愛と失意と希望の日記
「あ、あの、すみません、ど、どうぞおかまい...なく.........」
僕がどうにかしぼり出したかぼそい声は、たぶん最後まではスールさんに伝わってない。
スカートのすそをひるがえしてもどっていった彼女の後ろすがたを見て、僕はちょっとぼんやりした。
>「......嵐のようなお嬢さん、いや奥さんだったねぇ」
ネスさんが苦笑する。
>「まぁ、彼らの目がない方が自由にできることもあるし丁度いいかな?
まずはこの本...あちら側から持ってきたジルの日記なんだけれど
これに目を通してもらっていいかな?」
「あ、はい。......あちら側?ジルってその、ここの、ご当主......」
つまり青ひげ。
青く染められた革装丁のしっかりした本だ。1冊は僕に、もう1冊はカレンさんの手元にわたされた。
ネスさんたち、いったいどこに行ってきたんだろう。
という疑問の答えが、きっとこの日記にあるんだろう。
僕はおとなしくページを開いた。
1ページ目からすべてを読むことはできそうにないから、前半のほうからぱらぱらとめくってみる。
「............」
ひとの日記を読むというのは、ちょっと、その......。図書館におさめられた手記のたぐいと同じじゃないかと思わなくもない、でも決定的にちがうのは、書いた本人と対面しなくちゃいけないかもしれないこと。
そんなことを思いながらページをすすめていくと、『ジャンヌ』という女性の名前があらわれた。
「......ぶっ、げほげほっ...!」」
えっと。青ひげは、うん。ジャンヌに、その、こ、恋を、している、みたいで......。
「ああああの、こっ、これあのっ、よ、読んじゃいけないんじゃ......!」
だってこれ、その、も、ものすごくはずか......いや、ひとに日記にそんなこと言っちゃいけない、でも。
そこにならぶ熱烈な言葉たちに目まいがする。
かーっと顔があつくなって、頭がぐらぐら煮えてくる。目が、文字の列をすべるようにうごきはじめる。視界が指でつくった輪っかくらいにせまくなっている。
もしこんな熱烈な日記を書いちゃって、それがだれかに読まれたとわかったら、僕だったら世を捨ててあてのない旅にでる。帰ってこられるかはわからない。
だめだ。これはだめだ。女のひとの入浴をのぞき見るのとおなじくらい、この日記を読むことは罪ぶかい。
ネスさんに返そう。そう思って僕は本を閉じかけた。
あれ?でも、とすると、姿を消した何人かの奥さんたち...それからスールさん、その前には、青ひげは...ジルは、ジャンヌと結婚していたんだろうか。
青ひげのこの激しい恋は、叶ったんだろうか。
ぽつりとうかんだ疑問のおかげで、僕は日記を読みつづけた。ジャンヌへ恋いこがれる気持ちとあふれんばかりの賛美の言葉がつづく。
「カレンさん、僕いちおう...こっち、ひととり目をとおしました」
カレンさんも、もう1冊のほうを読みおわったみたいだ。あえて僕は内容についてふれずに、青い本を取りかえっこする。
「............?」
2冊目に入って、ジルのようすが変わってきた。ジャンヌが、「忌むべき剣の使者」と呼ばれはじめたらしい。
ジャンヌは、ライフォス神の印をいただく聖女なんじゃなかったっけ。
自分がだんだんむずかしい顔になってきているのがわかる。
ジャンヌが、火刑に処せられた。
ジルは自分を責めた。ジャンヌを守り切れなかった、と。
そして、その「償い」としてジルが選んだ道は......。
ジャンヌを、ふたたび「呼びもどす」こと。
「えっ」
それって、え?操霊術......とかそういう手段......で?
ジルはジャンヌのことを、それほどまでにずっと想っていて。それでなお、奥さんたちと暮らしてた...いまだって、スールさんと結婚してる......のか。
そこに気持ちはなくて、単に家どうしのやりとりが成立したから......?ううん、よくはわからないけど、さっきのスールさんの様子はそんなかんじには見えなかった。
ミリューさんも言ってた、家の意向がまったくないわけじゃない、でも、スールさんはスールさんなりに、青ひげに心をひかれたんだって。
ジルの愛する人は......いまでも、この日記にしたためたとおり、『ジャンヌ』なのか......?
僕はなんだかわからなくなってきて、ふう、とおおきく息をはきだした。手のひらがじとりといやな湿り気をおびている。
ジャンヌ。そうだ、ロセウスさんがさっき「依頼をうけた」って言ってた。あれ?ロセウスさんとネスさんは、『ジャンヌ』に会った......のか?
どこで?どうやって?
ジャンヌの復活は......果たされたのか?
でも、そうだとしたら...。青ひげが積年の想いをかなえて、その上であらたな伴侶とともにべつの人生を歩きだしたのだったら......。
ネスさんが、この日記を僕たちに手わたすことはないんじゃないかな。
ふたりはいったい、何をみてきたんだろう。
「あの......。日記、目をとおしました。青ひげは...ジルは今もまだ、ジャンヌを愛してる。彼女の復活をのぞんでいる。その上で、いく人もの女性と婚姻関係をむすんでいる。そして今までの妻たちは、つぎつぎと『姿を消している』。因果関係はともかく、事実としては...そういうこと、ですよね」
僕の声はへんに平べったかった。
「ネスさんとロセウスさんが見たもの、聞いたものについて、教えてください......ジャンヌは、いまはいったいどういう状態なんですか...?」
一本一本の毛先がざわざわとふるえるような不安感がこみあげてくる。
だって、僕には青ひげが「いったい何のために結婚しているのか」わからない。そして、それはわからないにもかかわらず、青ひげの最大ののぞみだけはわかっているんだ。愛するジャンヌの復活。
物語の『青ひげ』は、今までの奥さんたちをつぎつぎ殺しては遺体を小部屋に置きざりにしていた。その理由は語られなかった。
『この物語』で、もしも「その理由」が語られるとするなら......?
やっぱり、青ひげは、『この世界のジル』は、結婚相手をつぎつぎと手にかけて......いるの?
「愛するひと」のために。
ぞっ、背すじの毛が逆立った。逆方向へなにか冷たいものがすべり落ちていく。
ひとを殺すまでに、ひとを愛せるか、なんて。そんなの。そんなの......。
許せない。けれどそれ以上に、わからない。ジルはいったい、何を想い、何をしている......?
たしかめなければ。僕のふかいところで、そうつぶやく声がきこえた。
「僕は、この物語をつむぐ者として、青ひげの...ジルの真意が知りたいです。そのうえで、彼が実際に何をしているのかも」
本を閉じて、ネスさんに手わたした。
「それがとうてい僕に受け入れられないことだとしたら......。僕、なにかするかもしれません」
ムリアンたちが心配そうに僕を見ていた。
『心配かけちゃったね。だいじょうぶ、僕は元気だよ?』
そう妖精語で言って笑いかける。
そしてムリアン達が運んでくれるカードをネスさんがめくり、僕は〈占瞳〉の不思議な効果にあずかることができた。
――PL(雪虫)より―――
フィン君なりに情報を整理し、覚悟をきめるところまでのRPです。
とりあえず、この日記は本人を前にお披露目すると相当なダメージがはいる危険物と認識しました。
いったんネスさんにお返しします。
フィンとエクシーのの持つ情報と、ネスさんロセウスさんの持つ情報、カレンさんの得た情報をここで交換したいと思います。
エクシーがフレールさんから得た、「騎士の家系の娘ばかりが妻として選ばれている」っていう情報がじみに気になっています。
【フィンの考えていること、やりたいこと】
・ジルは何を考えて奥さんをとっかえひっかえしているの?
・ジャンヌが好きなんだよね?復活させたいんだよね?
・まさかそのための犠牲やなんかだったら許せないよ?
・でもこれはすべて推測の域をでていない(個人的には重要)
・ジルの真意とおこなっていることについてできれば確認したい。
・動かぬ証拠でもでてこようものなら、日記朗読会がはじまりますよ。ジャンヌの前で。
【占瞳の効果】
フィン :非戦闘時の知力判定に+2ボーナス(効果時間:1時間)
ひろうずさんありがとうございますー。