【C-3-6】聖女の知らぬ愛
>「先ほどまでいい年した男の恋愛について聞かされて少々心がささくれ立っていることを、まずは承知しておいてもらいたいんだが。
> ジャンヌ、お前はあの男の想いに答えられたのか?
> 結果答えていないのは分かる。戦の最中であったのであれば、それどころではなかっただろう。
> だから仮定の話にしかならない。
> もしも戦が終わり、お前さんが処刑されずにいたのであれば。
> ジルから告白されたなら、ジャンヌは、彼とともに生涯を歩むつもりがあったのか?」
ロセウスはジャンヌに問いかける。
それに対してのジャンヌの回答は。
「かつて私は......ジルの好意を知らなかった。
私は、いや私たちは戦うだけで精一杯だったのだ。
精一杯戦い、精一杯生き、そして私は死んだ。
その間私の愛は全てただ神にのみ捧げていた。
――故にジルを明確に愛したということはない。
私の全てはただ主のみであったのだ」
生きていた頃ジャンヌがジルを愛したことはないという。
別の誰かを愛していたというわけではなく、ただ神しか目に入っていなかっただけのようだが。
ジャンヌは生前人を愛するという感情を知らなかったのだ。
「そして死後、私は今の役についた。
人ではなく神の使徒となったのだ。
――愛といった感情から剥離された今の私に。
従って今の私は彼を愛していると断言することはできない」
そしてジャンヌは今の役目を負うことなり、愛という感情とは無縁になった。
だから今のジャンヌも明確には愛を知らない。
「しかし私は彼を信頼していた。
今現在でも、彼についてこうして想う心があるくらいには......だ。
それを本来は人の愛と呼ぶべきだったかはわからない。
私の知るジルは高潔で優しく、頼れる男だった。
そのジルが私の為に心が囚われて、狂ってしまっているのが心苦しい。
――私に残された人の心が痛むのだ。
だから私はお前たちに頼む。
ジルの心を解き放って欲しいと。
これ以上囚われて幾つもの苦しみや哀しみを終わらせて欲しいのだ、と。
最悪の場合は私の為に囚われているのだから、私の手で終わらせるのも構わない。
ただ私は現世に関わることができないのだ。
故にお前たちを呼び寄せて、こうして頼んでいるのだ。
勝手な願いであり、私の人間としてのエゴだとはわかっている。
だから選ぶがいい......お前たちの決断を」
ジャンヌに彼を想う心がないわけではないらしい。
今回の依頼を頼む理由にそれだけではなく、自分のせいで狂ったことへの罪悪感もあるそうだ。
もし自分のせいで現実に悲劇が起きているなら止めてしまいたいという、
彼女自身のエゴが含まれていることも否定できないだろう。
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あんみつ@GMより
ロセウスにおかえしするさぶしんこう。