伸翼のエネルギー
ルキスラを知らないなんて意外だった。農村に住む人でも、名前ぐらいは聞いたことがありそうなのに
いくら出かけることが少ないとはいっても、そんなことあるかなあ。もしかしたら、想像以上に遠くへ来てるのかもしれない
* * *
扉をくぐると、温度がさらに上がった。炉と赤くなった鉄から湧き出ているんだ
「ああ...、この音、におい、熱気!なつかしいな」
実家の仕事場を思い出して、ちょっぴりこいしくなる。
「ここは鍛冶工房なんだ。 誰かのために鉄を打っているわけじゃない。 自分のため、ただ打ちたいから打ち続ける野郎たちの集う場さ」
「...売り物とかじゃなくて?
使うために作るんじゃなくて、作るために作るのか。ずいぶん変わってるなあ
まぁ、鍛治は楽しいからね。気持ちはわかるよ」
「お前さん、鉄を打つのは好きかい?
だったらやってみるといい」
「いいの!?やったッ!!
どうしよっかな。記念に小さい包丁でも作ろうか
......けど、頑張っても完成まで丸二日かかりそう。それはなんか悪い気がするから、見学だけさせてもらうよ」
歩きながら、作業の様子をぐるっと見て回る。本当にナイトメアしかいない
みんなの表情も、真剣そのものだった
「んん~~~。相槌の息がぴったりだね!
団結力を感じるよ」
作業工程は、お父さんと微妙に違ったりするのかな?材料になる鉱石が、どんな物なのかも気になる
それにしても暑いなあ。毎年夏は苦しいけど、今はその3段階ぐらい上だ
逃げ場を失った熱が鎧のなかで反響して、頭がどうにかなりそう。ここなら安全そうだし、武装は解いてもいいんじゃないかな
いいや、折れるのは心が弱い証拠だ。あともう少しだけ我慢できるようになろうよ
......半袖でも十分暑くて特訓になりそうだし、ゾンビみたいな肌を不快に思う人はここにいない。こんなに着る必要は全然ないよね
「あ"っ"づぃ"ぃ"ぃ"ぃ"~~~」
ぐああああああ限界だッ!無理しても続かないから、少しずつペースをあげてこう
工房の隅まで走って、帽子とマフラーを取った。わたし自身びっくりするような早さで、鎧とカバンを外す
それから薄目のコート、綿を編み込んだチョッキ、長袖の服とズボン、靴下まで脱いだ。残っているのはTシャツと半ズボン、胸の前に下がった聖印だけだ
「はぁーーぁ...」
壁を背に座ってから、指を組んで大きく伸びをする。大きな声を出したいところだけど、邪魔になりそうだからやめておこう
パタパタ扇いで涼んだら、カバンからタオルを取り出して汗を拭く
まだ暑いげど、ずっとましになった。苦しかった後の、この開放感が心地いい
宿屋の寝室以外で、こんな格好になったのは何年ぶりだろう?水袋を拾い上げていっきに飲み干した
上着とマフラーは当分使いそうにないから、たたんでカバンに入れた。帽子からはリナリアさんの花飾りを抜き取って、左胸の上、シャツの襟に留めた
それにしても、よくこんなに着たまま来れたよなあ。自分で言うのもあれだけど、感心するよ
.........うーん。やっぱり、歩いて来たなんて変だよなあ
せめて、寝ながら馬車に乗ってきたとか.........そうか!瞬間移動だッ!
魔法で飛ばされてきたと考えれば、今までの違和感が全部説明できる。そんな魔法があるのかはわからないけど、あのとき言われた《魔剣》ならできるかもしれない
工房の中をもう一度よく見渡して、子供の姿を探す。...子供じゃないのかもしれないけど、あの声は若くて知的なイメージがあった
ここに来る直前、わたしはたぶんその人に合った。ロシレッタとここを行き来する方法、狙われてるとか不穏な言葉の意味も、詳しく知ってるはずだ
見つけて話を聞きたいけど、手がかりが少なすぎる。見守ることしかできないとか言ってたから、教えてくらるとも限らない
色々考えながら水袋を口に運ぶ。そういえば空っぽだった...水も貰わないと
スミスさんに聞いてみようか。...うーん、あまり知らなさそうだし、説明もけっこう難しい
質問を変えてみようか
新しい靴下を履いて、スミスさんのところへ戻った
「スミスさん、水を売ってもらえないかな?10ガメルしかないけど、これで買えるだけ
あと、この辺りにすごい魔剣があるとか聞いたことない?ちっちゃなことでいいから、それっぽい噂があれば知りたいな」
「お礼に、何か困ってることを手伝わせて!
怪我とか病気を治せるし、戦闘経験があるから魔物退治もできるよ。鍛治の知識も多少はあるから、剣を研ぐぐらいはできると思う」
―――――――――――――――――――――――――――――――
PL玉鋼より
真夏日に長袖を着て過ごすだけでも苦痛なのに、上着と鎧と炉の熱気と弱点が加わったら、どうなってしまうのだろう......
本文は長くなりましたが、タタラの行動をまとめると以下のようになります
・水を売って貰えないか尋ねる
・魔剣について知っているか尋ねる
・手伝えることがないか尋ねる