震える心
悲鳴。床を伝って流れる赤い液体。
吊るされた女性たちが展示されているかのような室内の惨状。
ただただ、赤い。赤黒い。
ここは地獄だ。
「......あ」
スールは悲鳴を上げて倒れこみ、今は動かない。
慣れていないものには、あまりにもショックが大きいため放心状態になってしまったのだろう。
慣れていたとしても、こんなものを見て嬉しいわけがない。
いつの間にか、フレールやミリュー、ロセウスやネスもこちらに来ていた。
私は、私はどうすればいいんだろう。
こんな時、私はどうすればいいのだろう。
なぜ私は、仲間を心配するでもなく、怯えるでもなく。
部屋の奥にある祭壇の...中心にある壺から目が離せないのだろう。
...近づいて、そうだ近づいて確かめないと。
おぼつかない足取りで、前へと進む。
数歩歩いて、横から聞こえたカレンの声にハッとなった。
「‥それにしても、あの壺は何なのでしょう‥なにやら良くない気配しか感じないのですけど‥」
「ぁ...なんでエクセター...近づいて?」
訳がわからない。この惨状に動揺してしまったのだろうか。
けれど、あの壺は危険だ迂闊に近づいてはいけない。
そう思い直して、部屋にはいる直前で踏みとどまった足先を廊下へと戻す。
気が付くとスールやフレール達兄弟の姿は居なくなっていた。
外に...向かったのだろうか。
「これは......『悲願の壷』とよばれるものです」
混乱した頭に、フィンの言葉が響く。
「この壷のふたを開けたものは、その不思議な力によってどんな願いでも叶えられると言われています。
「どんな願いでも...?」
いつも一緒にいてくれた、大好きな後ろ姿が脳裏をよぎる。
どんな願いでも、というならヨークを探しだすことも出来るのか。
そう考えた...しかしフィンの続ける言葉に、そんな考えは吹き飛ぶことになる。
でも......そんなの嘘です。じっさいには、壷の 中にひそむのは霧状の体をした、魔神レドルグです。レドルグはふたを開けたものを誘惑し、憑依し、望みをかなえるふりをして意のままにあやつるといいま す。たぶん、今、ジルにはレドルグが憑依している状態だと思われます。この部屋のありさまも、レドルグの言いなりになったジルの手によるものと見て間違い ないでしょう」
魔神レドルグ。
僅かな希望をいだいて近づいた存在を食い物にする悪魔。
「黒い霧を吸いこまないでください。心にひそむ望みが不自然なかたちで増幅されるおそれがあります。下手をしたら、歯どめがきかなくなります。ジルは、『愛するジャンヌを復活させる』という強い望みを持っていたがために、魔神に心を喰われたんです」
その言葉を聞いて、自分がなぜあの壺から目が離せなくなってしまったか気がついた。
部屋に煙が充満していたということは、鍵穴から少し漏れ出していたとしてもおかしくない。
危ないところだった。
もし、自分一人だったら壺の危険性を認識できずに虜となっていたかもしれない。
自体を把握して、混迷の霧が晴れた思考の中に新たに渦巻いた感情は『怒り』。
私の心が、大きな叫びを上げようとしていた。
「人にはみんな、願いがある。
大なり小なり、そうなってほしい、そうなりたいって思う願いが、希望が。
エクセターにもある。だからこそッ許せないと思うッ!」
心に湧き上がる感情と呼応するように、真紅の髪が赤く燃えるように輝く。
だが同時に、歯車を映す青の瞳は静けさをたたえた泉のように淡い輝きを灯す。
消耗したマナが、体の中で高速で生成されていくのを感じる。
これはエーテルサーキットのリミッターを外すことにより発生する、急速回復現象。
けどリミッターを外すということは、体に決して少なくないダメージを与える事になる。
けれど、そんなことを気にしている場合ではない。
今たしかに、やらなければならないことがある。
「分かった。俺達は先に行く。
エクセター、あの兄弟に言伝だ。
屋敷を出る前に追いついて、カレンが神官であることと、スールに奇跡を行使して落ち着けた方がいいと伝えてやれ」
この場所の調査は、ネスとフィンに任せよう。二人なら安心して任せられる。
そして今、私がやるべきことは、一刻も早く彼らに追いつく事だ。
「了解!先行する!
みんなも銃声がしたら、気をつけて!」
スプリントの体勢を取り、猛烈な速度で屋敷を駆け抜ける。
兄弟はどれぐらい進んだだろうか、だがこの速度ならそう時間をかけずに追いつけるはず。
「フレール!ミリュー!
待って、エクセターも行く!」
「言ったでしょ!フレールやミリューの手伝いをするって!
守りたいものを一緒に守るって!」
二人の背中に必死に呼びかける。
「それに、スールも...一度落ち着けてあげたほうが良いと思う。
カレン...スールと一緒に居た女の人が神官だから、きっと嫌な気分を解消してくれるよ。
カレンも後ろから来てると思う、ロセウスも一緒に、何か有ったらいけないからって」
一通りのことを話して、ほっと一息をつく。
やっぱりスプリントモードは息が上がる。
「ふぅ...ふぅ...エクセターも分かんないこと多いけど。
エクセターも手伝うよ...いいかな?」
これから何が起きるか、もはやわからない。
だけれど、奴が奴が現れるような気がする。あの魔神が。
どんな困難にも対処できるよう、少しでも呼吸を整えるための軽い深呼吸を続けた。
=====================
PL・人の希望を食い物にする魔神に怒り心頭のエクセター
エクセターはロセウスの指示に従ってダッシュで兄弟の後を追います。
さらに、怒るRPと合わせてついでにHP変換でMPを満タンにしておきます。
なおエクセターは、HP変換を使うと髪と瞳が淡く発光すると言う設定が生えました。
HP変換でHP26/33 MP16/16 に変化。
予備ダイス1 2d6 Dice:2D6[6,4]=10
予備ダイス2 2d6 Dice:2D6[4,1]=5