その道を
演奏の途中、メンバーのフードがずれ、角が露わになった。
遠くない所から小さく吸い込むような悲鳴すら聞こえた。
数多居る観客の全てが彼らのそれを承知した訳では当然ないだろう。だが大多数は知っていたか、もしくは感付いていたか、多少の動揺は見えれど公演は混乱の坩堝と化すような事はなかった。
> 「仕方ないか......。
> いいよな......?」
そもそもそれは事故だったのか、はたまた。
わずかな瞬間だけ照明が落とされ、再び光が戻った先には、姿を偽らずに晒す彼らがいた。
紛れもない、蛮族――打倒すべき種族。
> 「これが俺たちの本当の姿だ。
> あんたたちが恐れ......嫌う蛮族っていう奴だ。
> 俺たちはあんたたちの敵になるつもりはない。
> だが......この姿で幾ら言葉にしても簡単には伝わらないとわかっている。
> 言葉なんて......幾らでも嘘を吐ける」
> 「だから俺たちが言葉じゃなくて、音で伝える。
> 音楽は嘘を吐かない。
< 俺たちの真の気持ちを届けられる......そう信じている。
> すぐに届かなくとも俺たちは奏で続ける。
> 届くまで......倒れるまで......。
> あんたたちが俺たちをどう思っているか知らないし、知る必要もない。
> ただ聞いて欲しい、俺たちの魂の音楽を......!」
そして、彼らの奏でる音の激しさは一段と強くなり。
万雷とは言わずとも、十分な拍手を以て、その幕は落とされた。
* * * * *
> 「教科書みたいな演奏ばっかりだと飽きるから。
> たまにはこんな暴力的なのも悪くないわね」
デイジーと私は拍手に加わりはしなかった。
だけど、それは気に召さなかったという理由では決してない。
> 「それにしても、また一つ面白そうなものが出てきたわね。
> 蛮族の楽団......いったいこの街でどうなっていくのかしら」
席を立ち去っていくデイジーを追う事も呼び止める事もせず、椅子に腰掛けて目を閉じたまま、そんな言葉を耳の端に捉えた。
少しの間だけそうして時間を過ごし、移動する人の波が落ち着く頃に、私はステージを後にした。
* * * * *
暗くなったコンチェルティアの街を、マフラーを鼻まで上げてマントをくるりと身体に巻き付け、一人で歩く。
トゥルー・ソウルズの目指す道は厳しい道になるだろう。人族と蛮族の確執は、もはや個の動きでどうこうできるものではない程に深い。
だけど。
だからと言って、その道を往くのが愚かであるとは毛頭思わない。
今ここにある自分がそうすべきだと信じたなら、例え正道でなくともそうする。
それこそが自由であり、個が個である証明に他ならない。
そう思うからこそ、進む手段も方向も全く違うとは言え、私は彼らが嫌いではない。
今までも、今現在も、そしてこれからも、きっと様々な壁が彼らの前に立ちはだかるだろう。
彼らがその壁に屈せず、自分たちのエゴを貫き続ける事を、私は楽しみにしている。
街の灯りがぽつぽつと視界を照らす中、濃く溶いた墨のなかに少しだけ水を足したようなどこか透明感のある夜空を、滑るように茶色い小鳥が空を渡り、最後に自らの羽根で速度を殺しながら私の頭上に降り立った。
小さな友人にそっと手を伸ばし、その嘴が指先をつつくくすぐったさに、私はマフラーの下で微笑んだ。
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PL@一葉より:
特に行く所もやる所も無く。
やりたい事はまあやったかなーと思うので。
■ダイス
23:38:58 一葉@カプリ 剣のかけら2つ 2d6 Dice:2D6[5,4]=9