描いた脚本に道化が足りなければ、その時は舞台袖を

 カプリ(一葉_3) [2016/07/03 17:36:42] 
 

> 「探したで、カプリちゃん!
>  俺が戻ったらヴィクトリアちゃんがまだお礼言えてない言うからな。
>  結構あちこち歩き回ったんやで?」

> 「もしかしてコンチェルティアからもう発たれたりするのですか?
>  本当なら今回のお礼として
>  私の家までしっかりとご招待させていただきたいのですけど」

 ご丁寧に二人揃ってこちらに歩み寄る影を見て、目を細める。

「あら、折角締めの口上まて言ったのに。
 幕が下りたら素直に家に帰るのがマナーよ。
 もっとも、貴女は観客ではなくてパトロンでしたかしら、スィニョリーナ?」

 ゆっくりと歩を進め、その顔を見上げる。
 例え月明りの下でも日の当たる庭に咲く花のような、そんな華奢で可憐なその顔を。

「どうかしら、公演を終えて。
 貴方の見た夢への玄関口は、描いた通りの扉だった?」

> 「今回の彼らの公演、それなりに成功であったと私は思っておりますわ。
>  まだまだ課題はありますけど、
>  私に出来ることを一つ一つやっていきたいと思いますの」

「良い心掛けね。
 私はそういうの、ちょっと苦手だから。手管はどうあれ、早ければ早い程、良い」

 くすくすと嗤って言う。
 そんな態度に気を害すようにも見えず、ヴィクトリアは小さな装飾品を差し出した。

> 「だから、カプリさんにどうかお礼をさせてください」

 受け取ったそれは、赤い薔薇の髪留め。
 流石は貴族というか、質が良い事は一目で分かった。

> 「カプリさんにはお金よりもこちらの方が似合うかと思いまして。
>  不要でしたらお売りになっていただいても構いませんわ。
>  もともと仕舞い込まれておりましたもの。
>  有効的に使って頂ければそれが最善だと思いますわ」

 髪留めを少し見つめ、それから軽く噴き出してしまう。

「鏡を見てから仰いなさいな。
 貴女の綺麗な髪に添えられていた方が、余程映えるでしょうに。
 でも、まあ」

 一度髪飾りを軽く上に放り、落ちてくる所を再びしっかりと握り締める。
 白い肌に紅を散らすのは、嫌いじゃない。

 かつて誰かがウサギと呼んだ、この瞳のように。

「頂いておきましょう。
 グラッツェ、スィニョリーナ」

> 「あんな、さっきもう一回ヴィクトリアちゃんに頼んだらな。
>  俺が協力者として手伝うこと認めてもらえたんや。
>  全部カプリちゃんのおかげやで、ほんま、おおきにな。
>  おかげで一歩前進やで!
>  ......ヴィクトリアちゃん自体はあんまり意識してへん気がするんやけど」

「当たり前じゃない。今更何を言ってるの」

 やはり気付いていないのか。本当に男は鈍臭いというか。
 自分の立場でばかり物を考えて、相手の立場で考えていないから、そんな簡単な事も気付けない。誰かが誰かを想っているなんて、少しその人の立ち振る舞いをその人の視点から考えてあげれば、すぐに分かるのに。

 でも、まあ。
 そんな風に自分が一番可愛いと思うからこそ、また面白い舞台が出来る事もある。

「精々頑張りなさい。
 もしこれが百万回目の世界の輪だったら、奇跡の一つぐらい起きるかもしれないし。
 でもね、グレイ。そこに至るのも、今ここに居るのも、全て貴方が選んだからなのよ」

 ふわりと一つ回りながら身を跳ばせ、二人から少し離れる。
 マフラーの二つの終端が空に一瞬だけの円を描く。
 そして今宵三度目の笑顔は、不敵に口の端を吊り上げて。

「私のおかげ? 冗談、御免被るわ。
 カプリは言ったはずよ。自分の手で掴まなければ、容易にその手から零れ落ちるって。
 望んだのなら離さない様に。そうすれば、少なくともそれ以上遠くなる事は無いはずよ」

 つとと歩を踏み、マントをスカートのように端を少し持ち上げ、膝を曲げて。

「お二人とも、御機嫌よう。
 そうね、もし貴方達が描いた脚本に道化が足りなければ、その時は舞台袖を探しなさい。
 私はいつだって壇上じゃなくて、そちらに居るはずだから」


 * * * * *


 そしてまた私はコンチェルティアを離れる。

 行き先は決まっておらず、路銀は無く。
 いつものように、小さな友人と、ヴィバーチェと、ナイフを道連れに。

 雪結晶の形をした髪飾りを外し、赤く鈍く光る薔薇の髪飾りを代わりに付けると、ふふと小さく微笑んで、頭上の友人に語り掛けた。

「さあパストラ。次は何処へ行こうかしら?」


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PL@一葉より:
 エンディングとうこーう。
 薔薇の髪飾りは有り難く頂きます。また専用化しなくちゃ。

 終わり方がパターン化してきたなあ。
 でも、これがカプリらしいというか、満足はしてます。