一刀両断
ジャンヌから託された十字架は、きちんとその役割を果たした。
魔神はジルの体から叩き出され、俺達の前へとその姿を現したのだ。
そうしてくれればあとはもう容易かろう。
誰かを操るような魔神が、俺達の猛攻を受けて立ち続けることは出来まい。
その証拠に。
>「貴様......なんてことをしてくれたのだ......!
> 所詮竜になりきれぬ下賎な身の分際で。
> その煌めき......忌まわしき記憶が蘇る。
> かつて私が殺させたあの女がまたこうして邪魔をするというのか......」
余裕がなくなって来たのか、それとも無学の露呈か。
「お前馬鹿だろう。
俺達リルドラケンは、崇高たるドラゴンが人族とともに剣をその手に取りて戦うためにこの姿になったのだ。
蛮族の馬鹿とは違う」
蛮族にはドラゴンのなりそこないがいる。
竜になり切れぬ下賤な身はあっちであって、俺達ではない。
>「......まあ、よい。
> この男の心の弱さは誰よりも私が知っている。
> 何度邪魔されようとも、私が何度もこいつの中に潜ませてもらおう。
> そしていつまでも繰り返すのだ。
> こいつの最大の絶望を味わえるその日まで」
「その前にもっと美味いものを味あわせてやろう。
お前自身の絶望という、今まで食らったことが無かろうものをな!」
動くことができないエクセターのかわりに一声吼える。
パリンと音を立て、指輪がはじけ飛んだ。
問題ない、必要経費だ。
誰かが出来ぬことがあるのなら、出来るものが代わればいい。
俺達は個人主義の蛮族でも魔神でもない。
助け合うことを尊ぶ、人族なのだからな。
>「―――〈光矢〉」
>「エクシー!どうしたの、しっかりして!」
フィンの放った魔法の矢が、俺をかすめてレドルグへと突き刺さる。
容赦なく魔神を攻撃しながら、心優しいこの仲間は動くことのできないエクセターの身を案じた。
「おいエクセター、あの魔神にでかい絶望を一発頼むぞ!」
この世界に銃はないと兄弟が言ってたいと、エクセターとフィンからそう聞いた。
ならばあの魔神にとって、エクセターの銃撃は絶望にも等しいはずだ。
避けられない銃弾で身を穿たれる絶望は、きっと美味いのではなかろうかと思う。
>「さぁ 舞台を降りる時間だ」
続けて放たれるのは、ネスの魔力の矢。
避けることの出来ぬ魔力の矢がまたも、魔神の体に突き刺さる。
俺はミリューから魔法の力を授けられた斧を、握り直す。
俺は重戦士だ。
この牙も、爪も、鱗も。
誰かを護るためにある。
しかし俺はリルドラケンである。
普段はその背に畳まれた翼を広げ、魔神の頭上へと飛び上がった。
「すまんな、長々とお前の大好物を味あわせてやれなくて」
フィンと。
ネスと。
エクセターの攻撃を受けてすでに瀕死になっている魔神を、手にした斧で叩き斬る。
確かな手ごたえを斧に感じながら、着地した俺は翼をまた畳んだ。
* * *
戦いが終わり、ジルと、兄弟が言葉を交わす。
俺達はある種当事者だが、あまり、口をはさむものではないのかもしれない。
どうしたもんかなあ。
>「兄さん......。
> わ、わたしは......」
帰ろうと告げる兄たちに、スールは迷いを隠せない。
「一旦帰った方がいいのではないか?」
ああいや、一旦帰ってしまえば、それはすなわち離縁になるのか?
まあその辺りは当事者たちで決めてもらうことにしてだな。
「その後戻ってくるにせよ、実家にそのまま住まうにせよ、あの部屋の掃除が終わるまでは実家に身を寄せてはどうだ。
あの部屋は外のものに掃除させるわけに行かんし、あんただってしたくないだろう?」
壺を割り、魔法陣を消し、御遺体を埋葬するまで。
スールは実家に身を寄せた方がよいと思う。少なくとも俺はそう思う。
まあ、その場合の働き手は俺達になるんだが。
きっと他の仲間達もその辺りは拒否すまい。
......こうなるんなら、コボルドどもを連れてくるんだったなあという、割とどうでもいい後悔はあるが。
「時にジル。
一つ確認させてもらいたいんだが――いや今この瞬間でなければ意味のない確認だ」
項垂れる男に追撃するようでものすごく心が痛むが、今でなければきっと、スールの心はもう戻ってこないだろう。
優しいが故にジャンヌを愛し、魔神に付け込まれたのだろうとは想像に難くない。
だから、今。
「お前さん結局、これまでの妻たちとそれからスールを、ちゃんと愛していたのか?」
ジャンヌへの愛を捨てる必要があるとは俺は思わない。
叶わなかった想いは、きっといつまでも心に残るだろう。
彼の戦はこの国と、それからジルを形作るきっと根幹にあるはずだ。
だからその愛を捨てる必要はないだろう。
それにこの後どうせ失恋するのだし。
「怖がられてるのが分かってるのであれば剃ればよかっただろうその髭に怯えることなく、本来のお前さんをちゃんと愛してくれて、
今だって怖かったろうに、実家に帰りたかろうに、それでもなおお前さんを愛してくれようとしてくれているスールを」
ただの贄なのか。
それとも。
もしもそこに愛があったのであれば、俺は、大掃除に力を貸すのはやぶさかではない。
無かったら?
帰るに決まってる。仕事は終いだ。
―――――
PL;
前回書けなかった分も合わせて大量にRPするのです。
...今日だと思ってたんだよ? 本当だよ?
ロセウスが全力でdisってるのはドレイクです。
会ったことはないのでデータは知りませんが、「蛮族にはドラゴンのなりそこないの種族がいる」という知識だけあります。
その種族の名前がドレイクかどうかも詳しくは知らないんじゃないかしら。
どうでもいいと思ってそうなので。
ところで剥ぎ取りは出来ないんでしょうか...!
冒険者の、冒険者の権利を...!
スールが帰るか城に残るかはまあ、置いておくとして。
剃れよ! という魂の叫びもジルに伝えつつ。
割とロセウスの中で懸念材料であった「はたしてジルは今までの奥方+スールをどう思っていた(る)のか」について問いかけます。
もしもそれなりに愛していたとするのであれば、再構築もできるんじゃないかなって思うんです。
これまでのGMの描写によると、ジルは英雄で、そうなると各貴族は家同士のつながり欲しいからジルに嫁を取らせようとするのは分かりますし、娘がいたら嫁がせるよねっていうのは理解できます。