炎の中に
>「さて、どうなんだろう? 説明を聞く限りは自筆でないといけないようだけれど」
ネスの言葉に小さく喉の奥で唸る。
おそらく俺は小さい唸り声だと思っていても、存外外へと響くものである。何故ならこの体はリルドラケンであるからだ。
まあ、パーティの仲間達はもうそろそろ俺の唸り声にも慣れているだろう。
手羽先亭を定宿としているならば、ナゴーヤの親父もいることだしな。
>「きっと、本の世界に入る鍵が、『書きしるされた自分の名前』なんだと思います。この種類の魔法は...たぶんなんですけど、自分で自分の名を書いたほうが、うまく物語のなかに自分の存在を定着させられると思います」
エクセターに青髭という物語について説明しているのをふんふんと一緒になって聞いていたらそのフィンからも自分で書いた方がいいと言われてしまった。
致し方あるまい。
エリックからペンを受け取り、流麗な筆致の仲間達の隙間に、武骨な文字で己の名を書く。
『ロセウス』
三度の脱皮を経て、深く定着した鮮やかな薄紅色のおのれの鱗と同じ名を。
リルドラケンの鱗は寒色が多い。
青や緑がほとんどで、俺のような鮮やかな色は珍しいのだ。
「それじゃあ、またむこうでな」
仲間たちにそう言って、俺はペンをエリックに返した。
+++++
光が巻き起こり、俺達は本の中へと連れて行かれる。おそらくそういうことなのであろう。
俺がいる場所はどうやら昼寝にもってこいの丘の中腹。
「おいエクセター、ちょっと寝ていくか?」
そう声をかけて周りを見渡せば、いるのは俺とネスだけだ。
「......フィンとカレンとエクセターはどこだ?」
きょろきょろと辺りを見回すが、それらしい姿はどこにも見当たらない。おそらく、ネスの眼にも見当たらなかろう。
さてどうしたもんか。
エクセターは良い。
あれはあれで元軍人だとかで、己を身を守るすべはあるだろう。
問題はカレンとフィンだ。
神官であるカレンは己を身を守るすべはほとんどない。優しすぎるが程に優しいが故に、フィンの話を聞くに問題のありそうなこの物語の中にひとりであれば心配である。
魔法使いであるフィンも同様だ。いや、フィンはタビットであるから、危険にはいち早く気がつき何とか身を隠すことはできるだろう。
しかし心配であることに変わりはない。
「ネス、早いところあいつらを探すぞ」
約束したのだ。
お前達は、この俺が護ると。
そう言ってもう一度辺りを見渡した時には、世界が変わっていた。
漆黒の空には月や星などの導きは無く、昼寝にもってこいであった生い茂る緑は俺の鱗よりも赤い炎に舐められている。
その炎に驚いている間に俺の尻尾が舐められた。
「うお?!」
痛みがあるから尻尾を跳ね上げるが......通常の炎ではこうはならない。
以前焚火の中に尻尾を間違えて突っ込んでしまったことがあるが、あの時とは明らかに違う。
これはつまり。
「この炎、シャドウであるネスの方が向いてそうだな」
タンクである俺は、盾と鎧と鱗でこの身を護っている。
それは物理ダメージにはとても強い。が、その一方で魔法には弱い。
シャドウという種族はどうやらその魔法に強い、らしい。
剣の加護がそうなのだ。よくわからんが。
「まあ、とりあえず移動しよう。俺は火に巻かれて死にたくはないしな」
確実な怪我にはなっていないとはいえ、それでも痛くないわけではない。
それに、ここにずっといたって他の仲間達と合流できる可能性はないというか限りなく低かろう。
それならば行動を開始して、皆が危険に陥る前に探し出せばいい。
「おいあんた! こんな炎の中で何してる! 危ないぞ!」
仲間を探してきょろきょろと周りを見渡していたからか、炎の中にいる黒衣の影に気がついた。
ドワーフよりは背が高い。であるならば、炎の中にいるのは危ないだろう。
放っておいてよいものではあるまい。
すぐに見失ってしまったが、大体の方角は分かっている。
「ネス、追おう」
確かにちっこい仲間達のことは心配だが、それとこれとは別の話だ。
......どのみち、ここがどこかも聞かねばならんしな。
「ああそれとこれ、念の為そっちに渡しておこう」
何か四角い紙のようなものが手の中にあった。
俺の鱗よりも淡い色合いのそれには何か文字が書いてあるが、それが何かの鍵になるのであれば、渡しておいた方がいいだろう。
ばらけさせておくよりも、纏めておいた方がこういう鍵の類はよいことが多いと聞くしな。
―――――
PL;
また長くなった。
多分2000文字コースです。あまとうさんは遠い。
とりあえずロセウスのやったことをまとめると
・自分で名前書くよ
・黒い服の人を追いかけようと提案するよ
・栞はネスに渡す(内容は読まない)よ→受け取り拒否してくれたら自分の荷物袋にぶっこむよ
です。
まあ追いかけるよね。