風にゆられて
隠していたことをあやまって、真語魔術師であることを正直に話した僕に、ミリューさんは理解をしめしてくれた。
>「別に謝ることではありませんよ。
いきなり会ったばかりの相手に気を許して何でもかんでも喋るのは......。
僕の兄のような人種くらいですし」>「ん、どういう意味だ?」
そのやりとりに、思わず僕はくすっと笑ってしまう。
「ありがとうございます。そう、だから...僕、じつはそんなに子どもじゃありません」
すくなくとも、第4階位の使魔を完成させることができるくらいには、修練をつんでるんだ。ミリューさんは気づいていると思うけれど、自分から言ってしまおう。
それから、エクシーが射手であることにも、ふたりにとっては未知のものであるだろう武器の使い手であることにも、
>「別の国ではこんな魔法があるのですね。
なかなか興味深いです」>「ガンっていうのか、面白い武器だな。
俺には使えなさそうだけで、強そうだ。
勿論それを使いこなせるエクセターもな......偉いぞ、うん」
ふたりは柔軟に受け入れてくれる。
よかった......。
僕は安堵のため息をもらした。
※ ※ ※
>「狼退治、エクセターもお手伝いするよっ!
自分の身は自分で守るから、おねがーい!」>「手伝ってくれるなら助かるけどさ。
俺たち今この場で返せるものはないぜ?」
狼退治を手つだうと申し出た僕たちに、フレールさんがごく真面目な調子で返した。
僕たちを、ちゃんと一人前としてあつかつてくれてる。僕はうれしかった。
「報酬のことは、あまり気になさらないでください。もしかしたら、帰り道をさがすときにお願いごとをするかもしれませんけど、とりあえずはいっしょに行動させていただけるだけで十分です」
ふたりは任務のあと、丘の上で暮らす妹の家に向かうと言った。
それはとりもなおさず、『青ひげ』の屋敷に向かうということだ。それに同行して、僕たちが物語をどう動かせるか、それは僕たちしだいだけれど、大きなチャンスを手にいれたことにはちがいない。
まずは、狼退治をつつがなく終わらせなくちゃ。
>「兄さん、無駄話はこの辺にしましょう。
二人がせっかく手伝ってくれると言ってくれたんですし」>「無駄ってことはないだろ?
まあ待たせるのが悪いってことはよくわかってるけどな。
......んじゃあ、一緒に狼退治行くか?
よかったら俺かミリューの後ろに乗ってってくれよ。
そっちの方が早く移動できるだろ?」
「...あ......はい、あ、ありがとうございます。では、僕はミリューさんの後ろに......」
エクシーがフレールさんの馬に飛び乗ろうとして失敗し、鞍に激突したのを呆然と見ていたから、僕の反応は遅れた。
>「...ぴゅ、ぴゅい~♪ぷい~♪」
ややあって起きあがったエクシーの口笛はとても上手だった。
...うん、なかったことにしたほうがよさそうだ。
そう思って、僕はミリューさんの馬に近づいてその背を見あげ、無言で右足をあげた。
「.........」
えっと。もう一回。
「............わっ」
バランスをくずしてうしろに転がった僕を、背負い袋のごつごつした感触が受けとめた。
なんとなくそんな気はしてたけど、おもいきり足をあげても、馬のひざまでもとどかない。
「あの......。僕、その。足、みじかくて......。とどかないん、です」
僕ははずかしさのあまりに頭から湯気がたつような気がしながら、それでもミリューさんに言った。
しかも、フレールさんは「後ろに乗れ」って言ったのに。
「あの、あの、後ろに乗ったら僕、落ちる...と思うんです...。それで、その......。ま、前に......」
はずかしい。
でも僕はいつか、街道でお父さんらしきひとが子どもを抱えるようにして馬に乗っている姿を見たことがあった。
あれなら、あのかっこうなら、僕の足が短くても、たぶん。
たぶん、だいじょうぶ。
「す、すみません!あの、乗るの手つだってください!それで、その、ま、前に乗せてください!」
僕はほとんど涙目になりながら、目をつぶってそこまで言いきった。
※ ※ ※
馬の背にゆられる感覚にもすこし慣れたころ、僕はミリューさんに話しかけた。
「妹さんのお住まい、丘の上なんですよね。ここから馬でどれくらいなんですか?」
任務の帰りに会いに行けるくらいだから、それほど遠くはないんだろう。
「妹さん、きっとご結婚されてるんですよね。ミリューさんは妹さんのこと、心配してるってフレールさんが言ってました。フレールさんも、反対されてた、って。どうしてか、聞いてもいいですか?」
たとえば、夫にあたるひとが、心配なひとだ、とか。
この世界における『青ひげ』がどんな人物なのか、僕たちはまだ何も知らない。
規則的にゆれる草原の風景を見ながら、風がはこぶ緑の香りを感じる。ここが、本の中の世界だなんて信じられない。この世界のひとびとにも、それぞれの人生があって、血肉をもって生きているように思える。
「ミリューさんは、3人きょうだいの真ん中なんですね。僕も、9人きょうだいの真ん中なんです。上に2人、下に2組三つ子がいて。兄さんはへんくつで、姉さんは心配性で、弟や妹たちはまだちっちゃくて、やんちゃだしマイペースだし......。僕がいなくなっちゃって、だいじょうぶかなってときどき思うんです」
だから僕は、そんな話をしたのかもしれない。
「じつは、ポチには『丘の上を見てきて』って言ってあるんです。今ちょっとだけ、ポチの視界から風景を見てていいですか?」
僕はそうことわり、息をふかく吐きだして、視覚だけをポチと同調させた。
ポチが今見ているのは、どんな風景だろう。
――PL(雪虫)より―――
選択する行動は ミリューさんの馬(前)に乗る です。
タビット10歳、身長90cm+耳、足が短くてタンデムできませんでした。ちいさな子が馬に乗せてもらうスタイルでお願いします。
男子の沽券に多少かかわったようで、はずかしくて涙目ですがちゃんとお願いしました。
現地到着まで、ミリューさんとお話できたらな、と。
お話しながら、一時的にポチと視界共有をします。異変が聞こえたらすぐに視界を自分のものへもどします。