【E-1-3】霧纏う青髭
>「ミリューさん、青ひげに気をつけて...!」
ミリューの去り際にフィンは僅かながら声をかける。
急く彼の口から言葉はなかった。
だが、ほんの少し頷いていたようには見えた。
彼らが去ってすぐフィンは、壺について知識を語った。
壺の詳細、その秘密、そして魔神レドルグ。
話を聞いている間にカレンが魔法陣を眺めてみれば、どうやら思い当たる節があった。
これは複数人の血で紋様を描くことで効果が発揮される魔法陣である。
決してジャンヌのような聖女を呼び戻す効果を持つものではない。
これは単なる魔神を召喚するためのものである。
現在の紋様の描かれ方から、あとちょうど一人分の血で完成していたようだ。
ただ現在は完成していないため、ただの悪趣味な模様でしかない。
* * *
フレールとミリューがこの場所を後にしてから少しの時が流れた。
この青い屋根の城はそれなりに広い。
まだ城から出たということはないだろう。
>「了解!先行する!
>みんなも銃声がしたら、気をつけて!」
まず全速力で二人を追いかけたのはエクセターだ。
>「ほらカレンも走るぞ。
> ジルよりも先に、あの娘さんを救ってやらねばなるまい」>「‥はい!」
その後を追いかけるのはロセウスとカレンだった。
>「......覚悟はしていたけれど、酷いありさまだ」
後に残されたのは二ェストルとフィンである。
二ェストルが魔法陣を指でこすってみても描かれた模様に変化はない。
どうやら染み付いてしまっているようだ。
>「フィン済まないが何か拭うものを貸してもらえるかい?
> ......ありがとう」>「......とれますか?」
二ェストルがフィンからハンカチを受け取って拭ってみると。
表面の血は取れたものの鍵自体に染み込んでしまった部分は拭き取れなかった。
こうした繰り返しが鍵自体を赤黒く不気味に染め上げてしまったのかもしれない。
>「彼はまだ、間に合うといいのだけれど.........」
>「ともかく、レドルグをこのままにはできません。僕たちも、あとを追いましょう」
二人は目指す物語の結末を叶えるために......。
この部屋に扉をかけて、仲間たちを追いかけることにした。
* * *
もう少しで城の玄関へとたどり着くというところで。
エクセターはスールを抱えたフレールとミリューに追いつくことができる。
>「フレール!ミリュー!
> 待って、エクセターも行く!」
走ってついてきたエクセターが声をかければ、ミリューが少しだけ振り向いたものの。
フレールは声に反応を返すことはなかった。
それだけ怒って頭に血がのぼっているということなのだろう。
>「言ったでしょ!フレールやミリューの手伝いをするって!
> 守りたいものを一緒に守るって!」
「守りたいものを......守る......」
だが、今度の言葉はフレールの動きを確かに鈍らせた。
>「それに、スールも...一度落ち着けてあげたほうが良いと思う。
> カレン...スールと一緒に居た女の人が神官だから、きっと嫌な気分を解消してくれるよ。
> カレンも後ろから来てると思う、ロセウスも一緒に、何か有ったらいけないからって」
そしてそこまでエクセターが話し終えたところで。
やっとフレールは足を止めて彼女の方へ振り向いた。
表情を伺えば、多少彼の気持ちも落ち着いたようだ。
まだ苛立っている気持ちは隠しきれてこそいないが。
「確かにスールの心は楽にしてやりたい。
あんな......あんな酷いものを見せられて普通でいられるわけがない。
......ただ、せめてこの城の外までは出させてやりたい。
こんな場所にこれ以上俺の妹を置いていくわけには行かないんだ」
エクセターの言葉を聞いて、カレンたちと合流しても構わないとのことであるが。
少なくともこの城からは出ていきたいと告げて、歩みを進める。
* * *
城の外の空気はおかしなくらい美味しかった。
緑生える丘が麓の街まで続いている。
フレールは城を出てすぐの木陰にスールを休ませた。
ミリューは二人の馬を取りに向かっていったようだ。
カレンとロセウスはそれから程なく追いつくことができるだろう。
そうすれば、スールに心の乱れを鎮める奇跡を行使することもできる。
「あいつは......!」
フレールがあるものを見つけたのはちょうどその時であった。
城を目指して丘を登ってくるのはひとりの男。
青い髭をはやしたその姿はカレン、ロセウス共に見覚えのあるものだ。
――ジル・アジュール。
青い城の主にして、あの恐ろしい部屋に鍵をかけていた人物。
彼を見つけるやいなや、フレールは彼の行く手を阻むかのように飛び出していった。
「貴様......スールに何をするつもりだった!」
ジルを睨みつけるフレールはその手を彼の剣にかけている。
「おや、貴方はフレール殿ではありませんか。
既に我が城に訪ねられてれていたとは......不在にしていて誠に申し訳ない。
――ただ、貴方のおっしゃられていることがよくわからないのですが。
私が妻に何かをするとでも言いたいのですか?」
そんな彼が急に現れたことで多少驚いたらしいジルは。
そして同時にフレールの言葉についても意味がわからないという態度をとる。
ジルのそんな様子が、フレールの心をより燃え上がらせた。
「ふざけるな!
俺は城の奥のあの部屋を見たぞ!
お前が殺してきた死体が吊られている部屋をな......。
あそこにスールも吊るすつもりだったんだろう!
――そんなことは、させてたまるか......!」
フレールは剣を抜き。
ジルを迎え撃つ準備が出来た。
だが......当のジルの様子はどうにもおかしい。
「私が......殺した......?
城の奥の部屋......?
スールを......殺す?」
ジルは何かを思い出そうかとするかのように。
一つ一つ口にして、言葉を紡いでいく。
――そして。
「う......うう......」
軽く唸り声を上げたかと思うと。
「うああああああああああああああ......!」
大声を上げて苦しみだした。
同時に彼の背中から漏れ出してくる霧。
「駄目じゃないか......。
せっかく私が毎度毎度全てを忘れさせているというのに。
まだ壊れてもらっては困るのだよ。
壊れてもらってはな......」
この正体こそが霧の魔神レドルグ。
ジルとスールたち兄妹すべての運命を狂わせようとした相手だ。
「お、お前は......何者だ......!」
戦闘態勢に入っていたフレールも突然のことに戸惑っている。
「......フレール兄さん!
これは......いったい......」
そんなところに戻ってくるのはミリューと二体の馬である。
そろそろ二ェストルとフィンもたどり着く頃であろうか。
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あんみつ@GMより
進行しました。
魔法陣については目標値14としたので、カレンが成功しています。
とりあえず現在のシーンとしては丘の上ですね。
ジルとフレールが対峙している状態です。
スールに魔法など使うのであればご自由にどうぞ。
【サニティ】であれば一応目標値は12としておきます。
ロセウス、エクセター、カレンは丘の上にいるので。
お好きな描写をどうぞ。
フィンと二ェストルはミリューと同じタイミングで丘の上まで来ることができます。
全て使うかはわかりませんが、念のため予備ダイスを3つ程用意しておいてください。