【F-1-2】愛のかたち
スールに手を差し伸べ、彼女を連れて行こうとするミリュー。
そんな彼をやんわりと引き止めたのは、カレンであった。
ここからの話はたとえ兄であるミリューたちであっても勝手に決めてはならない。
本人であるスールたちの意見を聞いてこそであるのだと。
二ェストルやフィンも彼女の言葉に続く。
スールはスールのやりたいように動くべきであると。
「カレン」
その言葉を聞いてスールは強く頷き。
宙に浮かせたままの手を引っ込めた。
それは彼女の小さな決意の証。
「そうよね。
私......まだ知らないこともある。
知らない方がいいこともあるかもしれない。
けれど、もう怖くないわ......今以上に恐ろしいものなんてそうはないはずだから。
――私はジルと話してくる」
スールはゆっくりと立ち上がる。
最初は少しよろめきかけたが。
一歩一歩進めていく足には確かに力があった。
* * *
一方ジルと対峙しているロセウスとエクセターに場面を移せば。
>「時にジル。
> 一つ確認させてもらいたいんだが――いや今この瞬間でなければ意味のない確認だ」
そう言ってロセウスは切り出そうとする。
ジルは弱々しくゆっくりとロセウスに反応する。
>「お前さん結局、これまでの妻たちとそれからスールを、ちゃんと愛していたのか?」
――それは、ジルが彼女たちを。
そして今でもスールのことを愛していたのか、という問い。
「私は......かつてジャンヌを愛していた。
それは紛れもない事実だ。
彼女が殺されたとき世界を憎んだのも事実。
可能ならば、彼女と再び見えたいと考えていたのも真実だ。
その気持ちが壺の魔神に利用されてしまったのだろう」
彼がまず重々しく語り始めたのはジャンヌへの想い。
それはレドルグに見せてしまった隙でもあった。
「だが、同時に現実を直視し諦めていた私がいたのも本当だ。
ジャンヌの影を無意識に追いかけていた可能性は否定しない。
それでも、私は現実で手に入る幸せを求めていたのだ。
私なりに人を愛し、私なりに人から愛されたいという幸せを。
もしかするとこの気持ちすらあの壺の魔神に植えつけられた感情かもしれぬ。
ただこれだけは偽りなく言えよう――私は彼女を大切な妻だと思っている。
......そう思えていると信じている」
騎士の家系のスールを始めとし、無意識にその影を追いかけていたかもしれない。
そもそも都合良く操るために魔神が植え付けた感情かもしれない。
けれど、ジルはただひとつの真実として語る。
――スールを大切に思っている。
>「都合の悪い過去をなかったことには出来ないし、都合の良い未来だけつかみとることも出来ない。けど、今を努力して少なくとも後悔が残らないよう頑張ることは出来ると思う」
>「何をどうするか、それは自分で決めないといけない。
> 大変だけど...エクセターは自分で決めたよ、後悔しないように。
> 貴方も自分で決めなよ、やるべきことを」
そんなジルにエクセターは手を差し伸べた。
見た目はまだ幼いエクセターにそう言って手を差し伸べられた彼は。
決して拒むことなくその手をやさしく包み、ゆっくりと立ち上がった。
* * *
ジルとスールは丘の上で相対する。
フレールとミリューはそんな二人を傍から見守っている。
「......スール、聞いて欲しい」
先に口を開いたのはジルの側であった。
「お前が何を見たのか、何を思ったか。
私は悔やみたくなるほど、理解しているつもりだ。
それでも......私はお前に......」
ロセウスやエクセターの言葉を受けて。
彼はスールに伝えようとする。
ジル自身の気持ちを。
「――それ以上、言わないで。
私はこれ以上貴方の話を聞く必要はないわ」
だが、彼の言葉はスールによって遮られる。
「スール......そうか......」
彼女の反応を受けてジルの顔に広がるの悲痛の感情。
それに追随するのは諦めの表情。
しかし、スールの方はそんな彼に優しく笑いかけた。
「だって、言われなくてもわかるもの。
私は確かに貴方を愛しているんだから」
――これが本当のスールの答え。
ミリューたちに流されそうな彼女が秘そうとした。
カレンたちの言葉によって告げることにした、彼女の気持ちだ。
「怒らないで聞いてちょうだい。
貴方に初めて会ったとき。
なんて恐ろしい顔の人だろうって思ったわ。
――でも、すぐに思い知った。
全ては見た目じゃないの。
貴方は勇敢で頼りがいもあって、聡明で......優しかった。
だから私は貴方のことが好きなのよ」
朗らかで積極的なスールだからこそ口を止めずに言えるのだろう。
先に話しかけたジルはというと、ただ黙ってスールを見つめていた。
少し驚きが感動へと移り変わっているように見える。
「ジャンヌっていう人について私は詳しく知らないの。
貴方にとって大切な人だったって聞けばそれでも嫉妬してしまうわ。
けれど、私はジャンヌに一つだけ絶対的に勝っているポイントがある。
私は今、ジル――貴方の妻なのよ。
貴方のことを一番傍で支えられるのは私だけ。
――ねえ、そうでしょう?」
彼女はジルに向けて微笑みを見せた。
それはどことなく挑発的なようで。
何よりも愛に満ちていた。
「貴方が犯した事実はなかったことにできない。
貴方はきっとこれから苦しい思いをすることだって多いでしょう。
その負担を私にも少しでいいから背負わせて欲しい。
だから、私は帰らないわ。
――我侭な妹でごめんね、フレール兄さん、ミリュー兄さん」
最初は心配そうに見つめていた二人であったが。
スールの言葉を聞いて諦めたのだろう。
ちょっとだけさみしそうに笑っていた。
「相変わらずだな、お前は」
「まったくですね。
兄妹揃って負担ばかりかけるのは正直勘弁して欲しいですよ」
少なくとも現時点で二人はスールの意志に反して連れ帰る気持ちはなさそうだ。
妹のことを大切に思うがゆえの決断だろう。
「勿論、貴方も私に帰れなんて言わないわよね......ジル?」
最後にスールはジルの気持ちを問う。
ジルの答えは決まっている。
「ああ......そんなこと言うはずがないだろう。
ありがとう――スール」
* * *
彼らの会話を眺めていたロセウスからは何かが抜け出ていく感覚がある。
「私からの救済などは必要なかったかもしれないな。
いや、お前たちの言動あっての顛末か。
心から......感謝しよう」
ジャンヌは彼ら二人を見届けて。
もうジルは問題ないと判じたのだろう。
「それにしても、これが人の愛の一つの形か。
私も少しぐらい味わってみても良かっただろうか」
少しだけぼそりと呟いたあと。
ジャンヌは光になってロセウスの体から抜け出していった。
その輝きは高く高く天まで昇っていく。
ジルはその様を見て、何かに気がついたかのように息を止める。
けれどそれ以上、彼女の名前を呼ぶことはなかった。
――ジルの思いは今ではもう、光だけに向けられているわけではないのだから。
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あんみつ@GMより
とりあえずそれぞれの言葉を受ければこんな形になります。
ロセウス、エクセターやジルたちとのやり取りからTPを1点、
最後のやりとりからRPを2点獲得できるものとしましょう。
おそらくフィン以外は5点以上になったはずです。
次回エンディングを投稿しようと思いますが、それ以前にやりたいことがあればどうぞ。
最後のCP獲得チャンスでもあるので。
ついでに剣のかけら7個分のダイスを適当に振り分けてください。
剥ぎ取りについてもお好きにどうぞ。