまう。
大事なのはこの後だ。

「春は何故こんなに美しい季節なのでしょうか?
 それはその前に厳しい冬があるからなんです。
 冬は、一見、木々も草も葉をつけず、成長ができてないように見えます。
 でも、この時期に根はちゃんと育っているのですよ。」


「お二人は、大事なお嬢様がいなくなってしまってから、辛かったとお察しいたします。
 その時期が不幸な時期と申し上げてもよいでしょう。
 辛い時期であっても、そのぶん愛は育っているのです。」

辛い時期が決して無駄ではないということをまず教える。

「異国の人は、しあわせ、と、つらい、という字をこんなふうに書くんです。」

僕は羊皮紙とペンを出すと、思い出しながら文字を描いた。『幸』と『辛』だ。
実際に文字を見ればわかるが、これは良く似ている。

「良く似ているでしょう。こっちが『しあわせ』こっちが『つらい』です。
異国の人は、こう考えたんです。辛いという状態は、幸せの一歩手前の状態なんだと。
つまり、辛いことを乗り切った後に、ちゃんと幸せはやってくるということなんです。
乗り越え得られない困難はやってきません。乗り越えたら確実に良い事があるんです。」


結局、魔法の腕に自信が無い僕は、言葉による癒しを選ぶ。
探偵時代はむしろこれが当たり前だったのだ。
小さな探偵事務所での仕事の依頼で圧倒的に多いのは、実は浮気調査というデリケートな案件で、
パートナーに不信を抱く依頼人が僕のもとを訪れた。そしてその多くは女性の依頼人だった。
僕は彼女達の相談に耳を傾け、そして必要な言葉をかける必要があったのだ。


「ああ、言い忘れておりましたが、お嬢さん...ラプンツェルさんなんですが、
 今、護衛として一緒にいてくださっている方は...実はレタス王子なんですよ。」

もしも、ラプンツェルさんが普通の村娘として育っていたのなら、
村の若者の間ではモテたにちがいない。でも、王子との縁はなかっただろう。
塔で閉じ込められていた分、ちゃんと彼女にも幸せは巡ってきている。
僕はそう感じたのだった。


* * * * *


コルチョネーラです。


キュアデイジーズは二回目で成功。
サニティは使わず、言葉による処方を迷わず選択しました。


変転つかえばサニティもいけたんですけどね。
グレースの目指している方向はカウンセラーとしての役割でしたし、
ロール的にもこっちのほうがオイシイと思いましたしね。


21:02:55 コルチョネーラ@グレース ≫ 病気治癒判定(TAKE 2) 2d6+8 <Dice:2D6[2,6]+8=16>
21:01:36 コルチョネーラ@グレース ≫ 病気治癒判定(TAKE 1) 2d6+8 <Dice:2D6[1,3]+8=12>