帰還へ
僕らは再び森の中に入り、みんなが待つ場所に向かう。
雨が小降りになってきた。
上がるのは時間の問題だろう。
人影が3つあるのが見えてくると、僕はほっとした。
ゴーテルさんはまだ健在だ。消えていない。
ということは、自主的に呪いを解いてくれたのだ。
>「ラプンツェル......」
ゴーテルさんの声。
たぶん僕らは目に入っちゃいないだろう。
>「戻ってきたわ、お婆さん」
>「約束は守りました......ゴーテルさん」
王子は完全にスルーらしい。
僕は仲間に挨拶をしておこう。
「お待たせしました。ゴーテルさんがご無事で何よりでしたよ。
お二人ともお疲れさまでした。
こちらは、ご夫人の病気を癒しまして親子のご対面を果たせましたよ。」
呪いが解けたのは、シィノさん、ラキアスさんの働きかけがあったと思う。
頑張ったんだろうなと思い、やんわりと労う。
シィノさんは短くお礼を言ってくれた。
ラキアスは、軽いハグの後、こちらの状況も気にしているようだった。
ハグそのものについては二人の時は寧ろ当たり前で自然なことではあったが、
激しい雨でずぶぬれ状態の後というのは初めてだ。
一瞬、(仕事中はそういうことをしないようにしてたはずでは...)と思ったが、
今回は、ありのままに演じることも仕事なんだと思うことにした。
「そりゃあ久々のご対面ですし、色々ありましたけど
想定内でしたよ。」
両親の片方が冷静だったから思ったほどではなかった。
二人とも大反対なら大変だったと思う。
ラプンツェルさんの今後のことについては...僕が説明するまでもないだろう。
>「......決めたのかい?」
>「......うん。
>私は......やっぱり外の世界を見てみたい。
>お婆さんの思い出と本が教えてくれる世界だけじゃもう足りないのよ。
>今この瞬間でも私はお婆さんのことが好き――嘘じゃないって誓えるわ。
>だから......ごめんなさい」
別れるなら忘れたほうがいいと、ゴーテルさん。
別れの記憶は辛いのはそれだけ大事な人だからだ。
辛さだけを忘れられればいいが、人間そうは都合良くできていない。
「ゴーテルさん、貴女は魔女である以前に母親なんです。
養母でも実母でも、母であることにかわりはありません。」
たぶんまるっと忘れているだろうが、この場で言っておこう。
「ミモザの花は見つかりませんでした。でも、僕から女性として祝ってもらうよりも、
娘さんから母として祝ってもらったほうが嬉しいですよね?」
知らないようなら、母の日というのがあるというのを教えておこう。
子から母へカーネーションの花を贈る日だ。
父も母も知らない僕に言わせれば、母が二人もいるなんて羨ましい話だ。
情報交換が済めば僕はこう言うだろう。
「それにしても、100年にひとりと言っても言い過ぎではない、天才魔法使いが、
ひっそりと静かに、誰にも継承されずに消えてしまうというのも、
勿体ないお話ですね。」
魔女に生まれただけで忌み嫌われるなんて、立派な人種差別だ。
もう少し魔女にとっても住みやすい世の中であればいいのに、と思う。
市民権を得られる世の中なら、寧ろ魔法を教わりたい人もいただろうに。
実子は無理でも、それほどの腕前ならきっと弟子には困らなかっただろう。
本当に孤独が好きな人は旅に出る。
ゴーテルさんは森に留まるのだから、やっぱり寂しいのだと思う。
* * * *
雨が上がり、塔に虹がかかる。
物語が良い方向で終わる時にありがちのシーンだ。
言い換えれば、僕らのここでの時間はもうすぐ終わるということでもある。
>『物語は......綴られた』
頭の中に響く声。
これはクライアントからの帰還命令だ。
まあ、そういう頃合いだろう。
「そろそろ僕らは元の世界に帰ろうかと思います。
皆さんにお会いできて良かったです。
お二人とも、お幸せに。ゴーテルさんもどうかお元気で。」
僕らは再び不思議な光りに包まれ、童話の世界を後にすることになった。
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コルチョネーラです。
魔女のイメージを良くするための曲を作ってもらい、
天才吟遊詩人がエンディング曲を奏でるというのも考えたんですけどね。
(作詞/グレース 作曲/アルフェイト)
人々に広まり噂を聞いた誰かが、ゴーテルさんに弟子入りでもすれば
ゴーテルさん的にも寂しくない未来、とか考えたんですけど。
07:25:59 コルチョネーラ@グレース ≫ 剣の欠片*2 2d6 <Dice:2D6[2,1]=3>
出目が酷すぎてすみません...。