兵士の矜持
「俺はさ、あんまり勉強とか熱心にやってきたタイプじゃないからさ。
エクセターの話も感覚でしか理解できねえんだ。
それに騎士だから人の体や命を守る力は持っているとは思うけど。
――人の心を守る、まして救う方法なんて知らないんだ。
だから俺からエクセターに言えることはこれくらいだ」「信じていればきっとエクセターもいつか姉さんに会える。
未来を掴み取ることができるのは力でもないし知恵でもない。
金や名誉でもない......未来を掴み取りたいと願う気持ちだって俺は思ってるからさ。
こういうこと言うとさ、ミリューには馬鹿にされるんだけどな。
俺は信じてるからいつだって守りたいって願い続けてる。
街の人たちだけじゃなくて――ミリューとスールも。
......勿論今はエクセターだってそうだ」
鼻で笑われるような反応も、十分ありえた。
けれど、フレールは私の言葉を真剣に受け止めてくれた。
それが、それが嬉しい。どんな慰めの言葉より、対等に向き合ってくれることが嬉しいんだ。
私はあえて何も言わずに、フレールの言葉に耳を澄ませた。
「それに今俺がエクセターを乗せてるのはエクセターが都合のいい兵士だからじゃないぞ?
――まあも戦う力がなければ違う理由でここまでは連れては来ないけどさ。
俺たちもエクセターがただ戦うだけの兵士でしかなかったら手伝って欲しいなんて思わない。
少なくとも俺が今後ろに乗せてるのは、面白い奴だって思ったからだ。
今までどう生きていたかなんか関係ない。
俺は今のエクセターしか知らないからな、それだけは何も変わらない」
「...そっか、ありがとうフレール。
こういう時にありがとうって言うのはちょっとおかしいのかな?
けど、それでも言うよ...ありがとう」
その感謝とともに、私はある決意を固めた。
この誇り高い騎士がこれから遭遇するであろう苦難。
その苦難を乗り越える力を貸そう...と。
例え一瞬の交わりにすぎない出会いだったとしても、ともに戦おう。
その先に、どんな結末が待ち受けているとしても、最期の時までは。
不敵な表情を浮かべ、冗談を言うように笑う。
「ああ、そうそう。嬉しかったんだけど、一つだけ訂正することがあるよ。
――人の心を守る、まして救う方法なんて知らない...って言ってたけど
エクセターは別に救ってほしいだなんて思ってないよ」
「エクセターは自分で這い上がるからね。
さっきのお馬さんの時みたいに...そばに居てくれるだけでいいの。
一人は嫌だけど、誰かが近くにいてくれるだけでエクセターは戦える、闘いぬく」
自らの考えを、思いを言葉にしてよりいっそう強いものにする。
闘いぬく、私はどんなことがあっても歩みを止めない。
「...それでもフレールがエクセターを守るって言うなら、エクセターもフレールを守るよ。
フレールが守りたいものを、一緒に守るよ」
それだけは何も変わらない。
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しばらくして、フレールが何かを思いついたのかミリューの馬に寄せた。
「そういえば、この辺りには花畑があったよな。
スールは花が好きだしさ、ちょっと摘んでいかないか。
俺たちからは贈り物を何も用意していないだろ?」
この言葉を聞いて、ははぁなるほど...と感心する。
これから会いに行くのだから、なにか贈り物を用意するとはなかなか紳士的だと思う。
エクセターは花より、お菓子のほうが好きだけど。
「あっ......。あ、えと」
だが、フィンの様子がちょっとおかしい。
なにか言いたいことがあるといったふうな表情をしている。
「どうしたのー?お腹痛い?」
フィンを心配そうに見つめていると、頭の上辺りでちょっとした口論が始まってしまった。
どうやらミリューは花を探す時間があるなら、狼を探せと言いたいらしい。
こちらも納得の行く話だと思う、先ほどのように狼が誰かを襲う前に仕留めておきたい。
何方かに口添えをすれば、決着もつくのだろうか。
そう考えていると、フィンが口を開く。
「あの......。さっき、僕の使い魔の目線からお屋敷を見てみたんですけど、どうやら僕とエクシーの仲間がお邪魔してるみたいなんです......。カレンさん、っていう女性なんですけど」
「えっ、そうなの!?」
これには驚いた。
フィンがポチを飛ばしていたのは知っていたけど本当に見つけるとは思っていなかったからだ。
ごめんね、ポチ。すごいよ、ポチ。
フィン曰く、カレンはおそらく一人で青髭の館にいるようだ。
ロセウスや、ネスも一緒にいるのかもしれないけど合流できるならそれに越したことはない。
そういった理由で、先を急ぎたい。それがフィンの言い分だった。
「うん、カレンがもし一人ぼっちだとしたら早く会いに行かないとだね。
というわけでエクセターも、先を急いだほうが良いと思うよ」
だが、カレンだけが理由ではない。
もちろん大きな理由ではあるが、それ以上に兵士としての矜持が理由だ。
「兵士として、民の為に狼を狩る。
そう決めたのなら、他のことをやるのはそれからだよ。
さっきの狼みたいに、誰かが襲われる前にやれることをやろう」
これで終われば、ただの叱責で終わる。
もちろんそれで終わるつもりはない、フレールの気持ちだって理解できるのだから。
「それにね、贈り物なんてなくてもきっと喜んで迎えてくれると思うの。
だって世界にたった一人しか居ない大切な家族なんだもん。
会えて嬉しくないわけないよ、絶対にね!」
その言葉に嘘はない。
フレールやミリューの人となりを見れば、仲が良いことは察せられた。
それならば、油断なく仕事を完遂した誇り高い兄として会いに行ったほうが良い。
...家族に対して、私ならそう振る舞いたい。
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PL・投稿を待っていたと思っていたら
いつの間にか投稿をされていた。な、何を言ってry(F5不足)
フィンの言葉を後押しするように、エクセターも先を急いだほうが良いと賛成します。
理由としては、兵士として早く危険を排除しておきたいという気持ちと、カレンとの合流からっ
フレールと真面目な話をしている時のエクセターは周りから見ても10歳前後の子供というよりは、20代前半の女性のような凛々しい表情をしているかもしれない。(期待込み)
エクセターは意外とプライド高いし、対等な関係じゃないと嫌がるから割と気難しい子なのです。