【E-1-2】血塗れた部屋と悲願の証
もしかしてスールたちは今聞いた閉ざされた扉へと向かったのではないか。
そんな不安を口に出したミリューに答えたのは二ェストルだ。
>「うん そのようだねぇ...フィンからの報せだ。
> さて、私たちは確かめに行かねばならないのだが......
> たぶん、君たちが見ておもしろい物はないと思うよ」
フィンからのポチを通して送られてきた合図。
それを二ェストルは受け取ったのだ。
「......相変わらずな妹ですね」
ミリューは大きくため息。
>「どれ、俺達も行くとしようか」
そんなミリューを尻目にロセウスが動き出し。
二ェストルも共に向かっていく。
向かうまでの間、ロセウスはジャンヌとジルについて語る。
それはスールの夫であるジルがかつてジャンヌを愛していたという話。
そして......今この時でも彼の気持ちが消えていないのではないかという予想。
「ジャンヌ......その名は俺も知ってるよ。
戦争の中でその名前を口に出すのは禁止されてるがな。
ただ、最近は本当に聖女だったっていう説もあるみたいだが。
――でも本当にロセウスたちがあったジャンヌはそのジャンヌなのか?
だったら、聖女だっていうのもあながち間違いじゃないかもしれない」
フレールは戦争に出ていたから、ジャンヌの名前や噂程度なら知っているそうだ。
「それよりもロセウスたちはどこに行こうとしてるんだ?
俺さ、あんまり話についていけてなくて......」
ただそれよりもフレールは他の者たちの動向が気になるようで。
ロセウスと二ェストルに対して問いかけた。
だが、二人が答えるよりも先に動いた彼がいた。
「――僕も行きます。
杞憂かもしれませんが......それはあなたたちでも同じですよね。
何も起きないかもしれませんし。
何も起きて欲しくないと思ってます。
でも、やはり妹は放っておけませんので」
ミリューは立ち上がり、ロセウスたちについていくつもりのようだ。
「なんだ、お前も行くのか?
じゃあ俺も行かせてもらうぜ。
何があるのか正直分かんねえけどな。
一人になんのも退屈だし」
ミリューもついて行くなら当然のようにフレールも同行する気なようだ。
まあ、彼はひとりでじっとしていられる性質ではないから当然だろう。
* * *
扉を開ける鍵はスールが持っていたが。
それは使うことなくエクセターが挑戦することにしたようだ。
>「エクセターがやってみます。念のためなんですが、鍵を、しっかり持っていてください。ぜったいに離さないで」
「鍵を持っていればいいの?
わかったわ、ちゃんと持ってるわね」
フィンの言葉に頷き、スールは鍵束を固く握った。
>「ちょっと集中するね...デバイス・エクスプローラーエイド起動」
そして解除を担当することになったエクセターは、マギスフィアをゴーグル状に変形させる。
次に魔法の鍵を手にして、赤黒い錠前の開錠を試みる。
ちょうどかかった時間は一分。
>「解除完了...1分くらいかな?」
ゴーグルを元の球状に戻しながら語るエクセターは実に得意気だった。
エクセターは鍵を開けることに成功できたのだ。
「まあ、エクセターちゃんすごいのね。
その丸いボールみたいなのも不思議だわ。
小さいのにちゃんと魔法が使えるのね?」
エクセターの技術に素直にスールは感動する。
――そのまま何気ない仕草で。
「じゃあ、さっさと開けちゃいましょうか。
帰ってくる前に鍵を締めないといけないしね」
当然かのようにノブを回し扉を開いてしまう。
それだけ、この扉の奥が気になっていたということなのだろう。
* * *
スールが扉を開いて、まず一番に感じたのは嫌な......ひどく嫌な臭いだ。
生理的に受け付けない――どこか気持ちが悪くなる臭い。
ああ、これは......血の匂いだ。
「きゃ」
扉を開けたところのスールが何かを避けるようにして足を退かす。
中から何かが出てきたのだ。
液体のようだ......赤い色をしている。
そしてそれと同時に見えてしまう。
部屋の中の姿が。
それは誰が見ても惨状というべきものであった。
「いや......」
スールが一歩足を下げる。
すっと力が抜けた腕から鍵束が流れてきた血の川に落ちる。
「いやああああああああああああああ」
スールは悲鳴を上げて廊下の壁際に倒れ込んでしまう。
無理もないであろう。
部屋の中には沢山の娘の姿をしたものが吊るされていた。
全てかつては生きていた女性たちのようだが......もう生きてはいない。
その死に様は色々だ。
頭を砕かれていたり、首を切り裂かれていたり、胸を貫かれていたり。
ただひとつ共通するのは死の瞬間をそのまま留めているということだ。
おそらく魔法的な力の影響を受けているのだろう。
「スールっ!」
後ろから全速力で駆け込んできたのはフレールだ。
そのすぐ後をミリューがついてくる。
「これは......まさか......。
そんな、さっきの話は本当だと......?」
ミリューは部屋の中の様子を見て愕然とする。
彼に続いて中を眺めたフレールはひどく驚愕し......その驚きは怒りに変わる。
「なんだ、これは......。
次々と結婚した相手が消えるって聞いたが、こういうことだったのか!?
だったら、あの男はスールを......」
フレールは部屋を見て、次に恐怖に身を竦ませているスールを見る。
彼の怒りの感情がさらに高まったかのように見えた。
「行くぞ、スール。
俺たちのところに帰ってこい。
こんなところに......お前を置いていけるわけがあるか!」
フレールが声をかけてもスールの体は動かない。
無理はないだろう、ごく普通に、いや良く正しく育てられた女性には衝撃が強すぎる。
見かねたフレールはスールを抱え上げた。
「行くぞ、ミリュー。
スールを運ぶのを手伝ってくれ」
彼は他の五人には見向きもせずに廊下を進んでいった。
ミリューの方は少し冒険者たちの方に視線をやったが......。
「待ってください、兄さん......!」
フレールに声をかけてその後を追いかけていく。
* * *
さて、中を詳しくは見なかった彼らに比べて。
冒険者たちはいくつかの事実を知ることができただろう。
吊るされた骸のちょうど下にある床の部分には。
血で描かれた魔法陣がある。
それは聖女を呼び戻すというには幾分かおどろおどろしく見える。
またさらに部屋の奥にはこれまた歪で悪趣味な祭壇があり、その中央には一つの壺がある。
その壺からは黒い靄のようなものが溢れ出しているようだ。
見る者が見ればわかるだろう。
あれは悲願の壺とよばれるもの。
この壺には本来蓋があり、それを開けばどんな願いでも叶えられると言われている。
――だが、そんな虫のいい話があるわけがない。
悲願の壺は決して願いを叶えてくれる壺ではない。
むしろ強い願いを持った者の心を喰らう壺なのだ。
なぜなら、壺の中には魔神が棲んでいるのだから。
人の望みにつけ込む霧の魔神、レドルグが。
ついでにこの壺から溢れ出る黒い霧には......。
人の持つちょっとした望みを増強させる効果があるという。
―――――――――――――――――――――――――――――――
あんみつ@GMより
進行しました。
扉は勝手にスールが開けてしまいます。
知りたくて知りたくて仕方がないですからね。
酷いものを見たのでTPを1点差し上げます。
スールを連れてフレールとミリューは退場します。
おそらく入口に向かったみたいですね。
二ェストルとロセウスは好きなタイミングで登場できます。
【分類:道具】に【悲願の壺】を登録しておきます。
【分類:その他】に【壺の真実】を登録しておきます。
それぞれ見識判定の目標値は14,16です。
予備ダイスの1つ目と2つ目を使用したところ、どちらも判定に成功しています。
また、3つ目は【レドルグ】の魔物知識判定に使用したところ、
フィンが弱点まで抜いていますね。
この後の行動はお好きにどうぞ。