僕たちが紡ぐ物語
>「というわけでな、見てくれこの綺麗な盾を!」
だいぶダイジェストな事情説明と、振りかざされた銀色にかがやく鱗の盾。ええと、それは要するにつまり。
ロセウスさんが、『ルキスラ銀鱗隊』に入隊した。
僕は、ネスさんの家のリビングでのんびり飲んでいたお茶を、だーっとこぼしそうになった。
居あわせた「暁の繭」のみんなは、それぞれがそれぞれの反応をかえしている。
なんとなくみんな、ほんわりとのんびりした感想をのべているけれど。
>「すごいぞ、限定的ではあるが、魔法攻撃に耐性があるんだぞ!」
なにより、ロセウスさん本人がこんなかんじなんだけど。
いや、魔法を防げる盾っていうのが、どれくらいすごいかくらい僕にも想像がつくけど、たぶんいちばんすごいのはそこじゃない気がする。
だって......。
「ろ、ロセウスさん、あの『シルバースケイルズ』に選抜されたんですか!?」
聞くまでもない、その銀鱗の盾がその証だ。それでも聞かずにいられなかった。
だって、彼らはルキスラ帝国軍の正規兵団だ。しかもものすごくエリート。実力主義で、ただ入隊を認められるのだって生半可なことじゃむずかしい。
ロセウスさんの冒険者としての実績と、実力がみとめられたんだろう。これからは、要人警護の任務にもあたらなきゃならないから、いそがしくなるかもしれない。
僕はびっくりしてしばらくぽかんと口をあけていた。
それから、こぼすまえにカップをローテーブルに置いて、みんなに簡単に『銀鱗隊』について語った。
「『シルバースケイルズ』といえば、表だった活動こそしませんが、ルキスラの要人警護を主にになうエリート兵団です。その証の盾を持っているっていうだけで、他国の兵士からだって一目おかれるくらいです」
ふう、とひと息ついて、つづける。
「ロセウスさん、これからちょっといそがしくなるかもしれないですけど、僕たちもフォローします。両立は大変でしょうけど、がんばってくださいね!」
※ ※ ※
>「やあ、暁の繭のみなさん。
依頼を受けてくれてどうもありがとう。
今回君たちに入ってもらいたい物語はこれさ」
ちょっと薄暗い部屋のなか、膨大な本たちにかこまれて、僕たちは一冊の童話集をみつめる。
「『七色の童話集』......」
今回僕たちはこの本のなかのひとつの物語の世界に「入り込み」、物語をつむいでこなくてはならない。
そういう依頼だった。
「『青髭』か...」
不気味なほどのひげをたくわえ、目をむいた男が、うつむく女性に一本の鍵を見せ、なにかを言いきかせている。
異様な雰囲気の挿絵だった。
>「...あおひげ?
ねぇねぇ、フィンーあおひげってなに?おひげのお話なの?」
となりのエクシーが、すこしだけ不安そうな面持ちでそう問いかける。
「ええとね、『青髭』っていうのは、この男の呼び名でね......」
挿絵をゆびさしながら、僕はかいつまんで自分の知る『青髭』のあらすじを語った。
青髭とよばれる富豪がいたが、彼は何人もの妻をめとり、そのいずれもがつぎつぎに姿をくらましていた。
あるとき若くうつくしい娘を再度めとったが、その妻に彼はこう言った。
「お前にこの家の部屋の鍵束をあずける。どこに入ってもいいが、ただひとつ、このちいさな鍵のとびらの部屋だけには決して入ってはいけない」
そう言って青髭は数日間家を留守にした。
若い妻ははじめは青髭のいいつけをまもっていたが、やがて好奇心に勝てなくなり、ついにそのとびらを開いてしまった。
その部屋のなかにあったものは...
僕はエクシーの表情をうかがいながら、ちいさな声でつづけた。
「部屋のなかには、いままで青髭がめとってきた奥さんたちの...死体があったんだ。床いちめん血だらけで」
妻はおどろいて鍵を床に落としてしまった。そのときに鍵についた血は洗ってもぬぐっても取れず、やがてもどってきた青髭に禁じられた部屋へ入ったことを知られてしまう。
「そして青髭は彼女をも殺そうとするんだけど、間一髪、彼女のふたりの兄さんたちがかけつけて青髭は殺され、彼女は助かるんだ」
僕はちょっとほほえんで、こうしめくくった。
「このお話の教訓は、『いっときの好奇心に負けて軽はずみなことをしてはいけない。とりかえしのつかない事態をまねくことだってあるから』。僕には、耳がいたいよ。けれどこれは、僕でも知ってる『青髭』の物語だ。きっと、僕たちが物語のなかに入り込んでいろんな可能性をひろげることで、まったくちがうお話ができていくんだと思う」
依頼人のエリックさんが、自然とひらかれた本のページを指して、僕たちにうながした。
>「そのページに君たちの名前を描けば......。
光の導きで本の世界へ入っていくことができるはずさ」
>「あーすまんが、その名前を書くというのは、自分で書かなけりゃいけないのか?」>「さて、どうなんだろう? 説明を聞く限りは自筆でないといけないようだけれど」
すこししぶるロセウスさんに、ペンを手にしたネスさんが返す。
僕もそっと言った。
「きっと、本の世界に入る鍵が、『書きしるされた自分の名前』なんだと思います。この種類の魔法は...たぶんなんですけど、自分で自分の名を書いたほうが、うまく物語のなかに自分の存在を定着させられると思います」
>「気をつけておいて欲しいのは......一つだけ。
一度名前を記したら、君たちは物語の結末が見えるまで外には出られない。
でも、きっと君たちなら君たちらしい結末を導けると信じているよ」
僕はうなずいて、ページの余白にできるだけ丁寧に書いた。
『フィン・ティモシー』
これが僕の名。たとえ異なる世界におもむいたとしても、僕という存在をあらわすことができる、いちばん強い「まじないことば」だ。
準備はできた。さあ、でかけよう、物語の世界へ。
――PL(雪虫)より―――
みなさま、よろしくおねがいします!
うわーんカレンさんとうまく絡めなかった!次、次にがんばる!
銀鱗の盾の見識に成功しました。買っててよかったひらめき眼鏡。もっててよかったザルツ博物誌。
『青髭』の物語はなかなかに血なまぐさいものですが、『暁の繭』がどんな物語を紡いでいけるのか、とても楽しみです!
【判定結果】
10:42:31 雪虫@フィン ≫ 見識判定 銀鱗の盾 2d6+9 <Dice:2D6[4,3]+9=16> ※フィンはルキスラ周辺地域出身です
10:41:49 雪虫@フィン ≫ 見識判定 七色の童話集 2d6+9 <Dice:2D6[5,2]+9=16>