夢の中で食うパンが不味い件について
気が付いたら落ちていた。
「......おぉオあア!?!?」
真っ暗などこかをひたすら落ちている状況で、しばらく手足をバタつかせ、それでも一向に地面に激突しようとしないと気付き、ようやく考える余裕が出てくると、結論はすぐに出た。
「............なんだ夢か」
最後の記憶が、《火竜の手羽先亭》の厨房で新しいジャムを作り終えてから自室のベッドに入ったとこだった。
やけに落下速度はゆっくりだし、こんな状況に思い当たる節がない。どう考えても夢だなこりゃ。
しかし、夢の中でどこかから落ちて目が覚める、というのは何度か経験してるが、『落ち続ける夢』ってのは初めてだな。いつになったら目が覚めるんだ?なんて考えてたら、
>「......える......かい?」
「...お?」
どこかから声が聞こえた。
>「......聞こえるかい?
ボクは白の心。
心と心を繋ぐ魔剣の半身さ」
「なんだぁ?」
人型の光が現れて話しかけてきた。
>「ボクの役目は心を作ること。そんなボクはふとあることに気がついたんだ。簡潔に言うと、キミの心は狙われている。ボクと同じ魔剣の半身である黒の心によって」
>「だから、ボクはキミをキミの心へと誘うことにした。ボクは信じて見守ることしかできない。黒の心の脅威に打ち勝つことができるのは、強き心の持ち主だけさ。ボクはキミたちがそうであると信じている」
「...んぁ?」
俺の夢なのに何言ってんだかわかんねーよ...
混乱しているうちに、足が地面に着いた。
>「キミが触れたのはキミの心の世界の一つ。キミの力だったり想いだったりの一片が形となった世界。その世界こそが黒の心、穢れや神の摂理から外れた者たちの標的さ。だけど諦めないで、怯えないで。信じていれば......心と心はきっと触れ合うから」
「......おう!任せとけ!」
言ってる意味はよくわからなかったが、断片的な『打ち勝つ』『信じてる』『諦めないで』『怯えないで』などといった単語から、なにやらこいつが俺に期待してることだけは伝わった。
要は、よくわからんが敵みたいな何かをブッ飛ばせばいいのか?なんかそんな感じだろ、多分。
そして真っ暗だった視界に光が差してきた。
* * *
見渡す限りの砂、砂、砂だ。
これが話には聞いたことのある『砂漠』ってやつか?
辺り一面灰色一色で、眺めていたら目がおかしくなりそうな風景だ。
まるっきり悪夢の光景だなこりゃ...
それで、敵はどこにいるんだ?
と思って辺りを見渡すと、遠くに砂漠と同じように灰色の街みたいなもんが見える。
とりあえずそこへ向かおうとしたら、向こうから人影が近付いて来た。
早速敵か?
その人影は弓を背負った人間の男だった。顔を確認できる距離からも、弓を構えることなく更に近付いてくる。
こちらは警戒心は表に出さず、両手はダラリと下に垂らしながらもいつでも攻撃・防御双方に即座に移れる自然体の構えだ。
>「こんなところで何やってるんだ?
戦えそうな格好だし、あんたも泉が目当てかい?んなら、オレと一緒だな」
男は表面上はこちらを警戒する様子もなく、親しげに話しかけてきた。
「...いや、なんつーか、道に迷ってな。泉があるのか?」
言われて初めて、自分が冒険に出る時のフル装備でいることに気が付いた。
パン焼き道具まであるよ...
これならパンが作れるな、などと考えたら腹の虫がなった。
ああパン食いてぇな...
>「なんだ、腹減りなわけ?しょうがないな、オレのやつをちょっと分けてやるよ。ほら、食いな?」
そう言って男は自分の袋の中からパンを差し出してきた。
外で見知らぬ男が差し出してきたパンなんて普通なら警戒して食わないんだが、夢の中でまでそういうのは面倒くせーよな。ありがたくいただくことにした。
「ありがとよ」
しかし、俺の夢に出てくるパンにしちゃ美味そうに見えねーな...
一口食ってみて、やっぱり美味くない。つーか、不味い。
>「パンの代わりに一個お願いがあるんだけど、聞いてくんない?オレ、今から泉を目指すところでさ」
(こんな不味いパン食わせてお願いだと!?こね方も発酵も焼き方も何もかもが不完全のこの出来損ないで!?てめー俺を舐めてんのか!?つーかパンを舐めてんのか!?いっぺん死ぬかコラ!?)
などといった暴言の数々をパンの残りと一緒に飲み込み、笑顔を作る。
「ごっそさん。美味かったぜ。俺にできることなら協力するぜ」
パンは美味くなかったが、いや、不味かったが、それでもこいつが自分の分から分けてくれたパンだ。それだけの価値は認めなきゃならねぇ。例え不味くともだ。
>「ほら、泉の周囲ってたまに過去の遺物とか動いてんじゃん?」
「じゃん?」とか言われたって知らねーよそんなもん...。そんなことよりまともなパン食いてぇよ。
>「だから、あんたみたいに戦える相手が一緒だと心強いなって」
>「ま、無理にとは言わねーし、パン食っても返せって言わないから安心しな」
要するにPT組もうってわけか。さすが夢だけあって、ここらへんは話がわかりやすいな。夢なのにパンが不味いのは納得いかねーけどな。泉とやらに倒すべき敵がいるのか?
「いいぜ。俺はデニッシュだ。よろしくな」
二つ返事でOKして右手を差し出した。パンは不味かったけどな。
しかし長い夢だなこりゃ...
いつ覚めるんだ?
―――――――PL
こんな感じで大丈夫でしょうかね?
しかしパンを作りたくても砂漠では肝心の薪が手に入らないことに気付いてしまった...(汗)
00:30:01 ヨ太郎@デニッシュ 心をつなぐ魔剣についての見識判定 2d Dice:2D6[5,2]=7