心にそっとしまうもの

 フィン(雪虫) [2016/05/07 22:21:20] 
 

  僕たちに笑顔を向けるエクシーが、怪我をした右腕をおさえる。

 >「腕は大丈夫、ちゃんとくっついてる!
   でも...う~いたたたた...安心したら痛くなってきたかも...」

 僕は無我夢中で処置をした。といっても、傷をいやすポーションを手順どおりに傷口に直接振りかけただけ。
 きっとこの噛み傷なら、飲んで体内に取り込むよりも治りがいい。

 >「お~!すごい!
   ちょっとひりひりするけど、もう傷が塞がっちゃった」

 やっぱり笑顔のエクシーに、妹みたいな彼女に、僕はごめんねを言った。戦いに慣れても、傷に慣れても、痛みを感じなくなるわけじゃない。どんなに痛かっただろう。そのことを思うと心がきしんだ。

 >「ううん、傷も治してもらったし、コートもまた手入れをしたら綺麗になるよ!
   それより、エクセターがきちんと倒せてなかったからフィンに怖い思いをさせちゃったから
   むしろ謝るのはエクセターの方だよ...ほんとにごめんね」

 びっくりしている僕に、エクシーはやさしい表情でつづけた。

 >「フィンはすごいよ。
   ちょっと不器用で、かけっこもそんなに早くない。
   力だってエクセターの方がずっと力持ち」

 >「けど、それでもフィンにはかなわないと思う。
   フィンはエクセターが持ってないものをたくさん持ってる、
   いろんな魔法や、たくさんの知識もそうだけど、もっと違う何か
   だからエクセターよりずっとすごいし、尊敬出来るんだと思う」

 「エクシー......」

 僕は言葉をうしなった。強いというならば......。エクシーのほうがずっと、強い。

 「そんなこと、ないよ......。君よりもすごいなんてこと、ない。僕は、弱いよ。こころも、からだも。けど、僕、決めたんだ。戦うって。目的にちかづくために、あきらめないって」

 自然とそんな言葉がこぼれた。
 そうだ。僕は、がんばるって、決めた。その先に、会いたいひとがいるから。

 さくさくさく、と草をふむ音が近づいてきた。

 >「悪かったな......エクセター。
   俺がしっかり気を配っていれば、怪我なんてさせなかったのにさ。
   ――ただ上手く狩れたのはエクセターのおかげだぜ、ありがとな」

 >「そうですね、見事な作戦だったと思いますよ」

 >「ううん、エクセターも詰めが甘かったから仕方ないよ。
   二人共予想以上に強くて頼りがいが有ったから、ちょっと油断しちゃったかな?
   うん、反省反省。エクセターは反省してもっと強くなる予定だから、期待してね!」

 エクシーのかたわらに立つフレールさん、すこしはなれて僕たちを見ているミリューさん。
 対照的なふたり。それでもわかる。彼らは僕たちを信頼してくれている。

 そして、まぶしい表情で微笑むエクシー。

 強さってなんだろう。僕は考える。
 僕は弱くて、ちっぽけだ。

 ただわかるのは、僕とともにいてくれるひとたちに悲しい思いをしてほしくないという気持ちがあること。
 口にはだせない、けど、いつも心にそっとにぎりしめている。いつか、「強さ」に変わればいい、ないしょだけど、そう思ってる。

 
 >「ひとまず任務は達成ですね」

 そう言ってミリューさんはちいさな鳥のすがたをしたものを荷物から取りだした。エクシーがびっくりしている。

 >「連絡用の小鳥型ゴーレムです。
   詳細な報告は帰ってからやるとしても......。
   任務が完了していることくらいは伝えないといけませんからね」

 >「へー、そうれい...魔法だっけ?しんご魔法?
   エクセターはどっちもお勉強してないからよくわかんないけど...」

 「ゴーレムを作りだしたり、操ったりするのは操霊魔法だね。エクシーの知るひとなら、ヴェンさんが得意な魔法だよ。僕の得意なのは、真語魔法。ふたつはよく似てるけど、それぞれできることがぜんぜんちがうんだ」

 そんなことを話しながら、小鳥の姿をしたゴーレムの飛んでいった方を視線でおいかける。これで、ふたりの狼退治の任務は無事にすんだのだろう。よかったな......。

 >「報告ありがとな、ミリュー」

 そう弟の肩をたたいたフレールさんが僕たちを見る。

 >「じゃあ、スールのところ......丘の上まで行くとするか。
   二人の仲間もいるかもしれないんだろ?
   早く会いに行こうぜ」

 >「フィンさんも乗っていきますか?」

 「はい。えと、おねがいします」

 僕はそううなずいて、ミリューさんに馬の上までひっぱりあげてもらうことにした。
 ちょっとおもはゆい、でも、素直に手をのばす。

 >「おっけーい!とぁ!」

 僕がもそもそとしているあいだに、エクシーがぴょんととび上がった。そのまま馬にぴょいとおさまる。

 「すごいねぇ、エクシー」

 僕はみじかい足に苦労しながら、ミリューさんの手につかまって、馬によじのぼった。

 「では、丘の上へ......。スールさんのお屋敷まで、行きましょう」

 カレンさんもきっとそこにいるはず。どうか、無事でいて......。
 丘の上を見あげる。きっとこの先には、青い瓦のお屋敷がそびえているはずだった。

――PL(雪虫)より―――

びびりのフィン君ですが、大事なひとたちのためならがんばれます。
旅に出る前、誰よりも大事だったのは師匠さんであり、今も彼に会うために戦うことに変わりはないですが、フィンの世界もすこしずつ変化をみせているのでした。

さきほどまでと同じく、ミリューさんの馬(の前)に乗せてもらい、丘の上のお屋敷をめざします!