幸せは勝ち取るもの
キャベツさんのご夫人は、元気を取り戻した。
娘さんが生きていること、そして会えることが彼女にとってとても大きい。
>「つまり......あの子に会えるということ?王子様と森で待っているの?」
「ええ。お会いになれますよ。そのためにお待ちになっているのですから。」
>「俺も本当かどうかはわからない。
>けれど、嘘かどうかだってわからない。
>だったら行ってみないか?
>そこに行けば真実がわかる......そうだろう、ミズナ」
見た限り、夫婦仲は悪くないようだ。
この二人は親が決めた結婚で結ばれたわけではないだろう。
それに、入り婿でもなさそうだ。
>「私も行きます。
>神官様、森の方まで向かいましょう」
「グレースでかまいませんよ。本業は冒険者ですし、
神官様と呼ばれるのはちょっと照れくさいんです。」
僕の中では探偵が本来の姿だと思っている。
でもまあ、冒険者というのが正直な身分だろう。間違っても神官という意識はない。
僕は二人を娘さんのいる場所に案内する。
* * *
森の端の方に3人がいた。
ラプンツェルさんの顔色は思ったほど悪くない。
呪いに慣れたのか、呪いが解けたのか。何かがあったことは間違いないだろう。
両親は成長した娘さんの姿を見て、走り出す。
感動の再会の場面だ。
>「お母さん......?
>お母さんとお父さんなの......?」
>「そうよ、私たちはあなたの家族なの。
>離れていても決して切れることはない――血という絆で結ばれた家族なの」
血の縁というのは特殊なものだ。
どんなに離れていても、繋がっている。
>「そう......これがお母さんの温もりなのね。
>私、知らなかったわ。
>だから今こうして感じられて――とても......嬉しい」
こうしてみると、二人は良く似ている。
やっぱり親子なんだと。観ていてよくわかる。
* * *
>「ねえ、ラプンツェル......これからは一緒に暮らせるのよね?
>もう離れ離れにはならないわよね?」
これは、結婚を経験した母親ならわかっているはずだ。
娘を手放したくない、という気持ちはあるだろうが...。
>「お母さん......。私は......」
まずは呪いの件をどうにかする必要がある。
王子に頼んで神官を連れてきてもらう、そうでないとここから出られない。
そう思っていたら、彼女に異変が起きる。
「これは?・・・まさか。」
髪が輝き、そして、不自由の無い長さまで短くなっていく。
それ自体は悪いことではない。呪いが解けたということで間違いないだろう。
問題は、それがゴーテルさんが自発的にそうしたのか、それとも
それとも・・・
いや、最悪のパターンも考えられるが今はやめておこう。
>「ううん、違うの。
>なんだか身体が軽くなったような気がするわ。
>今ならどこにだっていけそう」
きっとシィノさん達がうまくやったんだ。
そう考えることにする。
「それは良かったですね。ここから無事に出られるということですから。」
>「でも、どうしたらいいのかわからないの。
> 私はずっと独りで自由なんて考えたことがなかったから」
「そうですね。貴女にとっては初めてご自分の人生を決められる状態になったのです。
本来なら、他人がどうこう言える立場ではないんですよ。
ラプンツェルさんが一番に望んだ道を選ぶべきなんです。」
僕は、状況を説明することにする。
「恐らく、子供に恵まれなかったゴーテルさんも、
子供を産んで家族としての生活を望んでいたご両親も、
ラプンツェルさんを見初めた王子も、皆、ラプンツェルさんと一緒にいることを望んでいます。
誰と一緒にいたいですか?と言われても急には答えられないですよね?」
僕はまず、キャベツさんとミズナさんに話しかける。
「あの、不躾な質問で申し訳ありませんが、
お二人はどのように出会われてご結婚に至ったのですか?
その経緯をお話しくださると嬉しいのですが。」
これは僕の予想だが、
ミズナさんは恐らく非常に美しい方で、
キャベツさんが彼女に猛アタックして、結婚にこぎつけたのだろうと思う。
ライバルだって恐らくいたに違いない。
もしくは既に相手がいたところを奪って駆け落ちしたとしても
不思議ではないと思う。少なくとも親が決めた結婚ではないだろう。
その話を一通り聞いた上で、僕は答える。
「ラプンツェルさんは、ご両親と一緒に暮らすことになったとしましても、半年もしないうちに、
村のどなたかがお見初めになるのではないかなと思いますよ。
王子が気に入るほどの美しいお方ですから、村の男性だって
放っておくというのは考えにくいんです。」
「結局は誰かと結婚して家を出ることになると思うんです。
反対されたとしてもお二人の意志が固ければ駆け落ちするという道もありますよ?
そうさせない方法は、やっぱりゴーテルさんと同じ、
誰とも会わせない以外にないのではないでしょうか?
それとも、婿に入ってくださるような方を探すおつもりでしょうか?」
まだ子供であれば親子で暮らすという選択肢はあったと思う。
だが、ラプンツェルさんは年頃の女性になってしまっている。
家族で暮らすには年齢的に遅いと僕は感じている。
この場合結婚相場が高いうちに、嫁に出すというのがセオリーだと思う。
ただ、ラプンツェルさんがそういう道を選ばないのならそれでも良い。
ラプンツェルさんは、教養のあるゴーテルさんの元で必要な知識は得ているだろう。
だが、他の同世代の娘さんに比べて、村での生活での適応力には疑問が残る。
どなたか村の男性と結婚することになったとしても
炊事、洗濯、裁縫、その他、実務的なことで遅れてしまっている。
これらは、結婚してから頑張ってもらうとして、
一番問題なのは、村の社会に馴染めるかどうかだ。
村の同世代の女性達とは一切交流がなく、突如、絶世の美女となって戻ってくる。
これがどういうことかわかるだろうか。
競争社会の中で、この手の女性は陰湿なイジメの対象になりやすいということだ。
突如現れた美女は、良い人と結婚して幸せになりたい同世代の女性にとって決して歓迎されない。
世の男性は外見重視で若くて美しい女性を選ぶからだ。
だからそういう女性が現れると、女性は危機感を煽られる。
女性達はそれぞれ別々に戦っていたとしても、
相手が絶世の美女ともなれば、その時だけは一致団結して対抗するだろう。
女性達だって自分の幸せのために戦う。好きな男性のためならライバルは蹴落とすのだ。
そういう競争社会の中でラプンツェルさんは耐えられるだろうか。
小さい頃から、仲良くしているならそんなことはないだろうが、
ラプンツェルさんにはそれがないのだ。
うまくやらないと孤立してしまうだろう。
環境に馴染めないという意味ではお城に行ったとしても苦労はあるだろう。
だが、少なくとも社会的な立場ではずっと上になるわけだし、
うまくやっていく必要があるとすれば、王子の母親くらいだろう。
村で暮らすのはそれらに馴染めず、絶望してからでも遅くない。
「お城に馴染めないようでしたら、
ご両親の家に行っても宜しいのではないでしょうか。
でも、一番大事なのはラプンツェルさんが、望んだ道を選ばれることですよ。」
さて、こちらがまるく収まりそうなら、そろそろゴーテルさんの所に戻ったほうがいいだろうか。
呪いが解けた経緯が気になる。最悪のケースでの解決でないことを祈りたい。
* * * * * *
コルチョネーラです。
やんわりと城に行く提案をしますね。
提案だけして、ゴーテルさんの所に戻ろうと考えていたりします。
正直、ラプンツェルさんは村で馴染めるように見えないんですよね。
女性の友達、つまり両親以外の味方がゼロで、とびきりの美人なんて言ったらイジメられそうですし。
下手すると、「塔での生活のほうが幸せだった」って言い出す可能性も出てくるでしょう。
村で生き抜くには「ずるさ」「したたかさ」「要領の良さ」を身に着けないとキビシイだろうなぁ。
でも、それやっちゃったらヒロインじゃないですもんね。
グレースの考察には「オンナの本音」があったりしますが、
探偵時代に「オンナの本音」をさんざん聞かされていたんでしょうね。