クランクアップ
僕らは童話の世界から帰還する。
これをテレポートというのだろうか?
話には聞いたことがあるが、実際体験するとこんな感じなのだろう。
周りが変化していくのが耳で感じられるが、目ではわからない。
光に包まれてしまうからだ。
* * *
>「やあ、おかえり」
「ただいま戻りました。」
状況を把握できると、まずは挨拶。
この部屋で本に署名をして移動したのだから
戻ってくる場合も当然ここになるわけだ。
ずぶぬれだった身体がまるで嘘のようだ。
しかし、その時に奪われた体温まではその変化についていけない。
部屋の暖かさがとてもありがたい。
テーブルの上には本が一冊開かれた状態で置かれていた。
これが、僕らが入っていった本ということだ。
塔に虹がかかった挿絵が描かれている。
>「どうだったかい?
>君たちの思い描く物語は出来たかな」
「最初は、物語の役者を意識してはいたのですが、途中でとんでしまいました。
自分の普段の行動そのものになっていましたけど、
それで宜しかったのでしょうか?」
でもまあ、ハッピーエンドが好きだというエリックさんの要望通りにできたと思う。
エリックさんにとって、この本は『自由』がテーマだったようだ。
塔に閉じ込められた女性が、外の世界へ、そして遠くの世界へと
活動を広げていく、
人間その気になればそれは可能なことだ、ということのようだ。
僕にとっては、そうじゃない。
寧ろこれは『家族愛』の物語だと思った。
生みの親と育ての親という、ちょっと複雑な事情の中で起こる事件と
それぞれの想いが葛藤したり交錯したりという場面を織り交ぜて
展開する物語。ホームドラマにも通じるものが僕にはあった。
>「自分の力、知識、心。
>そして大切な仲間たちとの絆。
>そんな者たちを総動員して、新しい世界へ新たな自由を求めて冒険に出る。
>冒険者っていうものって本当に素敵な存在だね。
>だから......僕も君たちに期待しているんだ。
>僕の想像力を超えた物語を生み出してくれることを」
「想像力を越えた物語となりますと...。結構難しそうですね。」
もしかして、エリックさんはもっと奇想天外なストーリーを期待したのだろうか?
どちらかといえば、僕は依頼人や、キャストがハッピーエンドに向かう方向を好む。
要するに、ベタな傾向があるから、
想像力を越えた展開についてはちょっと自信が無い。
僕らは、エリックさんから報酬を受け取った。
エリックさんは今後も冒険者に物語を継いでもらう仕事を依頼するようだ。
登場人物の願いや、依頼に対してならこれだけの報酬を貰ってもいいと思ったが、
物語を制作する立場としてだと、こんなに貰うのは寧ろ悪い気がした。
「確かに受け取りました。ご縁がありましたらまたよろしくお願いいたします。」
そしてアルフさんと、シィノさんにも。
「今回はお疲れさまでございました。
今後、回復メインで活動することになると思いますので、
ご用命がございましたら、ラキアス経由でかまいませんのでご一報くださいね。」
護身のために僕に貸してくれたナイフはラキアスに返しておこう。
「出番がなくて良かったです。
あやうく呪われたままの髪を切って殺してしまうところでしたから。
今回は貴女の勘に助けられましたね。」
実は、ゴーテルさんが森での散策を認めてもらう猶予が貰えたのなら、
髪を切って森を脱出する算段だったのだ。
本当にやっていたら洒落になっていなかっただろう。
それでも、僕は今回の仕事で頭脳労働者としてのほうが向いていると確信した。
ラキアスは、神官として初めての仕事だった僕に感想を求めてきた。
「情報集めという役割はなかなか面白いです。
それをもとに推測するというのは結構難しいんですけどね。
的中すれば爽快ですけど、今回はもう少しでしたね。」
勘というのは根拠が無い。しかし、ラキアスの勘というのは侮れないものがある。
僕の推理は精度がイマひとつなので今後も助けられることになるだろう。
もしも、好きな物語の世界が選べるのなら、
僕は一度でいいから、名だたる怪盗と勝負をしてみたい。
探偵をやっていても実際は地味な仕事ばかりで、ドラマチックな仕事はまず来ない。
物語の世界ならそれは可能だ。
エリックさんがそんな物語を書いて、冒険者に依頼をしようものなら
僕はすぐ駆けつけることになるだろう。
さて、アイスを食べにと誘われたが、これはオーケーと答えておこう。
3人だけ、または僕だけならわざわざ呼ぶまでもなく、それぞれ個々に集まるだろう。
今回は3人+僕という親睦会としての意味合いが大きいからだ。
もっとも、まだ身体が温まっていない状態なのでアイスを食べるかどうかはまだわからない。
今更知ったが、ラキアスはアイスなど氷菓子に関してはシーズン不問のものらしい。
アルフさんやシィノさんもそうなのだろうか?
運よくアフォガードでもあれば注文することにしよう。
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コルチョネーラです。
終わっちゃいましたね。
GM様も、ル・リアンの方々もお疲れさまでございました。
ヤマイさんが途中で途絶えてしまったのが残念です。
殆ど絡めなかったので、心身ともに回復されましたら、
またご一緒したいですね。
物語的な方向としては王道を行きました。
ベタな展開になりますよね。
あんみつさんのセッションに参加したのは今回が初めてでしたけど、
設定とか細かく作りこんでいましたので、わくわくしながら書いてました。
さりげない描写の中にも重要な情報が隠れていると思っていましたので
結構読み落とさないようにしていました。
また、養母と実母の間のトラブルも想定していまして、
どっちに親権があるか求められた時のために
一応、養親子関連の法律はおさらいしていました。
不当な手段で、養母になったとしても、一定期間に裁判などを起こさないと
養親子関係は成立するんですね。
実際にそうなったらゴーテルさんに権利があると言うことになっていたと思います。
セッションで民法を勉強することになるとは夢にも思いませんでした。
また、セッションに応募すると思いますので、
その時はよろしくお願いいたしますね。
ありがとうございました。