血だまり
>「まあ、エクセターちゃんすごいのね。
その丸いボールみたいなのも不思議だわ。
小さいのにちゃんと魔法が使えるのね?」
明るく言ったスールさんはそのまま。
>「じゃあ、さっさと開けちゃいましょうか。
帰ってくる前に鍵を締めないといけないしね」
「あ、まって......!」
僕がのばした手は間に合わなかった。スールさんの手が、すんなりとノブをまわして扉を開く。
体の芯がすぅっとつめたくなる。
>「きゃ」
「スールさん!?」
スールさんが一歩足をひいた。そこに流れ出てきたのは...血液だ。
>「いや......」
スールさんは鍵を取り落とし、鍵は血の川のなかにひたってしまった。ああ、僕のミスだ。僕があずかっておけばよかったのに...。
>「いやああああああああああああああ」
スールさんは悲鳴をあげた。廊下の壁で体をささえるのがやっとだ。
「スールさん!」
僕は彼女にかけよろうかと思ったけど、いったん部屋の中をのぞきこんだ。
「うっ...うぶっ......」
たちこめる血臭。死のその瞬間の姿をとどめたまま、かつての花嫁たちとおぼしき女性たちが、無残な姿で吊るされていた。
その遺体の下には血液で描かれたような魔法陣が。
>「スールっ!」
フレールさんだ。ミリューさんも。来てくれた......。ふたりは部屋の中を見て、顔色をかえた。
>「これは......まさか......。
そんな、さっきの話は本当だと......?」>「なんだ、これは......。
次々と結婚した相手が消えるって聞いたが、こういうことだったのか!?
だったら、あの男はスールを......」
様子からみるに、ネスさんかロセウスさんが、ミリューさんに詳しく青ひげについて話したようだった。
>「行くぞ、スール。
俺たちのところに帰ってこい。
こんなところに......お前を置いていけるわけがあるか!」
そう声をかけても立ちあがれないスールさんを、フレールさんはいくぶん乱暴に抱えあげた。
>「行くぞ、ミリュー。
スールを運ぶのを手伝ってくれ」
そう言ったフレールさんは僕たちにかまわず廊下をずんずん引きかえしていく。
ミリューさんは一瞬だけど、僕たちを気にした。
>「待ってください、兄さん......!」
「ミリューさん、青ひげに気をつけて...!」
とっさにそれだけしか言えない。声は届いただろうか。
追いついてきたロセウスさん、ネスさん、それにエクシーとカレンさんの視線をかんじながら、部屋の奥、祭壇をじっと見た。ぶらぶらとゆれる遺体におもわず目をとじてしまう。
けれど、もういちど目を開く。
気味の悪い装飾がほどこされた祭壇に、一見すると価値のありそうな壷が置かれていた。デザインからしてふたがあるはずなのに、今はない。
ぽっかりと開いた口から、黒い靄のようなものが吐きだされ続けている。
「これは......『悲願の壷』とよばれるものです」
最悪だ。うつろな僕の声が呪われた部屋にひびく。
「この壷のふたを開けたものは、その不思議な力によってどんな願いでも叶えられると言われています。でも......そんなの嘘です。じっさいには、壷の中にひそむのは霧状の体をした、魔神レドルグです。レドルグはふたを開けたものを誘惑し、憑依し、望みをかなえるふりをして意のままにあやつるといいます。たぶん、今、ジルにはレドルグが憑依している状態だと思われます。この部屋のありさまも、レドルグの言いなりになったジルの手によるものと見て間違いないでしょう」
ああ、最悪の展開だ。
「黒い霧を吸いこまないでください。心にひそむ望みが不自然なかたちで増幅されるおそれがあります。下手をしたら、歯どめがきかなくなります。ジルは、『愛するジャンヌを復活させる』という強い望みを持っていたがために、魔神に心を喰われたんです」
遺体の足もとに描かれた魔法陣を見る。
「レドルグはかなり高位の真語魔法と操霊魔法を使いこなします。あらゆる言語に精通し、獲物の心につけいろうとします。弱みがあるとすれば......。その霧状の体が、純粋なマナの力に対しては比較的もろいということでしょうか」
僕はみんなをふりかえった。
「鍵は...。この部屋の鍵は、筋書き通り、血にひたされてしまいました。おそらく青ひげが、ジルがもどってきます。スールさんのもとへと。フレールさんとミリューさんだけでは、おそらく分がわるいです。でも、僕たちなら......」
みんなをまっすぐ見あげる。僕たちがみんなそろえば、きっと。
※ ※ ※
部屋に残ったネスさんと僕は、あらめて部屋の惨状をながめる。
>「フィン済まないが何か拭うものを貸してもらえるかい?
......ありがとう」
僕は息をとめたりはきだしたりしながら、ポケットから取りだした紺色のハンカチをネスさんに渡した。
「......とれますか?」
物語どおりなら、この血は絶対とれない。それを見た青ひげが殺人鬼に姿を変えるのだけれど......。
そう、筋書きがすすむより先に、きっとフレールさんたちが黙っていないだろう。
フレールさんとミリューさんにも、「壷の中の魔神・レドルグ」の話は伝わるだろうか。先行した3人がうまく話してくれるといい。
>「悲願...ねぇ "希望は苦しみを長引かせる最悪の災い"と言うのは
あながち間違いではないのだろうねぇ」
壷から流れだす黒い霧を見ながら、ネスさんが苦々しくつぶやいた。
>「彼はまだ、間に合うといいのだけれど.........」
「レドルグは、言葉巧みに獲物の希望をかきたて、そこから一気に絶望のどん底へたたきおとすことを無上の喜びとしているそうです」
僕もぽつりとつぶやく。
「みんな、心のなかに願いを持ってる......。ジルも、そうだった。これだけの人殺しをかさねて、そうまでしてもジャンヌを呼びもどしたかった。呼びもどせると、信じていた」
ぶら下がる遺体のひとつにすこし近づき、僕はそっとひざを落として魔法陣をしらべた。
「ともかく、レドルグをこのままにはできません。僕たちも、あとを追いましょう」
――PL(雪虫)より―――
壷について、レドルグについて、フィンにわかるかぎりのことはお伝えしています。
いちおう、遺体の足もとの魔法陣についても見識判定をしてみました。もちろん「ジャンヌを生き返らせる」こととはほぼ無関係だと思われますので、実際にはどういうたぐいの術がかかっているのかわかればと思います。が、出目がふるわなかったので微妙かも。
この部屋に鍵をかけて、ネスさんといっしょに先行したみなさんを追います。
【判定結果】
20:57:25 雪虫@フィン ≫ 見識判定 魔法陣 2d6+9 <Dice:2D6[2,2]+9=13>
20:57:39 雪虫@フィン ≫ 予備ダイス1 2d6 <Dice:2D6[1,5]=6>
20:57:52 雪虫@フィン ≫ 予備ダイス2 2d6 <Dice:2D6[6,2]=8>