好きを伝えて
「こういう時はヴェンだったらなんて言うんだ?」
その問いに、私は歩みを一瞬止めることになった。
アイリ嬢の家へと良く途中、アポロ君に相談されたのは模範解答。
友達と喧嘩をしてしまった時。
自分が悪いと思っている時。
仲直りがしたい時。
私ならなんと言うか、なんと言えば許して貰えるか。その言葉は何か、と。
「そうですねぇ......」
歩みを再開しながら、考える。
はて、私に友人は......まぁ何人かいるが、喧嘩したことがあるだろうか。
一緒に暮らしていた彼は友人だが、喧嘩をした覚えがない。
ルキスラに来てから出来た友人も、喧嘩をした事がない。
では、私が悪いことをした事は?
......はて。法に触れるほどの悪行をした覚えはないし、そうであるなら私はすでに冒険者でなくなっているだろう。
悪いこと悪いこと。はて。人の家の庭に入ることは悪いことであろうか。しかし、それで叱責された記憶もないから、別に悪いと言う程の事でもないのだろう。
仲直りがしたい時。これも困った。仲たがいするほどのことは無かったように思う。
こうなると少しばかり、普段は意識しない失われた記憶が惜しくなるというものだ。
それがあれば少しはまともな助言が出来たのかもしれないのだから。
「まず、ごめんなさいと謝りましょう。大切な小鳥を逃がしてしまったのですから。
謝らないでいる方が格好悪いですよ。きちんと自分がしたことを認められるのが、大人への第一歩ですからね。
恥を恥だと思わないことの方が恥ずかしいのだと覚えてください」
それから、再発防止策を講じるべきだが、これは何故小鳥が逃げたのか分からないと言うのだから難しいだろう。
「それから、これからも仲良くしたいことを伝えてみては如何でしょう?」
今まで許して貰えたからと胡坐をかいていては行けないだろう。アイリ嬢は大変に怒っていたようであるし。
「あとは、アポロ君がアイリ嬢を好きだと言う事も、ね?」
好きという感情はとても素晴らしいものだと思う。友人でも、家族でも、勿論恋人であっても。
彼らにはまだ早いかもしれないが、好意を伝え、伝えられるのは心が温かくなるものであるのだから。
さて、アイリ嬢の家に着いたら、私は門で見守ることにしようか。
遅くなってすみません!無事誘えたら花束と色紙買いますね!!