つらつら
劇場に近づいたころ、それらしき人を見つけた。
この人がスラップ殿だろうか。
取込み中のようなので、待ちながら観察する。
長い銀の髪。
女性のようにも見える姿。
言動は男性のものだし、実際に女性と並んでいるので、それなりに区別はつく。
そして、のべつまくなく紡がれるその言葉。
よくあれだけすらすらと褒め言葉が出る。
......ふむ、終わったようだ。
女性はシィノのほうへ来る。
すれ違うときに目で礼を返して、スラップ殿かもしれない男性のほうへ向かう。
男性は来た道を戻ろうとしている。
まずは声をかけ―――。
「............」
とつぜん、男性が振り向いた。
そのまま駆けてくる。
先ほどの女性を追うのかとも思ったが、どうやらシィノのほうだった。
>「オレとしたことが、危うく大きすぎるミスを犯すところだった。
> 君の、君だけの魅力を見落としてしまいそうになるなんて」
見落としたままでよかったのだが。
>「オレはスラップ。
> 流浪のミュージシャンさ。
> よかったら君の名前を教えて欲しいな。
> ――オレの全てに刻み込んでおくから」
スラップ殿。間違いない。間違いようがない、ともいう。
「シィノはシィノヴィア」
>「それにしても、一日で二人も素敵な女性に会わせてくれるなんて。
> オレは今日は月の女神に感謝しながら眠らないといけないな。
> ――君もオレの部屋で一緒に祈りを捧げるのはどうだ?」
「宿はもう決まっているので。
しかし、シーン様に感謝するのはいいことです。
できれば"今日は"などと言わず、毎日でも」
それにしても、よくしゃべる。
よくしゃべるのはアルフェイト殿も同じだし、
にぎやかさならラキアスのほうがずっと上なのだが。
スラップ殿の場合は、また違う。
いずれにしろ、これだけのべつまくなく褒め言葉を紡げるのは、もはや才能だ。
おそらく女性限定ではあるのだろうが。
>「ああ、でもその格好だと君は冒険者かな。
> もしかして今お仕事中だった?
> それならごめん、謝るよ。
> デートも君の仕事が終わってからで構わないぜ。
> オレは......君のためならスケジュールを開けておくのを厭わないからさ」
ふむ。スラップ殿に、急ぎの用事はないようだ。
「ありがとうございます。
では、これから艶花亭へ行っていただけますか。
ネージャ嬢がお待ちです。
お暇であれば、ソリッド殿とプレイヤ嬢を探すのを......
いえ。宿で待っていてください」
手伝ってもらえるか、と聞こうとしたが、やめた。
ともに行動しても、女性を見かけるたびに足を止められては面倒。
手分けをしたところで、ふたたびスラップ殿を探しに来るはめになりそう。
それを言うならば、艶花亭までまっすぐ行ってくれるかどうかも危ないが。
そういえば、ヒエラルキーなるものがありそうな。
「ここへ来る前、リズム嬢に会いました。
先に戻っていると思うので、あまり待たせないほうがよろしいかと」
――――PL――――
楽しい。