まっすぐに
シィノヴィア(紫乃) [2016/06/23 22:41:50]
少し早めに来たつもりだけれど、すでにそれなりに人がいた。
このような催しに来るのは初めてなので、勝手がわからない。
受付の人に席を聞いて、どうにか座れた。
わりとステージに近い。
目の端に銀色が見えたので顔を向けると、舞台袖のスラップ殿がいた。
向こうもこちらに気づいたらしく、手をふってきた。
あ......。今のはリズム嬢だろう。
シィノが手をふり返したのは見えただろうか。
>「シィノヴィアさん、こちらにいらしたんですね」
「舞台のほうへいなくてもいいのですか」
>「いつもはこちらから見ることはないんですけどね。
> 彼らの最初のステージですから。
> 是非とも正面から見たいと思ったのです。
> ......お隣、ご一緒してもよろしいですか?」
うなずいて肯定する。
帝都に近い部類に入るだろうこの街で公演をするまでには、
多くの手回しが必要だったに違いない。
宿や劇場の手配もそうだが、まず蛮族である彼らがまともに人族と話せるまでの
信用を得るまでには、長い時間が必要だったのではないか。
>「今日は俺たちの......この街での最初のステージだ。
> 俺たちのことをあんたたちがどこまで知っているかは知らない。
> あんたたちが俺たちをどこまで受け入れてくれるかもわからない。
> それでも......俺たちは伝え続けるつもりだ。
> 真の魂を音に乗せて、だから聞いてくれ......!」
ヴォイス殿の、静かだが率直な言葉は、耳に心地良い。
シィノの鼓動は、いつの間にか期待に鳴っていた。